口語形一覧
ここでは「~てしまう」に対する「~ちゃう」、「知らない」に対する「知らねー」などの話し言葉のくだけた場面で現れやすい、いわゆる転訛形を一覧にしてまとめています。これらの多くはマイナス待遇の価値を持ったり、話し手が特定のジェンダーの属性を帯びていることを表す言語変種なので、日本語教育では注意して使用するよう指導することが求められます。口語形というと一般に文語形「~である」に対する「~だ」などが思い出されますが、ここではいわゆる転訛形を分かりやすく口語形と呼んでいます。
ここにまだ無いものがありましたらコメントいただければと思います!
連母音ai → 連母音ee
語末が /ai/ で終わるイ形容詞「近い」「臭い」「飲みたい」などの /ai/ が /ee/ になり、「ちけえ」「くせえ」「飲みてー」のようになります。文字表記は「ええ」や「えー」です。
近い → ちけえ
臭い → くせえ
飲みたい → 飲みてー
連母音au → 連母音ee
/au/ が /ee/ になります。「違う→ちげえ」くらいしか思い浮かばなかったんですが、他にも何かあると思います。表記は「ええ」や「えー」。
違う → ちげえ
あまり → あんまり
「あまり」に撥音が挿入されて「あんまり」になったりするような例が見られ、このように「ん」を挿入すると強調されます。
あまり見ない → あんまり見ない
そのたびに → そのたんびに
おなじ → おんなじ
ありはしない → ありゃしない
「ありはしない」の「ありは」は「ありゃ」になることがあります。
ありはしないもの → ありゃしないもの
言う → ゆー
「言う」は「いう」と表記しますが、話し言葉においては「ゆー」となります。表記は「ゆー」もしくは「ゆう」です。
佐藤と言う人 → 佐藤とゆー人
かもしれない → かもしんない
「かもしれない」の「しれない」は「しんない」になることがあります。同じ「しれない」を含む「気が知れない」は「気がしんない」になることはまずないと思われるので、「かもしれない」限定の言い方かもしれません。
雨かもしれない → 雨かもしんない
ことだ/ことで → こった/こって
「こと」に助動詞「だ」をつけたり、その連用形「で」をつけた「ことだ」「ことで」は、「こった」「こって」になります。
それはイヤなことだ → それはイヤなこった
可哀そうなことで → 可哀そうなこって
これだと/これでは → これじゃあ
「これだと」「これでは」は「これじゃ」もしくは「これじゃあ」になります。
これだと失敗する → これじゃ失敗する
これではダメだ → これじゃあダメだ
これは/それは/あれは → こりゃ/そりゃ/ありゃ
指示詞「これ」「それ」「あれ」に「は」をつけた「これは」「それは」「あれは」は「こりゃ」「そりゃ」「ありゃ」もしくは「こりゃあ」「そりゃあ」「ありゃあ」になります。
これは驚いた → こりゃ驚いた
それは大変だ → そりゃ大変だ
あれは流れ星だ → ありゃあ流れ星だ
しようがない → しょうがない
現代では既に「しょうがない」が一般的に用いられるようになってはいるので特段言及する必要はないかもしれませんが、もともと「しようがない」だったものです。
しようがない → しょうがない
そうしたら → そしたら
「そうしたら」の長音部分が脱落して「そしたら」になることがあります。このように長音が脱落する例は他にもあると思いますが、思いつきませんでした。
そうしたら私がやります → そしたら私がやります
それで → そんで
「それで」は「そんで」になります。「これで」は「こんで」、「あれで」は「あんで」にならないのはもし教えるなら注意したほうがいいかもしれない。
それで学校を休んだ → そんで学校を休んだ
それなら → そんなら
「それなら」は「そんなら」となります。「これなら」は「こんなら」、「あれなら」は「あんなら」になることはないです。
それなら辞めます → そんなら辞めます
ては/では → ちゃ/じゃ
動詞のテ形に「は」をつけた「ては」「では」は「ちゃ」「じゃ」になります。また、名詞やナ形容詞語幹に「~ではない」をつけた形の「では」も「じゃ」になります。
してはいけない → しちゃいけない
学生でない → 学生じゃない
静かでない → 静かじゃない
準備してからでないとダメ → 準備してからじゃないとダメ
~ていく/でいく → ~てく/でく
動詞のテ形に「いく」をつけた形は、「~ていく」の場合は「~てく」になり、「~でいく」の場合は「~でく」になります。
走っていく → 走ってく
漕いでいく → 漕いでく
~ている/でいる → ~てる/でる
動詞のテ形に「いる」をつけた形は、「~ている」の場合は「~てる」になり、「~でいる」の場合は「~でる」になります。
書いている → 書いてる
脱いでいる → 脱いでる
~ておく/~でおく → ~とく/~どく
動詞のテ形に「おく」をつけた形は、「~ておく」なら「~とく」に、「~でおく」なら「~どく」になります。
置いておく → 置いとく
脱いでおく → 脱いどく
~てしまう/~でしまう → ~ちゃう/~じゃう
動詞のテ形に「しまう」をつけた形は、「~てしまう」なら「~ちゃう」に、「~でしまう」なら「~じゃう」になります。
見てしまう → 見ちゃう
脱いでしまう → 脱いじゃう
~てみて → ~てみ
動詞に「~てみる」のテ形「~てみて」をつけた形式で文が終わる場合、「て」が脱落して「~てみ」になることがあります。
これ食べてみて → これ食べてみ
興味があったら見てみて → 興味があったら見てみ
と(引用) → って
引用を表す「と」は「って」になります。
うるさいと言っていた → うるさいって言っていた
うるさいのなんのと → うるさいのなんのって
~という → ~っちゅう/っつう
「~という」は「~っちゅう」や「~っつう」になります。
春風という旅館 → 春風っちゅう旅館
成功かというと → 成功かっちゅうと
壁という壁 → 壁っちゅう壁
~といったら → ~ったら
「~といったら」は「~ったら」「~っつったら」になります。
美しいといったらない → 美しいったらない
嬉しいといったらない → 嬉しいっつったらない
~といっても → ~っつっても
「~といっても」は「~っつっても」になります。
先生といっても分からないこともある → 先生っつっても分からないこともある
ところ → とこ
「ところ」は「ろ」が脱落して「とこ」になります。
私のところに来て → 私のとこに来て
実のところ → 実のとこ
今食べてるところ → 今食べてるとこ
ない → ねー
「ない」は「ねー」に変わります。表記は「ねー」もしくは「ねえ」
できっこない → できっこねー
美しくない → 美しくねえ
いない → いねえ
ない/ぬ(助動詞) → ねー/ん
「ぬ」に置き換えられるタイプの「ない」は、「ねー」もしくは「ん」になります。「ん」はもともと西日本の方言。
切れない → 切れねー/切れん
かまわない → かまわねー/かまわん
やらねばならぬ → やらねばならん
なくては → なくちゃ
「~なくては」は「なくちゃ」になります。
行かなくてはいけない → 行かなくちゃいけない
やらなくてはいけない → やらなくちゃいけない
なければ → なきゃ/なけりゃ
「~なければ」は「なきゃ」「なけりゃ」になります。
言わなければいけない → 言わなきゃいけない
ミスしなければ勝てる → ミスしなけりゃ勝てる
文語的な言い方の「~せねばならない」の「せねば」は「せにゃ」「せな」になります。また、「~せねば」で文が終わる場合の「せねば」は「せにゃ」もしくは「せな」になります。
連絡せねばならない → 連絡せにゃならない
挑戦せねば → 挑戦せにゃ/挑戦せな
なに → なん
「なにか」は「なんか」に、「なにも」は「なんも」になります。
なにかしらの証拠 → なんかしらの証拠
なにかある → なんかある
なにもない → なんもない
なのでは → なんじゃ
「なのでは」は「なんじゃ」になります。
彼は山田なのではないか? → 彼は山田なんじゃないか?
なんと → なんて
「なんと」は「なんて」になります。
なんと言った? → なんて言った?
なんという日だ → なんていう日だ
なんということはない → なんていうことはない
に → ん
格助詞「に」は「ん」になることがあります。
明日になったら → 明日んなったら
~には → ~にゃ
格助詞「に」に「は」をつけた「~には」は「~にゃ」になります。
明日には治るよ → 明日にゃ治るよ
家には届いてない → 家にゃ届いてない
もの → もん
「もの」は「もん」になります。
私のもの → 私のもん
~というものだ → ~というもんだ
~らない → ~んない
「る」で終わる五段動詞のナイ形に現れる「~らない」は「~んない」に変わります。
変わらない → 変わんない
語らない → 語んない
~る → ~ん
「る」で終わる動詞に「のか」をつけるときに、「る」は「ん」に変わることがあるようです。「のか」をつけるとき以外の環境でも「る」が「ん」に置き換わる例があるかもしれませんが、思いつきませんでした。
できるのか → できんのか
もう寝るのか → もう寝んのか
~れば → りゃ/りゃあ
条件節に現れる「れば」は「りゃ」「りゃあ」になります。
安ければ買う → 安けりゃ買う
貼れば治る → 貼りゃあ治る

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