令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題1(8)解説
(8)「ている」の用法
「ている」は大きく分けて2つの意味があります。
(A) ご飯を食べている
→ ご飯を食べている最中だ <進行中>
(B) 彼は結婚している
→ 彼はすでに結婚している状態だ <結果の状態>
一つは(A)のように動きの<進行中>を表す「ている」です。この「ている」は「~ている最中だ」のように言い換えることができて、その動きが持続していることを表します。もう一つは(B)のように<結果の状態>を表す用法です。(B)は「*彼は結婚している最中だ」のように言い換えることはできないので、この「ている」は<進行中>ではありません。代わりに「すでに~ている状態だ」みたいな言い方に言い換えられます。(A)の「ている」はその時点において動作が持続していることを表すのに対し、(B)の「ている」は過去にその動作が生じて状態が変化し、その状態が結果として残っていることを表すものです。そして、金田一(1976)は(A)のように「ている」をつけると<進行中>の解釈になる動詞を継続動詞、(B)のように「ている」をつけると<結果の状態>の解釈になる動詞を瞬間動詞と区別しています。この区別は試験でめっちゃ出題されるので試験対策的には覚えておいたほうがいいです。詳しくは「【金田一】アスペクトの観点から見た動詞分類(状態動詞、継続動詞、瞬間動詞、第四種の動詞)」に。
では、「~ている最中」や「すでに~ている状態だ」に言い換えられるかどうかで、各選択肢が継続動詞か瞬間動詞かを判別していきましょう。
選択肢1
(C) 着物を着ている最中だ <進行中>
(D) すでに着物を着ている状態だ <結果の状態>
「着物を着ている」は、(C)のように<進行中>の解釈も可能ですし、(D)のように<結果の状態>の解釈も可能です。
選択肢2
(E) 髪を染めている最中だ <進行中>
(F) すでに髪を染めている状態だ <結果の状態>
「髪を染めている」は(E)(F)のようにどちらの解釈も可能です。
選択肢3
(G)✕腕を組んでいる最中だ <進行中>
(H) すでに腕を組んでいる状態だ <結果の状態>
(G)はどうもおかしいです。例えば、箸で食べ物を掴んで口に運んで噛んで飲み込むという一連の「食べる」という動作を繰り返すことで「食べている」が<進行中>の解釈になるのですが、腕を組んで、腕をほどいて、また組んで… という動作を繰り返しているとは考えられないので、「腕を組んでいる」が<進行中>の解釈になるとは思えません。この選択肢の解釈は(H)の<結果の状態>だけだと思います。
選択肢4
(I)✕椅子に座っている最中だ <進行中>
(J) すでに椅子に座っている状態だ <結果の状態>
この選択肢も選択肢3と同じく、座って立って座って立って…という動作の繰り返しが生じているとは考えにくいので、「椅子に座っている」が(I)のように<進行中>と解釈されることはまず無いです。「椅子に座っている」の解釈は(J)の<結果の状態>です。
選択肢5
(K) 会社で働いている最中だ <進行中>
(L) すでに会社で働いている状態だ <結果の状態>
「会社で働いている」の解釈は(K)の<進行中>がたぶん第一。(L)のように<結果の状態>で解釈することも可能といえば可能だと思います。
さて… とすると各選択肢の<進行中>と<結果の状態>の解釈可能性は次のようになります。
| <進行中> | <結果の状態> | |
|---|---|---|
| 1 | 〇 | 〇 |
| 2 | 〇 | 〇 |
| 3 | ✕ | 〇 |
| 4 | ✕ | 〇 |
| 5 | 〇 | 〇 |
うーん、これだと選択肢が絞れません…ここまでたくさん解説書いたのに、作問の意図は<進行中>と<結果の状態>ではないんだと分かりました。ここで重要なのは<繰り返し>の「ている」(庵 2001: 155-156)なのかな?
(M) 毎日散歩している。 <繰り返し>
(N) 会社で働いている。 <繰り返し>の解釈可
たとえば(M)は今まさに散歩している最中でもなく、散歩した結果の状態を表しているわけでもなく、ある頻度で繰り返し生じる動作を表しています。これは<進行中>でも<結果の状態>でもない、<繰り返し>と呼ばれる「ている」です。「会社で働いている人」は、<進行中>の解釈もできますけど、「毎日会社で働いている人」のように時の副詞をつけて<繰り返し>の解釈が可能です。でもそんなことを言うと、選択肢1も「毎日着物を着ている」みたいに繰り返しの解釈も可能だし、これでもどうも選択肢を1つに絞れないのです。
この問題を解くには何か他の武器がいるようですが、いまのところよく分かりません。
とりあえず、公式の答えは5です。ご協力お願いいたします。
参考文献
庵功雄(2001)『新しい日本語学入門―ことばのしくみを考える』155-156頁.スリーエーネットワーク
金田一春彦(1976)「国語動詞の一分類」『日本語動詞のアスペクト』5-26頁.麦書房

コメント
コメント一覧 (3件)
こんにちは。いつも参考にさせていただいています。
この問題は本当に苦戦しました。私は「染める」同様に「着る」は、瞬間動詞と継続動詞の両方の資質を持っていると考えます。例)今、着物を着ているのですがうまくできないので手伝ってもらえませんか。
という具合です。介護の日本語に携わっているので、着ることに時間を要します。「着る」が瞬間動詞だけと考えると納得できないのです。
>匿名さん
コメントありがとうございます! こちらの問題あらためて考えてみましたが、納得する根拠がなくて分からなくなってしまいました。解説は更新してその旨も書いております。
匿名さんがおっしゃるように、「染める」も「着る」も文脈によっては瞬間動詞にも継続動詞にもなれます。「今、着物を着ているのですがうまくできないので手伝ってもらえませんか。」ですと継続動詞の用法ですね。ですので、たぶん瞬間動詞と継続動詞の区別を問う問題ではないのだろうと思います。何か他の観点が必要なのだろうと… ところがそれが分からないので今困っているところです。
「死ぬ」のように生と死を分ける一瞬の出来事はほとんどの人から見て瞬間的な出来事だろうと感じられると思います。その感覚は言語的にも同じことが言えて、日本語では「死んでいる」というと<進行中>の解釈は不可能です。だから「死ぬ」はおそらく瞬間動詞の用法しかないのではないかと思われます。ただし、匿名さんご指摘のように「着る」は(比較的)瞬間的に終わることもあれば、着物のように動作が終わるまでに時間を要するものがあります。その時間感覚は言語的にも同じでした。「着物を着ている」といえば、<進行中>の解釈も<結果の状態>の解釈もできます。
投稿した者です。ご返信ありがとうございます。何年分もの過去問を解き、どうしてその選択肢なのか、を自分なりに導き出せるようトレーニングしながら、先生の解説も参考にさせていただいて日々気づきをもらっています。問題によって、問題作成者と相性が合わないなぁと思ったり(笑)意図が分からなかったり、色々ですね。でもそれも血肉に変えていければと思います。問題1⑻については意図があるのか、そもそもミスなのかまだわかりませんが、これからも学びを深めていきたいと思います。