JGPとJSPについて
かつての言語教育はどのような学習者に対しても単位取得や教養目的のための一般的な目的のための言語(LGP:Language for General Purposes)が教えられていました。しかし、学習者の目的に応じた効率的な言語教育の重要性が認識されるようになり、学習者のニーズを反映させたコースにもとづいて行う特定の目的のための言語(LSP:Language for Specific Purposes)が注目を集めることになります。これを受けて日本語教育でも、一般的な目的のための日本語(JGP:Japanese for General Purposes)に対して特定の目的のための日本語(JSP:Japanese for Specific Purposes)を扱った教育が広まりました。
JGP(Japanese for General Purposes)
日本国内の日本語学校などでは、学習者のニーズをほぼ無視してJLPTの合格に向けたカリキュラムが組まれることが多いです。こうしたコースで学ぶ日本語は一般的な目的のための日本語として位置づけられ、JGP(Japanese for General Purposes)と呼ばれます。通常学習者にニーズがないということはありえませんが、それほど明確でない場合や日本語学校側の都合などでニーズは考慮されず、カリキュラムの中でJGPが扱われます。
JSP(Japanese for Specific Purposes)
「IT系の業界で用いる日本語を学びたい」「水産業で使う日本語を学びたい」などの学習者にニーズにもとづいて作ったコースで扱われる特定の専門分野の日本語をJSP(Japanese for Specific Purposes)と言います。JSPの教育では学習者の特定のニーズを満たすことを目標としてコースを作るのでJGPに比べてゴールが明確であり、したがって教育結果がより強く求められます。
例えば、数か月後に日本で仕事をすることになる技能実習生などに対するJSPの教育では、JGPの初級では通常扱われない「遅刻する」「残業する」「キャンセルする」「音がする」「そのままにする」などの動詞が導入され、ただちに学習者のニーズを満たすような教育が行われます。JGPもJSPもどちらも日本語を扱いますが、JSPの学習項目は学習者のニーズにしたがってその優先順序が異なるのが特徴です。
JGPとJSPの違い
佐野(2014: 217)はJSPとJGPの特徴の違いを次のようにまとめています。その他詳細は同著をご覧ください。JGPとJSPについて詳しく書いています。
JSP | JGP | |
---|---|---|
目的 | 学習者の特定のニーズに合った目標、状況の変化でニーズや目的が変化する | 一般教養、単位取得、試験の合格など一定の期間内で学習目的が変わることはない |
項目 | 学習者の特定のニーズとゴール達成に必要な項目が中心となり、学習範囲は限定的である | テキストで紹介される言語構造、場面などが中心、学習対象範囲は広い |
順序 | 学習者ニーズに合わせて、学習項目の優先順位が決められ、目標達成に対して必要性の高いものを優先 | テキストによってあらかじめ学習項目の提出順序が決められている |
技能 | 目標達成に必要とされるスキルの習得が先行する | 言語の4技能をバランスよく伸ばす |
活動 | 時に学習者、職場上司、専門領域指導教官が学習活動内容に関与、学習者からの教材提供もある | 基本的に教師がテキスト、学習活動を決定、決定の話し合いに学習者が参加することは稀である |
時間 | 制約がある。期間、時間とも、専門科目の時間割や勤務時間が優先される | 大学などの機関が設定、学期が決まっており、継続して2年以上の学習も可能 |
教室 | 会議室、研究室など多様 | 一般的に教育機関施設内 |
全体 | 基本的に学習者主導型 | 基本的に教師主導型である |
参考文献
佐々木泰子(2007)『ベーシック日本語教育』149-150頁.ひつじ書房
佐野ひろみ(2014)「目的別日本語教育」『日本語教育実践』213-222頁.凡人社
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