令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説
問1 引用形式
(1) 彼女は帰れと言いました。
(2) 私はつまらないって思いました。
述語の発言内容とか思考内容とかを表すとき、日本語では「と」や「って」を用いてその内容を引用します。でも「と」と「って」以外にも引用の形式はあります。
結論からいうと、「~ように」が引用の形式です。
(3) ここでタバコを吸わないように注意した。
(4) 彼に休むように言った。
(5) 明日いい天気になるように祈った。
(3)は注意の内容、(4)は発言の内容、(5)は祈った内容を「ように」で引用しています。
答えは3です。
問2 直接引用と間接引用
例えば先生が「体育館に移動しなさい」と発言したとします。これを学生が引用して、別の学生に伝える場面を考えます。すると大きく分けて2通りの言い方が考えられます。
(1) 先生が「体育館に移動しなさい」と言ってたよ。 <直接引用>
(2) 先生が体育館に行けって言ってたよ。 <間接引用>
一つは先生の発言内容「体育館に移動しなさい」を加工せずに引用する(1)で、これは直接引用と呼ばれます。もう一つは先生の発言内容を加工して引用する間接引用の(2)です。この問題は直接引用と間接引用の区別を聞いています。
選択肢1
(3) 先生が「次の授業は隣の教室です」と言ってたよ。 <直接引用>
先生が「次の授業は隣の教室です」と言ったのを直接引用したのが(3)です。直接引用は文末が「です」「します」であろうとそのまま加工せず引用するので、引用節内でそれらが使えないということはありません。この選択肢は間違いです。
選択肢2
(4) 先生が「教室を掃除しろ」と言ってたよ。 <直接引用>
先生が「教室を掃除しろ」と言ったのを直接引用したのが(4)です(そんなこという先生いないと思うけど)。これも選択肢1と同じで、直接引用は加工しないでそのまま引用するから、引用元に「~しろ」「~しなさい」があったとしてもそのまま引用されます。この選択肢は間違いです。
選択肢3
(5) 先生が「次の授業は隣の教室だからね」と言ってたよ。 <直接引用>
(6) 先生が次の授業は隣の教室だって言ってたよ。 <間接引用>
先生が「次の授業は隣の教室だからね」と言い、それを引用したのが(5)(6)です。直接引用の場合は終助詞の「ね」もそのまま引用されますけど、間接引用の場合は終助詞は消えてしまいます。間接引用はその内容を引用者の立場から捉え直すので、終助詞などは消えてしまいます。この選択肢は適当です。
選択肢4
選択肢3の(6)のように、間接引用の引用節内では「隣の教室だって」の「だ」のように常体表現が現れます。この選択肢は間違いです。
答えは3です。
問3 述語動詞と引用節
各選択肢には親切にも引用節を「 」で示してくれてます。下線部Cによると述語の動詞は必ずしも引用節を必要としないとのことなので、各選択肢の引用節「 」を消してみて、それで文が成り立つか(情報量が足りているか)を見てみましょう。
選択肢1
(1) 学生は打ち明けた。
(1)は打ち明けた内容を書かないことで情報不足に陥ってます。動詞「打ち明ける」はその内容が必須のようです。この選択肢は間違い。
選択肢2
(2) 花子は泣き出した。
(2)は情報量としては十分です。泣き出した内容は無標の文脈では特段述べる必要がないからです。つまり動詞「泣き出す」の内容は必須補語ではなく副次補語ということ。これが答えです。
選択肢3
(3) 先輩は語った。
明らかに情報量不足で、語った内容が必要です。この選択肢は間違い。
選択肢4
(4) 太郎は思った。
「何を思った?」と聞きたくなるような文で情報量不足。この選択肢は間違いです。
答えは2です。
問4 「と言っている」と伝聞の「そうだ」
選択肢1
(1) 田中さんが仕事を辞めると言っている。 <発言の主体が主語>
(2) 佐藤さんは、田中さんが仕事を辞めると言っている。 <発言の主体が主語>
(1)の文は主語は「仕事を辞める」という発言の主体「田中さん」を主語にしています。(2)の文の主語は「田中さんが仕事を辞める」という発言の主体「佐藤さん」を主語にしています。「と言っている」は一貫して発言の主体を主語にするようですね。
(3) 田中さんが仕事を辞めるそうだ。
(4) 紅葉が今美しいそうだ。
では「そうだ」はどうかというと、田中さんが「仕事を辞める」と言った場合でも(3)が言えるし、田中さん以外の人が「田中さんが仕事を辞める」と言った場合でも(3)が言えます。主語は「田中さん」ですが、この「田中さん」は発言の主体とは限りません。また、(4)の文は「紅葉が今美しい」と誰かが発言したんでしょうけど、その発言の主体は文中になく、(4)の主語は発言の主体ではない「紅葉」です。
これらの言語事実から、「と言っている」と伝聞の「そうだ」を比較したとき、「と言っている」のほうが発言の主体を主語に置く傾向が強いようです。この選択肢が答え。
選択肢2
(5) 彼は彼女にふられたと言っている。
(6) 彼は彼女にふられたそうだ。
(5)は引用節「彼女にふられた」の内部に人称代名詞「彼女」が含まれていますが、非文ではありません。だからこの選択肢が言ってることは間違い。また、(6)のように伝聞の内容「彼女にふられた」の内部に人称代名詞「彼女」が含まれていてもおkです。どっちも人称代名詞が使えるから比較になってない。
選択肢3
(7) 田中さんが「仕事を辞めようと思う」と言っている。
(8)✕田中さんが「仕事を辞めようと思う」そうだ。
(9) 田中さんが仕事を辞めようと思っているそうだ。
選択肢には「聞いたとおりに伝える」と書かれているので、直接引用の例文を作ってみましょう。ここでは田中さんが「仕事を辞めようと思う」と発言して、それを「と言っている」と伝聞「~そうだ」で直接引用してみます。すると、(7)は大丈夫ですけど(8)はダメでした。「そうだ」を使う場合はそのまま引用できなくて、形を加工して(9)のようにしないといけないです。この選択肢を正しく言い換えるなら、「「~と言っている」は発話された形式を聞いたとおりに伝えるのに適している」で、「「そうだ」は発話された形式を聞いた通りに伝えることができない」です。間違い。
選択肢4
(10)a 田中さんは彼女にふられたそうだ。
b 佐藤さんによると、田中さんは彼女にふられたそうだ。
伝聞の「そうだ」は誰かから聞いた情報を述べるときの使いますが、その情報源を明示しない場合は(10a)のようにいい、情報源を明示する場合は(10b)のように言います。情報源を明示することで話し手に不利益などがある場合、話し手は情報源の明示を避ける可能性があります。伝聞の「そうだ」は情報源を明示しなくても使えるので、この選択肢は間違いです。
答えは1です。
問5 「と聞く。」と「と思う。」
(1) 彼の私生活はかなり渋いと聞く。 <伝聞>
(2) ??? と思う。 <伝聞>
<伝聞>を表す「と聞く。」は(1)のような文です。しかし<伝聞>を表す「と思う。」は今のところ思いつかないです。そんな表現があるんでしょうか…
まずは「と聞く。」が一人称主語、三人称主語を「は」でとれるかどうかを見ます。
(3)✕私はかなり面白い人と聞く。 <一人称主語>
(4) 彼はかなり面白い人と聞く。 <三人称主語>
一人称主語「私」をおいた(3)はダメです。<伝聞>を表すので、話し手自身の出来事を伝聞として扱うことはできません。でも三人称主語(4)なら大丈夫です。これによって選択肢2と選択肢3に絞られます。
しかし、上述の通り<伝聞>の「と思う。」が分からないのでこの先解けません。助けてください。
コメント