令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説

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令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説

問1 使役形の作り方

 使役形の作り方ですね。

 とりあえず五段動詞「書く」を使って、使役形を含むいろんな活用形を書き出しローマ字を添えてみます。

 書く   kak-u
 書きます kak-imasu
 書かない kak-anai
 書かれる kak-areru
 書かせる kak-aseru <使役形>

 すると、いずれにも共通する部分は kak- です。これは動詞の活用しない部分ということで動詞語幹と呼ばれています。そしてこの動詞語幹に -aseru をつけると「書かせる」のような使役形が作れます。つまり  五段動詞はその動詞語幹に -aseru をつけると使役形が作れます  。「貸す(kas-u)」なら「貸させる(kas-aseru)」、「掘る(hor-u)」なら「掘らせる(hor-aseru)」ですね。

 次に一段動詞を見ます。一段動詞の例として「離れる」を使ってみましょう。

 離れる   hanare-ru
 離れます  hanare-masu
 離れない  hanare-nai
 離れられる hanare-rareru
 離れさせる hanare-saseru <使役形>

 どの活用形にも共通する部分は hanare- でこれが動詞語幹。そして動詞語幹に -saseru をつけると「離れさせる」と使役形が作れます。つまり  一段動詞はその動詞語幹に -saseru をつけると使役形が作れます  。「流れる(nagare-ru)」なら「流れさせる(nagare-saseru)」、「眺める(nagame-ru)」なら「眺めさせる(nagame-saseru)」です。

 というわけで、   ア   に入るのは  -aせる   イ   に入るのは  -させる  で、答えは1です。

問2 自他の対応

 下線部Aの内容からまず説明します。
 例えば「閉める」という他動詞は、意味的・形態統語的に対応する自動詞「閉まる」があります。他動詞「割る」だったら「割れる」ですね。こういうのを自他の対応と言います。しかし、どんな動詞でも自他の対応があるというわけではなく、例えば自動詞「死ぬ」や「降る」は対応する他動詞を持ちません。

 自動詞:死ぬ ⇔ 他動詞:なし
 自動詞:降る ⇔ 他動詞:なし

 でも本当に無いかというと、実はそんなことありません。下線部Aの内容にしたがって、自動詞「死ぬ」と「降る」を使役形にしてみましょう。そうすると「死なせる」「降らせる」となります。この活用形は対象を「を」で取るので他動詞になっています。

 (1) 犯人が子ども死なせる。 <他動詞>
 (2) 神様が雨降らせる。   <他動詞>

 こういうふうに、本来自他の対応がない自動詞であっても使役形にすれば臨時的に他動詞を作れます。これについて詳しくは「無対動詞に対応する自他動詞の補完」にまとめていますのであわせてご覧ください。

 では各選択肢を見ていきます。各選択肢には見た感じ使役形が並んでいて他動詞文になっているので、その使役形を取り除いて辞書形にし、使役形以外の対応する他動詞があるかどうか見ましょう。

選択肢1

 他動詞「終わらせる」の使役形を取ると自動詞「終わる」になります。これに対応する他動詞は「終える」です。
 この選択肢は対応する他動詞「終える」を持つ自動詞「終わる」を使役形「終わらせる」にしているので、下線部Aに該当しません。この選択肢は間違い。

選択肢2

 他動詞「着させる」の使役形を取ると「着る」になりますが、なんと「着る」は自動詞じゃなくて他動詞です。どっちも対象の「を
」をとって「服を着させる」「服を着る」と言えるから。他動詞を使役形にしても他動詞になるだけ。これは選択肢Aに反するので間違いです。

選択肢3

 他動詞「泊まらせる」の使役形を取ると対象の「を」を取らない自動詞「泊まる」になります。これに対応する他動詞は「泊める」があります。対応する他動詞「泊める」を持つ自動詞「泊まる」を使役形「泊まらせる」にしているので下線部Aに反します。

選択肢4

 他動詞「走らせる」の使役形をとると自動詞「走る」となります。これに対応する自動詞はどうやら無いようです。対応する自動詞がないので、臨時的に使役形「走らせる」にして他動詞文を作っているわけですね。これは下線部Aの内容に合致します。答えはこれ。

 答えは4です。

問3 自動詞と他動詞の混同

選択肢1

 「発達する」ではなく使役形「発達させる」なら正しい文になります。
 自動詞「発達する」と他動詞「発達させる」を混同していて、使役形「発達させる」を使うべきところでそれが使えていません。下線部Bに当てはまります。

選択肢2

 下線部の自動詞「到達する」だけを訂正するなら、他動詞「達成する」とかに言い換えればいいと思います。
 この学習者は自動詞「到達する」を他動詞だと勘違いしているかもしれません。つまり自動詞と他動詞を混同してます。でも下線部Bの「使役形を使うべきところで使えていない」には当たりませんから、これが答え。

選択肢3

 この文は「動揺し」ではなく使役形にして「動揺させ」とすべき。
 「動揺する」は自動詞で「動揺させる」は他動詞です。つまり自動詞と他動詞を混同して、しかも使役形「動揺させる」を使うべきところで使えてない誤用にあたります。これは下線部Bの誤用です。

選択肢4

 「変化し」ではなく使役形「変化させ」とすべきです。
 「変化する」は自動詞、「変化させる」は他動詞だから、自動詞と他動詞を混同しているようです。使役形「変化させる」を使うべきなのに使っていない誤用だから下線部Bに当てはまります。

 答えは2です。

問4 <強制>と<許可求め>

 (1) 息子に部屋を掃除させた。  <強制>
 (2) トイレに行かせてください。 <許可求め>

 使役形はその名の通り、誰かが誰かに行為を強制的に使役するという典型的な意味を持ちます。その用法は(1)です。しかし使役形は全てが<強制>の意味を表すわけではなく、許容とか放任とかの意味も持っています(→使役文の意味)。そのうち「使役形+てください」と使うと(2)のように<許可求め>の表現が作れます。<強制>よりも先に<許可求め>の表現を教えるメリットは何でしょう。

選択肢1

 (3) (先生が)(私を)トイレに行かせてください。 <許可求め>

 (3)の<許可求め>の文において、使役の主体は「先生」で、被使役者は話し手である「私」です。この選択肢には使役の主体が話し手自身に固定されていると書かれていますが、それは↑の文を見れば間違いです。

選択肢2

 普通、使役形はテ形よりも後に勉強するものだから、「食べて」「書いて」などのテ形を練習させるために「使役形+てください」を使わせるのは違和感があります。テ形を練習させるために「使役形+てください」を使わせるのであれば、その前に使役形を勉強しておかないといけないことになりますが、テ形よりも先に使役形を勉強する教科書はちょっと知らないです。これはダメ。

選択肢3

 例えば聞き手に対する<強制>の表現として「部屋の掃除をさせるよ?」みたいなことを言ったとします。<強制>は相手に何かの行為をさせることになるので、相手がその行為をしたくないと思っていれば、その発話によって掃除をしなければならないという圧力にさらされ、ネガティブ・フェイスが侵害されるでしょう。つまりこの発話はネガティブ・フェイスを侵害する可能性があるネガティブ・ポライトネスです。このようなフェイスを侵害する発話行為は普通回避されるので、使用は避けたほうがいいというのも事実です。
 しかし! これがテ形よりも先に「使役形+てください」を学ぶメリットではありません。何の関係もないのでこの選択肢は間違い。

選択肢4

 <強制>の意味を持つ使役文、例えば「息子に部屋を掃除させた」とか「友達に買い物に行かせた」とかは、実際のコミュニケーション場面で相当現れない、珍しい表現です。<強制>の使役文は学んでもそうそう使う機会がないので、私は聞いて意味が分かればそれでおっけーって思ってます。でも「トイレに行かせてください」のような<許可求め>の「使役形+てください」は<強制>の使役文よりもはるかに使う場面が多いです。なのでこの選択肢が言うように、実際の場面や文脈に即した練習ができます。これが答え。

 答えは4です。

問5 「写真と撮らせていただく」と「写真を撮っていただく」

 この2つの文を詳しく見ていきます。

 (1) Aさん、写真を撮らせていただけませんか。 <撮るのは自分>
 (2) Aさん、写真を撮っていただけませんか。  <撮るのは相手>

 まず「~させていただけませんか」は、自分の行為について相手に許可を取り、その行為によって自分が恩恵を受けることを表します。よって(1)は「写真を撮る」という行為を行うのは自分で、それによって自分が利益を受けることを表します。

 では「~ていただけませんか」はどうかというと、相手の行為を自分がお願いし、それによって自分が恩恵を受けることを表します。「教えていただけませんか」だったら「教える」という行為を相手がして、自分が恩恵を受けます。(2)だったら「写真を撮る」という行為は相手がするわけです。

 まとめると、この2つの表現は  動詞が表す行為をする人が違う  と言えます。恩恵を受けるのは同じです。これは選択肢3の内容に合致します。

選択肢1

 上述した通り、「~させていただけませんか」も「~ていただけませんか」も恩恵を受けるのは話し手です。「恩恵の向かう先が変わる」とするこの選択肢は間違いです。

選択肢2

 (1)(2)二つの文には「~いただく」という謙譲語Ⅰが含まれていますが、どちらも敬意の<向かう先>は聞き手のAさんで一致してます。「いただく」という行為は話し手の行為で、その行為は聞き手のAさんへ向かっています。Aさんはどちらの文でも「いただく」という行為の<向かう先>です。この選択肢は間違い。

選択肢3

 上述の通りこれが答え。

選択肢4

 (1)も(2)も許可を求めているのは話し手なので、許可を求める主体が変わってしまうとするこの選択肢は間違いです。

 答えは4です。




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