6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

謙譲語Ⅰとは?

目次

謙譲語Ⅰ

 謙譲語Ⅰは自分側から相手側又は第三者に向かう行為ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの。簡単にいうと、自分の行為やものごとに使ってへりくだる表現です。

行為
(自分側からの)
伺う、申し上げる、お目に掛かる、差し上げる、お届けする、御案内する
ものごと
(自分側からの)
(立てるべき人物への)お手紙、御説明

 (1) 明日午後2時に研究室に伺います。
 (2) 明日午後2時に研究室に行きます。
 (3) お手紙を書きました。

 (1)と(2)は同じ内容ですが、「行く」の代わりに「伺う」を使うことで自分側をへりくだらせ、相対的に「先生」を立てる述べ方になります。自分側の行為以外にも、「お手紙」 のように自分側のものごとをへりくだることもできます。例えば(3)は「手紙」の所有者である自分側をへりくだり、相対的に<向かう先>を立てています。このように<向かう先>に対して働く敬語を謙譲語Ⅰと呼びます。
 
 ここでいう<向かう先>とは…
 例えば「先生にお届けする」「先生をご案内する」などの「先生」は、届ける相手、案内する相手という意味の<向かう先>です。「先生の荷物をお持ちする」も先生のために持ってあげるし、「先生にお手紙を書く」も先生のために書いた手紙です。このような場合の「先生」が<向かう先>。その行為やものごとが誰かのために行われるようなとき、その誰かが<向かう先>になります。謙譲語Ⅰは<向かう先>の人物を立てます

謙譲語Ⅰはどんな時に使う?

 謙譲語Ⅰは①<向かう先>の人物を心から敬うとともに自分側をへりくだって述べる場合、②本当に心から敬っているかどうかは別として、その状況で<向かう先>の人物を尊重する述べ方を選ぶ場合、③<向かう先>の人物に一定の距離を置いて述べようとする場合、などの心理的な動機で使います。いずれにしても謙譲語Ⅰを使うと、<向かう先>の人物を言葉の上で高く位置付けて述べることになります。つまり「立てる」。

 (4) 入り口まで荷物をお持ちします。       …①
 (5) またのご来店をお待ちしております。     …②
 (6) 私からも一つ申し上げますが…        …③

 
 尊敬語は相手側や第三者を直接敬って立てますが、謙譲語Ⅰは自分側をへりくだって相手側や第三者を立てることになります。相手を敬って相手を立てるか、自分をへりくだって相手を立てるか。この「立てる」は尊敬語においても謙譲語Ⅰにおいても同じ性質です。

謙譲語Ⅰによって立てられる人物について

 (7) 先生のところに伺いたいんですが。

 (7)の「先生」は立てられる人物ですが、どのような場面で述べたかによって「先生」の存在が変わってきます。
 例えば(7)を「先生」に対して直接述べると「先生」は<話や文章の相手>、「先生」の家族等に対して述べると「先生」は<相手側の人物>、その他の人に対して述べると「先生」は<第三者>ということになります。<話や文章の相手>と<相手側の人物>はまとめて「相手側」と呼びます。つまり謙譲語Ⅰは「相手側又は第三者」を<向かう先>とする行為・ものごとなどについての敬語です。

謙譲語Ⅰの形式

 「尋ねる」に対する「伺う」、「いる」に対する「おる」のように特定の語形(特定形)による場合と、「お/ご~する」(「届ける」に対する「お届けする」)のように広くいろいろな語に適用できる一般的な語形(一般形)を使う場合とがあります。
 以下は一般形の主な例です。

一般形
お/ご~する <向かう先>の人物がある動詞に限ってこの形を作ることができます。
届ける→お届けする、案内する→ご案内する、食べる→✕お食べする、乗車する→✕ご乗車する
なお、<向かう先>の人物があっても、「お憧れする」「ご賛成する」のように慣習上その形を作れない場合もあります。
お/ご~申し上げる <向かう先>の人物がある動詞に限ってこの形を作ることができます。
届ける→お届け申し上げる、案内する→ご案内申し上げる、食べる→✕お食べ申し上げる、乗車する→✕ご乗車申し上げる
なお、<向かう先>の人物があっても、「お憧れ申し上げる」「ご賛成申し上げる」のように慣習上その形を作れない場合もあります。
~ていただく 読む→読んでいただく、指導する→指導していただく
お/ご~いただく 読む→お読みいただく、指導する→ご指導いただく

 ※動詞に可能の意味を加えてを謙譲語Ⅰにする場合は、まずを謙譲語Ⅰの形にしたうえで可能の形にします。(伺う→伺える、お届けする→お届けできる、ご報告する→ご報告できる)

「お/ご~いただく」を作る上での注意点

 「お/ご~いただく」を作る上で、どんなときに「お」を使い、どんなときに「ご」を使うのかは注意が必要です。一般に、動詞が和語の場合は「読む→お読みいただく」「聞く→お聞きいただく」のように「お」を使い、漢語サ変動詞の場合は「指導する→ご指導いただく」「出席する→ご出席いただく」のように「ご」を使います。
 ただし、変則的な作り方をする例もあります。例えば「見る」は「お見いただく」ではなく「ご覧いただく」、「行く/来る/いる」は「おいでいただく」、「寝る」は「お休みいただく」、「着る」は「お召しいただく」です。

 その他、慣習上、「お/ご」と組み合わせることがなじまず、「お(ご)~いただく」の形が作れない動詞もあります。その場合は別の作り方で謙譲語Ⅰを作ります。

一般形「お/ご~いただく」 一般形「~ていただく」
死ぬ ✕お死にいただく 〇死んでいただく
失敗 ✕ご失敗いただく 〇失敗していただく
運転 ✕ご運転いただく 〇運転していただく

名詞の謙譲語Ⅰ

 一般に、和語の場合は「お手紙」のように「お」を、漢語の場合は「ご説明」のように「ご」をつけます。このほか、「拝見する」「拝借する」「拝顔」「拝眉」のように「拝」のついた謙譲語Ⅰもあります。

 (8) 手紙を書きました。
 (9) 説明をいたします。
 (10) 見します。

謙譲語Ⅰにしにくい語

 行為者がその行為の向かう先に対して悪意をもった行為を行うような動詞は謙譲語Ⅰにするのが難しくなります。

 (11) *1発お殴りしますね。
 (12) *財布を盗ませていただきます。
 (13) *これからおいじめします。

参考文献

 文化庁(2007)『敬語の指針』(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf




コメント

コメントする

目次