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令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

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令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

問1 音節

 音のまとまりとして、拍や音節があります。日本語は拍言語だから通常拍で音を捉えるけど、英語のように音節で捉えられないこともありません。日本語を音節で区切るときは次の基準を用います。

 ① 特殊拍(長音促音撥音)は前の音と一緒に数えて1音節
 ② それ以外は1音節

選択肢1

 例えば「さくら」を音節に区切ると「さ/く/ら」の3音節になります。この1音節「さ」だけに注目すると [sɑ] ですから子音1つと母音1つ。「く」も「ら」もそうで子音は1つしか入ってません。
 でも特殊拍を考慮すると… 例えば「カッコウ」なら「カッ/コウ」の2音節で、「カッ」はIPAで [kɑk] と書きます。この音節には子音が2つ含まれてます。ちなみに「コウ」の「ウ」は長母音なので子音1つ+母音2つです。もう一つ「カン(缶)」は [kɑɴ] で、この[ɴ]も子音なので子音が2つ、母音が1つです。とすると「子音を二つ含む音節がある」っていうのは当たってます。この選択肢は正しいです。

選択肢2

 「蚊」とか「木」とか1音節の語ももちろんありますけど、「カ/タ(肩)」「ア/メ(雨)」のような2音節の語もあるし、3音節の語だってあります。
 この選択肢は間違い。

選択肢3

 日本語は音節の最後が母音で終わることが多い開音節言語です。例えばまた「さくら」の例を見てみると、「さ/く/ら」のそれぞれの音節は [sɑ . ku . rɑ] で、音節の最後が母音で終わってます。日本語の多くの音節はこうして母音で終わります。「母音に子音が後接」というのが逆。正しくは「子音に母音が後接」です。この選択肢は間違い!

選択肢4

 これは全くの嘘。「さ/く/ら」だったら仮名1文字「さ」で1音節ですけど、「カッコウ」とか「カンコウ」とか長音、撥音、促音の特殊拍がある場合、特殊拍はその前の音と一緒にして一音節と数えます。だから「カッ」「コウ」「カン」で一音節です。拗音「きゃ」なども仮名2文字で1音節。この選択肢は間違いです。

 したがって答えは1です。

問2 日本語におけるアクセント

選択肢1

 音節の数によってアクセントの型の数が決まる? 違います。拍の数によってアクセントの型の数が決まります。
 そもそも日本語のアクセントは、1拍1拍の相対的な高低のことを指します。音節とは関係ないんです。アクセントは拍の相対的な高低によって決まります。

 1拍語は「が」をつけて考えると、「低高(血が)」と「高低(木が)」の2通り。
 2拍語は「が」をつけて考えると、「低高高(鼻が)」「低高低(花が)」「高低低(四季が)」の3通り。
 3拍語は「が」をつけて考えると、「低高高高(マグロが)」「低高高低(頭が)」「低高低低(女将が)」「高低低低(枕が)」の4通り。

 このように日本語の語は、n拍語ならn+1通りの高低のバリエーションがあります。

選択肢2

 これについては新明解日本語アクセント辞典が役立ちます。前部要素と後部要素がどういった語種か、品詞かによって区分けして書かれていますが、ほとんどは「前部に関係なく後部によってアクセントが定まる」と書かれています。この選択肢は逆でした。間違い。

選択肢3

 これについても新明解日本語アクセント辞典に、名詞に「の」が「夏」「花」などの尾高型の語のついたとき平板型に変化すると記述がありました。
 例えば「夏」に「が」をつけると「」と尾高型のアクセントになりますが、「の」をつけると「つの」となり平板型になります。
 この選択肢は正しいです。

選択肢4

 音節ごとにアクセントが決まっている? これもヤバい。語のアクセントの決まり方に音節関係ないよ。
 拍ごとに相対的な高低が決まっているんです。

 したがって答えは3です。


問3 特殊拍の発音

 試験Ⅲって感じがするいい問題。

選択肢1

 促音の異音についての知識が必要です。促音は後ろの音を発音しやすくするための準備時間みたいなもので、後ろの音が両唇音だったら「っ」も両唇が調音点になります。例えば「はっぴょう」の「っ」のとき唇がくっつきます。それはその後ろの「ぴ」の子音[p]が両唇音だからです。また、「はっき」の「っ」は唇がついていないはず。後ろの音が「き」の[k]軟口蓋音だから「っ」も軟口蓋で閉鎖をしています。「っ」は後続音の調音点で調音されるっていうのが一つの知識。

 ここでいう「規範的な発音」とは正しい発音のことなんですけど、この場合は「日本語共通語」「東京方言」と同義と考えていいです。じゃあ日本語共通語では「はっぴょう」と「はっき」の「っ」の調音点は同じかというと同じじゃないですね。「はっき」の「っ」のときに唇をくっつけて発音する人はまずいません。後ろの音で決まるんだから、調音点は同じじゃない!

選択肢2

 これも促音なので、後ろの音を見てみましょう。
 「いっさい」の「さ」の子音[s]は調音点が歯茎、「いったい」の「た」の子音[t]は調音点が歯茎です。だからどちらも「っ」のとき舌が調音点のあたりにあります。
 でも調音法は違います。「いっさい」の「っ」は「スーーー」という摩擦音が出てるはずです。でも「いったい」の「た」のときは摩擦音は出ません。なぜなら「さ」の子音[s]は摩擦音であり、「た」の子音[t]は破裂音だからです。後続音が摩擦音のときは「っ」は摩擦音になり、後続音が破裂音のときは「っ」は閉鎖して無音。だから調音法は同じじゃないです。

選択肢3

 この問題は撥音の異音に関する知識が必要です。これは試験Ⅰでもあった「っ」の音の違い。例えば「かんぱ」の「ん」は唇閉じますけど、「かんき」の「ん」は唇閉じません。撥音も促音と同じで後ろの音に影響を受けてその音が変わります。詳しくは「こちら」を見てください。すっごい複雑なんですけど…

 「あのへんへ」の「ん」の後続音は表記上「へ」ですが、実際読まれるときは「え」。「ん」の後続音が「え」、つまり母音のときは、「ん」は鼻母音で発音されます。
 「あのへんに」の「ん」の後続音は「に」の子音[ɲ]だから、「ん」は[ɲ]有声硬口蓋鼻音で発音されます。
 この2つの調音点は全く違うのでこの選択肢は間違い。

選択肢4

 「かんい」の「ん」の後続音は母音「い」だから、「ん」は前接する「か」の母音「あ」を鼻音化した音で発音されます。
 「けんお」の「ん」の後続音は母音「お」だから、「ん」は前接する「け」の母音「え」を鼻音化した音で発音されます。
 どちらも調音法は鼻音! 同じです。

 したがって答えは4です。

問4 モーラの指導

選択肢1

 例えば「ええ」を二重母音として捉えたらそのまま「えー」と長音にできそう。「おう」も「おー」にできそう。でも「あい」は二重母音だけど「あー」にはならないですね。「あいさつ」を「あーさつ」とは言えないから。二重母音が長音の指導に役立つこともあれば役立たないこともあります。この選択肢は部分的に正しいけど部分的に間違い。

選択肢2

 私は英語母語話者に指導したことないから分からなかったんですが、促音導入で「what time」を使う教科書があるらしいです。「what time」は t が連続しているので、これがちょうど日本語の「っ」に近い発音になります。「ワッタイム」の「ッ」ですね。これが答え。

選択肢3

 漢字が書けるかどうかは特殊拍は無関係です。
 漢字は文字、拍は音。全く別物。

選択肢4

 符号「ー」は多くの言語に存在するって、いやいやいやいや英語はないし、中国語にもない。
 これも間違い。

 答えは2です。

問5 日本語らしさ

選択肢1

 やってみましょう!
 「さくら」を読むとき、「さ」の後ろにポーズ、「く」の後ろにポーズ、「ら」の後ろにポーズを入れたら… 不自然ですね。1モーラごとに区切って読むなんてまずありえない。意味的に区切られるところでポーズが入ったりします。この選択肢は間違い。

選択肢2

 日本語は拍言語で、1拍1拍が時間的に等間隔で現れます。音節の言語じゃないんでこれ間違い。

選択肢3

 正解はこれです。2モーラを1つのまとまりとするっていうのはフットのことを指してて、2モーラをまとめて1フットと呼びます。
 例えば「コンビニエンスストア」を略すと「コンビニ」、「ポケットモンスター」を略すと「ポケモン」のように、日本語では何か省略するとき「2拍+2拍」の形がよく出てきます。2拍で一つのリズムを刻んでいるような感覚。このほうが聞いていて気持ちいいんでしょうね。
 だから答えはこれです。

選択肢4

 日本語は高低アクセントの言語であって、強勢アクセントの言語ではありません。
 強勢の置く音節がーとか言ってる時点でもう間違い。

 したがって答えは3です。




コメント

コメント一覧 (15件)

  • Q1の3ですが、「母音に【子音が後接した】音節が一般的」とあります。選択肢は音節が子音で終わることを意味していると思い、×にして1を選びました。
    選択肢を見すぎてゲシュタルト崩壊してきたので、頓珍漢なことを言っていたら申し訳ありません・・
    最速の解答解説、ありがとうございます。

    • >とみとみさん
      問1の選択肢3を読み間違えてました… 母音に子音が後接するってヤバいですね。正しくは子音に母音が後接するでした。
      改めて問題見直してみたんですけど、そうすると選択肢1が最も答えの可能性が高そうです。ただし「子音を二つ以上含む」という記述が不思議で、1つ含むもの、2つ含むものはあるんですけど、3つ含む音節がちょっと私には分からないのです。この辺り解決できればもっといいんですけど。
      というわけで答えはこちら1だと思われます! 貴重なご指摘ありがとうございました。

  • 問1についてですが、
    私は選択肢1を選びました。
    子音が二つ以上、つまり三つある言葉としては「うさぎがぴょんぴょん(pyon pyon)跳ねる」や「びゅんびゅん(byun byun)飛んでいく」といった擬態語があるんじゃないか、と。あとは、wikipediaで江戸時代から使われている半端者を意味する「ちょん(chon)」という言葉もあります。
    選択肢3についてですが、文章では「母音“に”子音“が”後接する」とあるので、これは閉音節の特徴の説明文ではないでしょうか。解説に書かれている通り、開音節を指すならば「子音“に”母音“が”後接する」といった説明文になるのではないでしょうか。

    問4についてですが、
    私は選択肢2を選びました。
    ↓このサイトでは、促音を教える時に「what time」を使うのもいいと書いてあります。検定作成者がこのサイトの作成者と同じ考えを持っているのかどうか不明なのですが…
    https://cotohajime.net/2021/05/27/pronunciation-3/

    選択肢1の二重母音についてですが、
    たとえば、wikipediaに二重母音の例として出されている「cake [keɪ̯k]」は発音をそのままカタカナで書くと「ケイク」になって、日本語の「ケーキ[ke:ki]」と長音とは異なる発音になるので指導には用いない方がよいのではないか?と考えました。

    何にせよ、この問題の判断は難しいですね。

    • >匿名さん
      ご指摘ありがとうございます!
      問1について、「子音に母音が後接する」が正しくて私が逆に見てました。おそらく答えは1ですね。ただし子音を3つ含む音節についてはちょっと…
      例えば「ちょん」を挙げていらっしゃいますが、これをipaで書くと「tɕoɴ」となります。このうち[tɕ]が一つの子音であり、[ɴ]がもう一つの子音です。だから子音2+母音1の構成になっています。ローマ字表記するのではなく、ipa表記で子音かどうか見ないといけないんです。「ぴょん」も「びょん」も同様の理由で子音が2つです…
      何か勘違いがあるんでしょうか。

      問3については検討させてください!
      匿名さんのコメントを引用させていただきます。

  • 「匿名」です。
    連投すみません。
    知り合いの日本語教師で英語話者向けの日本語の教科書を使ってる人に訊いたら、その教科書に促音を入れる際に「what time」を使う方法が書いてあるそうです。

    • >匿名さん
      二重母音の選択肢1については匿名さんのお話から否定できたので、答えは2みたいですね!

  • 問2ですが、おとこは尾高型のアクセントですが、助詞が”の”になると、平板型に変化します。
    選択肢2については、前部要素によって複合名詞全体のアクセント型に関与することがあるという論文がありました。
    どちらが正解かわかりませんでした。
    file:///C:/Users/mldru/Downloads/JLL_15-L12.pdf
    https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/pdf/20170101_10.pdf
    複合名詞のアクセントについて詳しく書かれいます。
    難しくてよくわかりませんでした。
    一応参考までによろしくお願いします。

    • さきほどアクセント辞典の記述から答えが3ということが分かりましたので解説そのように修正いたしました。
      ご指摘ありがとうございました!

  • 私は、問1は、2を選びました。
    確かに、2音節の語も多く、3音節の語も多いですが、相対的な多さではなく、
    1音節で意味を伝えられる語が多いか少ないかを考え、多い、と結論づけました。

    例えば、「い」では、単語として使える「い」は、意、胃、異などがあります。
    「う」では、鵜、くらいしかみつかりませんが、「え」では、絵、柄、餌などがあります。
    こうして50音を辿っていきますと、かなりの量の1音節の語が出てきますので、即座に2を選びました。

  • 私は、問2は、3を選びました。
    どこで読んだか記憶がないのですが、「後続する助詞によっては、核がなくなることがある」ことを知っていました。

    それでは、2はどうなのか、調べた結果、下記のサイトをみつけました。
    http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/pmod/practical/02-07-01.php#:~:text=%EF%BC%92%E3%81%A4%E3%81%AE%E5%90%8D%E8%A9%9E%E3%81%8C%E8%A4%87%E5%90%88,%E6%A0%B8%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%88%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
    上記サイトの表では、「後部要素の拍数」によって、複合名詞のアクセント型が定まることを説明しています。
    つまり、複合名詞のアクセント型は、「前部要素のアクセント型」によって定まるわけではないことを示しているように
    読めます。

    あまり自信はないですが、いかがでしょうか。

    • さきほどアクセント辞典の記述から答えが3ということが分かりましたので解説そのように修正いたしました。
      ご指摘ありがとうございました!

  • 問2 選択肢2ですが、複合名詞について書かれているので、他の品詞は関係ないのでは…?

    すみませんが、他の問題でも選択肢の読み違いが多くて混乱することが多いです。

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