6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

格とは?

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格(case)

 (case)とは、名詞類が文中の他の語に対してとる意味役割のことです。仁田ら(2000: 49)は「名詞類が文の中で他の単語に対してとる関係のあり方を表す文法カテゴリ」と定義しています。名詞類の格を表す格標示(case marking)の方法は言語によって異なります。

 例えば、日本語では「が」「を」「で」「の」などの助詞を名詞に後接させて格標示します。「が」「を」「で」などは名詞の述語に対する意味役割を表し、「の」は名詞の他の名詞に対する意味役割を表します。

 (1) 私 カレー 食べる。
 (2) カレー 私 食べる。
 (3) うち 2階 走っている。

 (1)においては、述語「食べる」の動作主が「私」であることを「が」で表し、述語「食べる」の対象が「カレー」であることを「を」で表しています。(2)のような文では、述語「食べる」の動作主が「カレー」、対象が「私」になります。(3)は、述語「走っている」の動作主が「うちの猫」であることを「が」で表し、述語「走っている」の場所が「2階」であることを「で」で表しています。一方、「猫」が「うち」に所属していることを「の」で表しています。名詞に付与される格は名詞に後接する「が」「を」「で」「の」などの助詞によって決まります。このように文中の要素間の格関係を標示する助詞は格助詞(case particle)と呼びます。

 ※名詞類が述語の動詞句に対してとる意味役割のことを「格」とする狭義の考え方もあります。この考え方だと、名詞が他の名詞に対してとる意味役割を表す属格、ノ格の「の」は格助詞に含まれないことになります。

格の名称

 言語学では、格は一般にその機能によって主格、対格、与格などの名前で呼ばれますが、日本語学ではガ格ヲ格ニ格などと格助詞の形式をそのまま使って呼びます。日本語に現れる格は次のようにまとめられます。(鈴木(2015: 44)の表に日本語学での格助詞の名称を追加しました)

格助詞 格の名前 文例
ガ格 主格(nominative) 太郎が来た。
ヲ格 対格(accusative) 太郎がラーメンを食べた。
ニ格 与格(dative) 太郎がヨーコに花を贈った。
ノ格 属格(genitive) 太郎の花は大きい。
から カラ格 奪格(ablative) 東京から帰った。
まで マデ格 到格(terminative) 学校まで走った。
デ格 場所格(lovative) スタジオで踊った。
具格(instrumental) ナイフで切った。
ト格 共格(comitative) 次郎と遊んだ。
へ/に ヘ格ニ格 向格(allative) 学校へ行った。
より ヨリ格 比格(comparative) 次郎より頭が良い。

 格助詞と意味役割は必ずしも1対1で対応するものではありません。

 (4) 新しい靴 走る。
 (5) 公園 走る。

 例えば、(4)は述語「走る」の道具が「新しい靴」であることを「で」で表し、(5)は述語「走る」の場所が「公園」であることを「で」で表しています。同じくデ格を用いていますが、その意味役割は違います。日本語学では意味役割が違ったとしても格助詞の形式が「で」なのでまとめてデ格と呼びますが、言語学ではこれを区別してそれぞれ具格、場所格と呼び分けられます。格は言語によってどう呼ぶか異なるので、日本語学の格の規定と他の言語の格の規定は当然異なります。

英語の格標示

単数 複数
主格 属格 対格 主格 属格 対格
一人称 I
(私が)
my
(私の)
me
(私を)
we
(私たちが)
our
(私たちの)
us
(私たちを)
二人称 you
(あなたが)
your
(あなたの)
you
(あなたを)
you
(あなたたちが)
your
(あなたたちの)
you
(あなたたちを)
三人称 he
(彼が)
his
(彼の)
him
(彼を)
they
(彼らが)
their
(彼らの)
them
(彼らを)
she
(彼女が)
her
(彼女の)
her
(彼女を)
it
(その人が)
its
(その人の)
it
(その人を)

 ※鈴木(2015: 45)の表をベースに、格の名前を修正して日本語訳を追加しました。

 英語においては、代名詞が主格、属格、対格の区別をします。 “I” を用いれば主格、つまり日本語でいうガ格を表し「私が」という意味で使われます。”my” なら属格で日本語の「私の」にあたるノ格、”me” なら対格で日本語の「私を」にあたるヲ格を表します。

 (6) I ate a cake.
     私が ケーキを 食べました。
 (7) My school is closed tomorrow.
     私の 学校は 明日 休みです。
 (8) He punched me.
     彼が 私を 殴りました。

中国語の格標示

 中国語の格について、仁田ら(2000: 51)は「名詞の形態的な格は存在しないが、文の中での名詞の位置が格のはたらきをしているということができる」と言ってます。これについて詳しい中国語の例は無かったんでここから推測でまとめると… 

 (9) 吃了一块蛋糕
     私が ケーキを 食べました。
 (10) 我的学校明天放假。
     私の 学校は 明日 休みです。

 主格や対格は語順によって決まるようです。(9)では述語「吃」の前に「我」、後ろに「一块蛋糕」を置くことで、述語「吃」の動作主が「我」、その対象が「一块蛋糕」であることを表しています。属格は日本語と同じように名詞の後ろに「的」をつけて表しています。対格について補足すれば、中国語の「把」は名詞に前接して述語の対象を表します。中国語の対格は語順によっても、前置詞によっても表せそう。このあたりは参考にした文献などはないので話半分にしてください。

参考文献

 鈴木孝明(2015)『日本語文法ファイル―日本語学と言語学からのアプローチ―』43-49頁.くろしお出版
 仁田義雄・村木新次郎・柴谷方良・矢澤真人(2000)『文の骨格』岩波書店
 森山卓郎,渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』29-30頁.三省堂




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