他動性(transitivity)
動詞を自動詞と他動詞に分ける見方には、動作主による意図的な動作が対象を変化させる度合い(他動性:transitivity)がかかわっています。以下の例文を見てください。(1)の「割る」は動作主「彼」が対象「窓」の形を大きく変化させる事態を表す動詞で他動性が非常に高いです。しかし(2)は動作主「雨」だけが「降る」という事態にかかわっており、その対象は存在しません。対象がないので他動性は低いと見ることができます。
(1) 彼が窓を割る (他動性が高そう)
(2) 雨が降る (他動性が低そう)
対象を変化させる度合いが高いかどうかの判断は私たちの主観によるものですが、その主観はどうも動詞の補語の取り方という文法領域と関係しているようで、他動性が高いと思われる動詞は「【動作主】が【対象】を【動詞】」の形をとることが多く、他動性が低いと思われる動詞はその形を取りません。
(3) 彼が窓を割る (他動詞)
(4) 客が荷物を置く (他動詞)
(5) 母がネギを買う (他動詞)
(6) 教育係が新人を教育する (他動詞)
(3)~(6)の動詞が表す動きは全て他動性が高く、共通して【動作主】が【対象】を【動詞】の文型をとっています。そこでこの文型をとる動詞を他動詞と呼び、他動詞でない動詞を自動詞と呼ぼう!となりました。このように自動詞と他動詞は、他動性と形態的特徴に基づいて分類されています。
他動詞(transitive verb)
他動詞は他動性が高い動詞で、日本語においては働きかけられる対象をヲ格でとる動詞のことです。典型的な他動詞は動作主が対象の形状、位置、状況などに何らかの変化を与えますが、例文(5)以降のように変化を与えるとは考えにくいものもあります。しかしながら「【動作主】が【対象】を【動詞】」の形をとっていることから全て他動詞です。
(1) 窓を割る (形状変化)
(2) 荷物を置く (位置変化)
(3) 部屋を掃除する (状況変化)
(4) お湯を沸かす (「お湯」の産出)
(5) パソコンを買う (動作の対象)
(6) 文章を理解する (言語活動の対象)
(7) 音楽を聴く (五感など)
(8) 過去を思い出す (思考活動)
他動詞のもう一つの認定基準
特に断りがなければ対象をヲ格でとる動詞を他動詞と認定しますが、他動詞の認定基準は他にもあります。それは「直接受身にできる動詞」です。この基準を用いると次の動詞たちは全て他動詞となります。
(1) 彼は私を殴った。 (直接受身:私は彼に殴られた。)
(2) 犬が私に噛みついた。 (直接受身:私が犬に噛みつかれた。)
(3) 母が私に賛成した。 (直接受身:私が母に賛成された。)
直接受身にできる動詞を他動詞と認定するなら、これらの動詞は全て他動詞となります。しかし対象をヲ格でとるかどうかの基準を用いると(2)(3)の「噛みつく」「賛成する」はヲ格をとらないので自動詞に分類されます。他動詞の認定基準によっては他動詞にも自動詞にもなり得る動詞があります。
参考文献
寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版
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