項(argument)
述語にとって、それとかかわる補語の重要度には差異が認められます。文脈状況から離れて「食べた」とだけ言うと「誰が食べた?」や「何を食べた?」のような反問を誘発する可能性が高く、したがってこれに対応する補語「~が」や「~を」は動詞からの要求度が高い補語と言えます。状況から切り離された場面において、それが無ければ述語が表す事態の描写が不完全であると感じられるような補語を項(argument)、あるいは必須補語(primary complement)と言います。述語「食べた」に対する「誰と?」や「どこで?」のような反問を誘発しにくい補語は副次補語(secondary complement)です。
補語 | 補語 | 補語 | 補語 | 述語 | |
項 | 副次補語 | 副次補語 | 項 | ||
(1) | 私が | 友達と | 友達の家で | ケーキを | 食べた |
(2) | 私が | 8時に | 美容室で | 髪を | 切った |
もっと簡単に言い換えると…
「食べた」と言うだけだと、誰が食べたかの情報が不足してるから「誰が食べたの?」って聞きたくなるはず。それから「何を食べたの?」とも聞きたくなるはず。「食べた」という事態を不足なく表すには「~が~を食べた」と言わないといけません。「~が」と「~を」の部分は重要な情報です。このような必須の名詞を項(必須補語)と呼んでいます。でも、「食べた」だけ聞いて「何時に?」とか、「どこで?」とか、そんな情報はまず聞きたがらないと思います。「~が」や「~を」に比べてあまり重要ではない情報の部分は項ではなく、副次補語と言います。
項の認定は曖昧
特定の文脈に依存しない場面において述語の事態を表すのに必要な補語を項と言うわけですけど、述語の事態を表すのに必要かどうかなんて言われても人によって感じ方は違うからこの定義は曖昧だなーといつも思います。
(3) 私は 8時に 起きました。
(4) 私は 車で 学校に 行きます。
(5) お皿が 粉々に なった。
(3)の「8時に」、(4)の「車で」、(5)の「粉々に」は一般に項として扱われないですが、人によって項に感じる人もいます。「起きました」って言ってるからには起きた時間の情報も必要でしょ? って考え方ですよね…。 (4)だってそう。「行く」という移動には必ず移動する手段がまとわりつきます。車なのか、バスなのか、自転車なのか等々… 人によっては車がないと学校に行けない、バスがないと学校に行けないなんて人もいるわけで、そういう人たちにとっては「車で」は項に感じてもしょうがない気もする。ただこれは特定の文脈から切り離して考えてないので良くないわけだけど、じゃあ特定の文脈って何だろう?って疑問も浮かんできます。
項を意味から迫るとこんなふうに曖昧になっちゃうので形から迫りたいがむずい。
参考文献
寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版
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