【金田一】アスペクトの観点から見た動詞分類(状態動詞、継続動詞、瞬間動詞、第四種の動詞)

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【金田一】アスペクトの観点から見た動詞分類

 金田一(1976)では、日本語の動詞をアスペクトの観点から4つに分類する試みがなされています。その4つとは以下にまとめる状態動詞継続動詞瞬間動詞第四種の動詞です。これらは動詞の形態統語的な現象、特に「~ている」がつくかつかないかという文法的な振る舞いによって分類されたものですが、「~ている」以外のアスペクト表現や活用形、接辞等がつくかどうかにも一定の説明力を持っています。ただし、金田一(1976: 11)は「『国語に存在する総ての動詞が必ず右の分類の一つにうまくおさまる』と言うわけではない」と主張しているように、ある動詞が複数の分類にまたがることは珍しくありません。いろんな議論はありますが、ここではとりあえず金田一の主張をまとめるに努めます。

◆第一種の動詞 状態動詞

 第一種の動詞は、動作・作用ではなく”ある状態にあること”を表す動詞状態動詞と呼ばれます。この種の動詞は「ている」をつけることができないという特徴を持ちます。

 (1) 桜の木がある
 (2) この包丁はよく切れる
 (3) 準備に10分を要する
 (4) 称賛に値する
 (5) 彼は強そうに見える

 この種の動詞は動作・作用ではなく状態を表しているので、金田一は”形容詞に近い動詞”と述べています。また、(2)のようにいわゆる可能を表す動詞は全て状態動詞とも述べています。
 「猫が居る」の「居る」は「ている」がつけられないので状態動詞に分類できますが、後述するように第二種、第三種の特徴である命令形「居ろ」が作れる観点から、継続動詞に近いものと考えられます。(→形態的な特徴

◆第二種の動詞 継続動詞

 第二種の動詞は動作・作用を表す動詞ですが、その動作・作用はある時間内で継続する動作と捉えられるものです。例えば「食べる」という動詞が表す動作は通常瞬間的に終わるものとは考えられず、10分や20分とある一定の時間的な幅において常に行われる動作です。この種の動詞は「~ている」をつけることができ、「~ている」をつけた場合の意味は”その動作が進行中である”ことを表します。つまり、「ご飯を食べている」はご飯を口に運んで飲み込む(=食べる)という動作が何度も継続して行われているという意味になります。この種の動詞は継続動詞と呼ばれます。

 (6) ご飯を食べる
 (7) 歌を歌う
 (8) 歩道を歩く
 (9) 窓を拭く
 (10) 数学を勉強する

◆第三種の動詞 瞬間動詞

 第三種の動詞は継続動詞と同じく動作・作用を表す動詞ですが、その動作・作用は始まってから終わるまでが瞬間的で、時間的な幅をほとんど持ちません。例えば「死ぬ」は命が絶たれる瞬間を言うので、命が絶たれた瞬間に「死ぬ」という動作が始まりますが、始まったと同時に「死ぬ」という動作は終わります。「電気を消す」の「消す」も同様で、スイッチを押して電気が消えた瞬間に「消す」という動作は始まりますが、スイッチを押した瞬間に電気は消えてしまいますから、時間的な幅を持たずに「消す」という動作は終わります。この種の動詞は瞬間動詞と呼ばれます。

 (11) おじさんが死ぬ
 (12) 電気が消える
 (13) 学校を卒業する
 (14) 彼女と結婚する
 (15) 記憶を失う
 (16) 恋人ができる
 (17) 相手の気持ちを知る

 瞬間動詞は「~ている」をつけることができますが、その意味は継続動詞のテイル形が表す”進行中”とは別です。「ご飯を食べている」はご飯を口に運んで飲み込むという動作が何度も継続して行われているという意味(進行中)でしたが、「おじさんが死んでいる」は命が絶たれるという動作が何度も継続して行われているという意味ではありません。この例から分かるように、瞬間動詞の「~ている」は”その動作・作用が終わって、その結果が残存している”ことを表します。また、瞬間動詞は時間的な幅を持たないので、「~ている最中だ」などの進行中のアスペクト表現をつけることはできません。同じく動作・作用を表す継続動詞とはこの点が異なります。

◆第四種の動詞

 第四種の動詞は、第一種の動詞と同じく動作・作用を表しませんが、第一種の動詞は「~ている」がつけられないのに対し、第四種の動詞は常に「~ている」の形で用い、”ある状態を帯びることを表す動詞”としています。例えば「そびえる」は常に「山がそびえている」のように「~ている」の形で用います。

 (18) 山がそびえている
 (19) 彼女は丸い顔をしている
 (20) 日常にありふれている
 (21) その話は馬鹿げている
 (22) 彼は優れている
 (23) 彼はずば抜けている

 第一種、第二種、第三種の動詞は「た」をつけると過去時制を表しますが、第四種の動詞は「た」をつけても過去を表さず、現在を表します。

 (24) ここに桜の木があっ。 <第一種の動詞 過去時制>
 (25) ご飯を食べ。     <第二種の動詞 過去時制>
 (26) おじさんが死ん。   <第三種の動詞 過去時制>
 (27) 東にそびえ山々    <第四種の動詞 現在時制

複数の分類にまたがる動詞

金田一(1976)は日本語のすべての動詞がこの4つのいずれかに分類されるわけではなく、二つ以上の分類にまたがるものが非常に多いことを繰り返し述べています。

第一種と第二種を兼ねる動詞

 (28) あとで本を読む。        <継続動詞>
 (29) あの子は相当難しい本でも読む。 <状態動詞>

 「あとで本を読む」の「読む」はテイル形で進行中を表すので第二種の動詞(継続動詞)として用いられたものですが、「あの子は相当難しい本でも読む」の場合は「読める」の意なので状態動詞として用いられています。

第一種と第三種を兼ねる動詞

 (30) 机の上にりんごがある。  <状態動詞>
 (31) 明日大事件があるだろう。 <瞬間動詞>

 (30)(31)の「ある」は「~ている」がつけられないので状態動詞に思われますが、ル形の解釈が前者は<現在>なのに対し、後者は<未来>で異なります。「賞賛に値する」「山がそびえている」のように状態動詞と第四種の動詞はル形でテンスが<現在>と解釈され、「ご飯を食べる」「結婚する」のように継続動詞と瞬間動詞はル形でテンスが<未来>と解釈されるので、この面から言うと(30)は状態動詞で、(31)は継続動詞や瞬間動詞のような動作・作用を表す動詞に近いものと考えられます。さらにいうと、(31)の「ある」は「起きる」や「発生する」といった類の意なので文中で瞬間動詞的な働きをしています。

第二種と第三種を兼ねる動詞

 (32)a 彼が向こうから来る。    <継続動詞>
    b 彼が家に来た。       <瞬間動詞>
 (33)a 大勢の人が次々死んでいる。 <継続動詞>
    b さっき患者が死んだ。    <瞬間動詞>
 (34)a ご飯を立って食べる。    <継続動詞>
    b 合図があったら立つ。    <瞬間動詞>

 「来る」は(32a)のように移動主体が着点に向かって移動する意味を持つ場合、「~ている」をつけると進行中の解釈になるので継続動詞となり、(32b)のように移動主体が着点に到着する意味を持つ場合、「~ている」をつけると動作・作用の結果が残存していることを表すので瞬間動詞です。「死ぬ」は典型的には(33b)のように瞬間動詞として用いますが、「次々」などの副詞に修飾されることでテイル形が進行中の解釈となり(33a)、継続動詞として働きます。「立つ」は(34a)のように直立状態を維持する意味のときは継続動詞ですが、座っている状態から直立状態へ移行するという意味のときは(34b)のように瞬間動詞です。

第三種と第四種を兼ねる動詞

 (35)a 釘が曲がっている。 <瞬間動詞>
    b 道が曲がっている。 <第四種の動詞>

 (35)の2つの例文は同じように見えますが、(35a)は「~ている」を除いて「釘が曲がる」ということができますが、(35b)は「道が曲がる」ということはできません。前者は「曲がる」という動作の結果が残存しているという解釈ができることから瞬間動詞であり、後者は必ず「~ている」をつけて「曲がっている」の形をとる必要があるので第四種の動詞といえます。

その他の形態的な特徴

 4つの動詞は「~ている」がつくかどうか以外にも、様々な形態的な特徴が見られます。

 (36) *机があれ。   <状態動詞>
 (37) 本を読め。    <継続動詞>
 (38) 結婚しろ。    <瞬間動詞>
 (39) *山がそびえろ。 <第四種の動詞>

 継続動詞と瞬間動詞は命令形にできますが、状態動詞と第四種の動詞は命令形にできません。継続動詞と瞬間動詞にはその動作・作用の主体が存在するので、その主体に対して動作・作用を実現を命令することができます。しかし、動作・作用を表さない状態動詞や第四種の動詞にはそれができません。その他、継続動詞と瞬間動詞は受身形、使役形、可能形などにしたり、禁止接辞をつけやすいですが、状態動詞と第四種の動詞はできないという特徴もあります。

 (40) *机がありはじめる。  <状態動詞>
 (41) 本を読み始める。    <継続動詞>
 (42) *結婚し始める。    <瞬間動詞>
 (43) *山がそびえはじめる。 <第四種の動詞>

 「~し始める」「~し終わる」は継続動詞につきやすいですが、それ以外の動詞にはつきません。これらは動作の開始、動作の終了を表すので、動詞が動作・作用を表すものでなければいけません。また、「~し始める」「~し終わる」というためにはその動作・作用が時間的な幅を持っている必要があります。

 (44) *机があり直す。  <状態動詞>
 (45) 本を読み直す。  <継続動詞>
 (46) ?結婚し直す。   <瞬間動詞>
 (47) *山がそびえ直す。 <第四種の動詞>

 「もう一度~する」の意味をもつ「~直す」は状態動詞と第四種の動詞にはつきませんが、継続動詞にはつきます。瞬間動詞にもつけようと思えばつけられますが、その場合は「結婚し直す」のように不自然になります。瞬間動詞は「瞬間的に終る動作・作用を表わすと同時に、一度起ったら二度とは起こりがたい、いわば重大な動作・作用を表わすものが多い」(金田一 1976: 13)ので、それをもう一度繰り返す「~直す」がつけにくいようです。

参考文献

 金田一春彦(1976)「国語動詞の一分類」『日本語動詞のアスペクト』5-26頁.麦書房




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