6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

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令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

問1 「は」をつけると消える格助詞

 選択肢にある格助詞で例文を作ってみて、それに「は」をつけてみましょう。

選択肢1

 「ここから出られません」の「ここから」を主題化すると「ここからは出られません」となります。
 格助詞「から」は「は」をつけても消えませんでした。この選択肢は間違い。

選択肢2

 「彼女と別れました」の「彼女と」を主題化すると「彼女とは別れました」となります。
 格助詞「と」は「は」をつけても消えませんでした。この選択肢は間違い。

選択肢3

 「ハサミで切れません」の「ハサミで」を主題化すると「ハサミでは切れません」となります。
 格助詞「で」は「は」をつけても消えませんでした。この選択肢は間違い。

選択肢4

 「ケーキを食べました」の「ケーキを」を主題化すると「ケーキは食べました」となります。
 この言語事実から格助詞「を」は「は」をつけると消えてしまうことが分かります。「ケーキをは食べました」とは言いませんから。これが答え。

 実は「を」だけではなくて「が」もそうです。「私がは来ました」とは言わなくて、「私は来ました」となるから。「を」と「が」は「は」をつけると消えてしまう性質があるんです。

 したがって答えは4です。

問2 対象の「が」

 これは解いてて楽しかった問題です。
 そもそも対象って何だろうかってところから始めましょう。対象は目的語と言えば分かる人がいるかもしれませんが、それはざっくりした理解。言語学でいう「目的語」は日本語学における「対象」と一致しません。

 (1) 私は ケーキ 食べる。
 (2) 私は ケーキ 嫌いだ。
 (3) 私は あいつ 憎い。

 他動詞は、動詞が表す動きが働きかける対象を「を」で表します。(1)のような他動詞はその働きかける対象を「を」で表します。だから「ケーキ」は「食べる」の対象です。動詞じゃなくても、「好き」「嫌い」「憎い」などのイ形容詞、ナ形容詞はその感情が向けられた対象を「が」で表します。(2)なら「ケーキ」、(3)なら「あいつ」が述語の対象にあたります。
 こんなのが対象。それを選択肢から探してみましょう。

選択肢1

 これはハガ構文なのでややこしくなってる気がするんですが… 「ナポリが本場だ」だけを見てみましょう。これは「私が高橋だ」と同じ構文です。AとBが同じものであること(A=B)を述べる同定文であり、このときのAはBの同定関係の主体にあたります。「ナポリ」は主体であり、対象ではありません。この選択肢は間違い。

選択肢2

 「嫌い」の対象は「が」で表します。「パセリ」が「嫌い」という感情が向けられる対象。これが答え。

選択肢3

 「細い」対象は「ウエスト」じゃないです。「細い」という性質を持っている主体が「ウエスト」であって、この「が」は主体。対象ではありません。

選択肢4

 「マグロが名物」は選択肢1と同じで同定文。「マグロ」は同定関係の主体です。この選択肢は間違い。

 したがって答えは2
 この問題は主体の「が」なのか対象の「が」なのかを見極める問題と言えます。

問3 主体や対象以外って?

 選択肢には「は」で主題化された成分が並んでいます。このように主題の「は」が含まれる文を有題文と言います。有題文は主題がない無題文に含まれる成分を主題化した文なので、有題文には対応する無題文が存在します。例えば…

 (1) この部屋は 私が 掃除しました。 (有題文)
 (2) 私が この部屋を 掃除しました。 (無題文)

 (1)には「この部屋は」という主題が含まれているので有題文です。「この部屋」を主題化している文です。では、「この部屋」を主題化する前の元々の文(無題文)は一体何だったんでしょう? すると(2)のような文が得られます。この文には主題の「は」はありません。要するに、(2)の文の「この部屋を」を主題化したのが(1)の文ということです。「は」がある文は必ず対応する「は」が無い文が存在しますので、各選択肢においてもまずそれを明らかにしましょう。

 そして主体や対象以外の成分を主題化している例を探します。

選択肢1

 (3) このグラウンドはかなり広い。(有題文)
 (4) このグラウンドがかなり広い。(無題文)

 選択肢1に対応する無題文は(4)でした。「このグラウンド」は述語「広い」の主体にあたります。(3)は主体を
 「広い」という性質を持った主体が「このグラウンド」だから、これは主体を主題化している例。この選択肢は間違いです。

選択肢2

 (5)彼は2時間後に出発する。
 (6)彼が2時間後に出発する。

 選択肢2に対応する無題文は(6)です。(6)の「彼」は述語「出発する」という動作を行う主体であり、選択肢2は主体を主題化した文でした。この選択肢は間違い。

選択肢3

 (7) 昨日は図書館に行きました。
 (8) 昨日 図書館に行きました。

 (8)は選択肢3に対応する無題文です。「昨日」は述語「行く」の時間を表していますが、格助詞はありません。「昨日」は時を表す副詞と見る見方が一般的かと思われます。いずれにしても「昨日」は述語「行く」の主体でも対象でもなく「時」。「時」を主題化しているこの選択肢が答えです。

選択肢4

 (9) 犯人はもう捕まえました。
 (10) 犯人をもう捕まえました。

 選択肢4に対応する無題文は(10)のようになります。「犯人を」を主題化してたんですね。「犯人」は述語「捕まえる」の動作の対象。対象を主題化しているこの選択肢は間違いです。

 だから答えは3です。
 うーん、この問題はなかなか難しい。さすが試験Ⅲって感じがします。

問4 従属節に「は」が使えるやつ

 各選択肢の表現を使いながら、その中に「は」を入れて何か例文を作ってみましょう。

選択肢1

 私は行くけれど、彼は行かない。
 私は行くし、彼も行く。

 従属節に「は」を入れて例文を作ることができました。これが答え。

選択肢2

 雨は降ったら、涼しくなる。
 雨は降れば、涼しくなる。

 こんなダメな例文が作れました。
 条件節内に「は」は入らないのでこの選択肢は間違い。

選択肢3

 雨は降ったとき、私は外にいました。
 雨は降ったあと、虹が出ました。

 「は」が入れられない例文が作れます。これも間違い。

選択肢4

 私は鳥のように、私は空を呼ぶ。
 私は痛いほど、私はあなたの気持ちが分かる。

 従属節に「は」が含まれていますが、いずれも変。従属節内の「は」は示す必要がないので省略(?)されます。省略というと語弊がありますが、要するこの種の従属節は主節の主語を参照するので、従属節内で「は」を明示する必要はないわけです。

 一般に従属節の主節に対する従属度が低いものは、従属節は主節とは別に独自の「は」を持つことができます。従属度が高いと主節とは別の「は」を持つことが許されません。選択肢1にもあります「等位節」というのがポイント。等位・並列節は主節に対する従属度が低いので、従属節内に「は」が持てるわけです。

 したがって答えは1です。

問5 「は」の文法的特徴

選択肢1

 分裂文で私が必ず思い出すのが「私が飲みたいのは、コーラだ」です。これは「私はコーラを飲みたい」という元々の文があって、この文の中の強調したい「コーラ」を取り出し「私が飲みたいのは、コーラだ」となっています。こういうのを分裂文(強調構文)と言います。
 ここでいう焦点とはこの文の一番言いたいこと。強調するために「コーラ」を取り出して分裂させたわけですから焦点は「コーラ」。でもこの文の主題は「私が飲みたいの」ですね。「は」で示されている部分は焦点である「コーラ」ではありません。だからこの選択肢は間違いです。

選択肢2

 例えば、話題転換で「そういえばあの2人別れたの?」みたいに、それまでになかった話題を提示するときは新しい話題を主題にする必要があるので「あの2人」に「は」をつけて主題化します。新しい話題を設定するのに用いられます。じゃあこれが答えかというとちょっと微妙で…
 この返答として「あの2人もう別れたみたいだよ」とかが考えられます。この「は」は相手の話題をそのまま引き継いで、まだ私は「あの2人」の話題について話していますよーっていう標識でもあります。だから「は」は新しい話題を提示する機能もあるし、話題を継続させる機能もある。この選択肢は正しいようで不十分。「場合にも用いられる」だったらよかったんだけど。この選択肢は間違いです。

選択肢3

 取り立て助詞とは文中にない情報を暗示する助詞です。「私は野菜は好きです」なんて言うと、何だか「肉は嫌い」みたいな意味が感じられませんか? これは「は」が持つ対比の意味です。そしてこの「は」は対比の意味を持つ取り立て助詞。取り立て助詞の用法を持つ「は」はあるのでこの選択肢は間違いです。

選択肢4

 「どこは」「何は」「いつは」「なぜは」で文を作ることはできません。疑問詞は主題化することはできません。疑問詞はそれが何か分からないから疑問なのであって、何か分からないものを文の主題(テーマ)にすることは難しいんです。だからこの選択肢が正しい!

 したがって答えは4です。




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