内の関係
(1a)(2a)のような名詞修飾構造では、被修飾名詞(底の名詞)はそれに格助詞を付けて名詞修飾節の述語と統語的に結びつけることができる関係が見られます。(1a)であれば、被修飾名詞「人」に格助詞「が」をつけたものが、名詞修飾節の述語「撫でている」と結びつき、「人が撫でている」とすることができます。この種の名詞修飾構造は被修飾名詞が名詞修飾節の述語に対する補語と考えることができるような関係を持っており、このような名詞修飾節と被修飾名詞の関係を内の関係と呼びます(寺村 1993: 195)。内の関係は関係節(relative clause)とも呼ばれます。
(1)a 猫を撫でている人
b 人が猫を撫でている
(2)a 彼女が着ている服
b 彼女が服を着ている
内の関係の名詞修飾構造は、もともとの文で補語だった要素が述語と補語の意味関係を表す助詞(格助詞)を失い、そうして形式上補語でなくなった要素が被修飾名詞の位置に転じたものと考えられます。(1b)においては、述語「撫でている」の補語である「人が」の格助詞「が」を除いた「人」を被修飾名詞の位置に転じさせたものが(1a)です。(1b)には「人が」の他にもう一つ「猫を」という補語がありますが、これも格助詞「を」を除いた「猫」を被修飾名詞の位置に転じさせることで「人が撫でている猫」という名詞修飾構造を作ることができます。このように、もともとの文の補語に含まれる名詞を被修飾名詞の位置に転じさせることを関係節化と言います。
被修飾名詞に転じることができる名詞の格
もともとの文の補語に含まれる名詞が被修飾名詞に転じるためには、その名詞が何らかの格助詞によって述語との意味関係を表していることが前提です。日本語の格助詞は「が」「を」「に」「へ」などいくつかあり、それらが据えられた名詞が被修飾名詞に転じることができるかどうかは、その名詞がどのような格を表す助詞に据えられているかによります。
(1)a 猫を撫でている人 (ガ格名詞が被修飾名詞に)
b 人が猫を撫でている
(2)a 彼女が着ている服 (ヲ格名詞が被修飾名詞に)
b 彼女が服を着ている
(3)a 荷物を置いた部屋 (ニ格名詞が被修飾名詞に)
b 荷物を部屋に置いた
(4)a これから向かう空港 (ヘ格名詞が被修飾名詞に)
b これから空港へ向かう
(5)a 昔遊んだプール (デ格名詞が被修飾名詞に)
b 昔プールで遊んだ
(6)a 泥棒が逃げていった窓 (カラ格名詞が被修飾名詞に)
b 泥棒が窓から逃げていった
(7)a 私が向かった目的地 (マデ格名詞が被修飾名詞に)
b 私が目的地まで向かった
(8)a 彼が結婚した女性 (ト格名詞が被修飾名詞に)
b 彼が女性と結婚した
(9)a 試験がある明日 (ゼロ格が被修飾名詞に)
b 明日Φ試験がある
上記に挙げたのは全て関係節化できる例ですが、実際には表す格によって関係節化できたりできなかったりします。例えば(5b)のデ格名詞「プール」は被修飾名詞に転じて(5a)のように内の関係が認められる名詞修飾構造を作ることができますが、「彼が風邪で休んだ」のようなデ格名詞「風邪」は「*彼が休んだ風邪」のように被修飾名詞になることができません。また、日本語においてヨリ格名詞は関係節化できません(寺村 1993: 235-236)。
参考文献
鈴木孝明(2015)『日本語文法ファイル―日本語学と言語学からのアプローチ―』159-164頁.くろしお出版
寺村秀夫(1993)『寺村秀夫論文集Ⅰ -日本語文法編-』192-296頁.くろしお出版
日本語記述文法研究会(2008)『現代日本語文法6 第11部 複文』43-51頁.くろしお出版

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