6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

結合価とは?

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結合価(valence)

 結合価(valence)とは、動詞がとる必須のの数のことです。
 結合価という用語はもともと化学の分野の用語で、元素が他の元素と結合する能力を表す数を指します。例えば、水分子H2Oの結合から分かるように、酸素原子は水素原子2個と結合するため、原子価は2価です。この考え方に着想を得たフランスの言語学者ルシアン・テニエール(L.Tesnière 1959)は動詞を原子に見立て、「結合価」という用語を言語学に導入しました。言語学でもこれと同じく、結合価は動詞と結びつくことのできるの数を表すために使われています。

 テニエールは動詞述語を、述語の動詞が要求するの数によって無価、1価、2価、3価の4種類に分類しました。

 (1) It rained. (雨が降った)
 (2) He is sleeping. (彼は寝ている)
 (3) I love you. (私はあなたを愛している)
 (4) I put a book on the table. (私は本をテーブルの上に置いた)

 (1)のように SV の文型をとり、Sが人称の it であるものが無価です。(2)の動詞 sleep が要求するは動作主ただ1つなので結合価は1。(3)の動詞 love が要求するは動作主と目的語の2つなので結合価は2。(4)の動詞 put が要求するは動作主と目的語と場所の3なので結合価は3です。

 ※日本語に無価は無いのではないか?と思います。「雨が降った」は「降る」がその動作主として「雨」を要求していて1価です。日本語記述文法研究会(2009)にはその動詞の中に主体が含まれているためにガ格すら取りにくくなっている0項動詞の例として「春めく」「停電する」などを挙げていますが、これでさえ「景色が春めいてきた」「一帯が停電した」なんて言えるから1価じゃないかと思ってます。

 ちなみに、と結合価は指しているものは同じですが、の話をするときは動詞が要求するの意味役割(semantic role)に注目、例えば「嫌う」なら「嫌う」という動作を行う動作主とその動作が及ぶ対象である主題(theme)に注目しています。結合価の話をするときは動詞が要求するの数のみに注目しています。「結合価1」は ”動詞が要求するは1つ” という意味ですが、「一項動詞」は ”この動詞はを1つとる動詞” と言ってます。

結合価を増やす手段

 日本語においては、間接受身はその能動文に比べて動詞の結合価が1つ増えます。間接受身は能動文が表す事態によって影響を受ける人物を主語に置きます。そのため、能動文には明示されていない人物が現れ、結合価が1つ増えます。

 (5) a 父が 死んだ。     (結合価1)
     b 私が 父に 死なれた。 (結合価2)

 使役態も能動文にはいない人物を主語にし、能動文の表す事態の成立に影響を与える主体(使役者)として表現するため、結合価が1つ増えます。

 (6) a     子供が 部屋を 片づけた。   (結合価2)
     b 母親が 子供に 部屋を 片づけさせた。 (結合価3)

参考文献

 漆原朗子(2016)『朝倉日英対照言語学シリーズ4 形態論』43頁.朝倉書店
 小泉保(2007)『日本語の格と文型―結合価理論にもとづく新提案』231-251頁.大修館書店
 斎藤純男,田口善久,西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』10,115-116頁.三省堂
 仁田義雄ら(2000)『文の骨格』56-57頁.岩波書店
 日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス
 リンゼイ J.ウェイリー,大堀壽夫ら訳(2006)『言語類型論入門-言語の普遍性と多様性』184-201頁.岩波書店




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