6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

音節とは?

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音節(syllable)

 音節(syllable)とは、音声の聞こえ方の一種で、「1つ以上の分節音がまとまって構成される発話上の単位」(服部 2012:64)です。各言語の母語話者には音節内部には切れ目がなく、その前後に切れ目があると感じられます。そしてそのような区切りは直感的に感じ取っています。例えば、日本語母語話者は「てのひら」に「て・の・ひ・ら」という4つに区切られた単位を感じます。英語母語話話者は communication に com・mu・ni・ca・tion という5つに区切られた単位を感じます。この区切った一つひとつの単位が音節です。

音節の構造

 日本語には [i](胃)、[e](絵)など母音だけからなる語はありますが、子音だけからなる語はありません。これらは1音節からなる語であって、言い換えると音節の中には必ず母音が含まれます。この音節を構成するために必須の要素を音節核(syllable nucleus)と言います。音節核には子音が前接したり後接したりします。例えば、[kɑ](蚊)、[te](手)などは音節核である母音子音が前接して1音節からなる語を形成し、英語にも [ti](tea)のような例があります。このような音節核の前に来る子音頭子音(onset)と言います。日本語で音節核に子音が後接する例は [kit.te](きって)の「きっ」、[ɕim.po](しんぽ)の「しん」のように撥音「ん」と促音「っ」を用いるときしかありません。英語では [æt](at)などたくさん見られます。音節核の後ろに来る子音尾子音(coda)と言います。( . は音節境界)

 (1) 蚊 [kɑ] (頭子音+音節核)
 (2) 手 [te] (頭子音+音節核)
 (3) tea [ti] (頭子音+音節核)
 (4) 切手 [kit.te] (頭子音+音節核+尾子音 . 頭子音+音節核)
 (5) ペン [peN] (頭子音+音節核+尾子音)

 日本語の頭子音は0個~2個、尾子音は0~1個生起します。頭子音が2個生起するのは 子音接近音 /j/ のときです。英語では頭子音は最低0~3個、尾子音は0~4個の生起が可能です(服部 2012:69)。

 (6) 胃 [i] (頭子音0個)
 (7) 木 [ki] (頭子音1個)
 (8) 今日 [kjoː] (頭子音2個)

 これらから日本語の音節構造にしぼって図示するとこうなります。
 ※σ=音節、O=頭子音、C=尾子音、N=音節核、( )は任意要素

σ
┌―――┼―――┐
(O)  N  (C)

 母音で終わる(尾子音をもたない)音節は開音節(open syllable)、子音で終わる(尾子音をもつ)音節は閉音節(closed syllable)と言います。日本語の閉音節は撥音と促音のときに限られるので、開音節が圧倒的に多いです。一方、英語は閉音節がとても多いです。

日本語の音節区切りについて

 日本語を音節で区切るのは(私の勉強不足か)ちょっと難しい感じがしてますが… 一応今現在の私の理解をここにまとめておきます。

 ① 特殊拍(長音、促音、撥音)は前の音と一緒に数えて1音節
 ② それ以外は1音節
  (「あい」「えい」などの二重母音は「あ」と「い」に分ける)

 例えば「かさまし」「ちゃいろ」とかは、「か・さ・ま・し」の4音節、「ちゃ・い・ろ」の3音節に区切ります。でも長音、促音、撥音が含まれている「スキー」「こおり」「じゅうよう」「きっぷ」「りんご」などは「ス・キー」「こお・り」「じゅう・よう」「きっ・ぷ」「りん・ご」というように前の音と一緒にまとめます。

 「アイス」「えいご」のように二重母音「あい」「えい」は実は判断が微妙です。例えば、菅原(2014: 2)は、二重母音が含まれる bite [baɪt] は英語母語話者にとって1音節の単語という直感があるけど、日本語母語話者に 愛 [ɑi] が1音節か2音節か尋ねるとたいてい2音節であるという答えが返ってくるとし、音節の区切りは言語によって異なることを示しています。人によって二重母音は1音節にも2音節にもなるとはいえ、日本語母語話者の多くの判断を元にすれば二重母音はやっぱり分けて考えたほうがいいのではないか、と思っています。

参考文献

 菅原真理子(2014)『朝倉日英対照言語学シリーズ3 音韻論』2頁.朝倉出版
 服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』29,64-72頁.朝倉書店




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