双数形(dual)
名詞が表す事物を数える場合、東京方言では1つのものを単数形、2つ以上のものを複数形で呼び分けます。例えば一人称代名詞はその単数形に「わたし(ɰɑtɑɕi)」、複数形に「わたしたち(ɰɑtɑɕi-tɑtɕi)」があり、数によって異なる2種類の形が現れます。しかし、例えば湯湾方言に見られる数の数え方の文法体系は東京方言とは異なり、単数形と複数形の他に2つのものを指す双数形の3種類の形を持ちます(新永 2020: 75)。
一人称代名詞 | 単数形 | 双数形 | 複数形 |
---|---|---|---|
東京方言 | ɰɑtɑɕi | ɰɑtɑɕi-tɑtɕi | |
湯湾方言 | wɑ-n | wɑ-ttəə | wɑɑ-kʲɑ |
東京方言では1人の話し手を「私」といい、2人以上の話し手を「私たち」と言いますが、湯湾方言では1人の話し手を「wɑ-n(わん)」、2人の話し手を「wɑ-ttəə(わって)」、2人以上の話し手を「wɑɑ-kʲɑ(わあきゃ)」と区別します。このように、2つのものを数える場合にとる形を双数形(dual)、もしくは両数形と言います。上述したように東京方言には双数形は存在しません。
なお、サンスクリット語は対象が1つの場合、2つの場合、3つ以上の場合で次のように区別します(金子 2009: 103)。
単数形 | 双数形 | 複数形 | |
---|---|---|---|
サンスクリット語 | rājā (一人の王) |
rājānau(二人の王) | rājānaḥ(三人以上の王) |
※双数形を持つ言語では、単数が1つ以上、双数が2つ、複数が3つ以上となります。
参考文献
金子孝吉(2009)「言語の複数表現の多様性と対象認識について : 文化システムの研究 (2)」『滋賀大学経済学会 第325号』99-120.
斎藤純男・田口善久・西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』124頁.三省堂
新永悠人(2020)「北琉球奄美大島湯湾方言の名詞・代名詞複数形の機能とその通言語的な位置づけ」『言語研究 157』71-112.
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