敬意低減の法則
敬意低減の法則(敬意逓減の法則)とは、語や表現の丁寧さの度合いが使われているうちに低減し、使用できるコンテクストが丁寧ではない方向へ移る現象です(→語義堕落と関連)。
(1) おまえ(御前)
(2) きさま(貴様)
(3) あなた(彼方、貴方)
(4) きみ(君)
「おまえ」は相手の前方の空間である「前」の敬称で、江戸前期までは高い敬意を表す対称詞として目上の者に対して使われていましたが、19世紀初頭頃になると対等あるいは目下の者に対して用いられるようになりました。「きさま」は中世末から近世初期頃の武家の書簡で用いられた対称詞で、敬意を含むものでした。しかし、以後口語化して一般庶民にも用いられるようになると敬意を次第に失い、江戸時代の天保(1830~1844年)の頃には目下の者に対して用いるぞんざいな語になりました。「あなた」もかつては目上の者に使い、大正・昭和初期までは比較的高い敬意を含んでいましたが、現在では目下の者に対して用いる語になっています。「きみ」は、上代(およそ奈良時代まで)では主に女性が男性に対して用いる敬愛の対称詞でしたが、現代では対等あるいは目下の者を指すぞんざいな語になっています。これらにはもともとあった敬意が次第に失われていくという共通点が見られます。
二重敬語と敬意逓減の法則
「召し上がられる(召し上がる+られる)」「おっしゃられる(おっしゃる+られる)」「お見えになられる(お見えになる+られる)」のようないわゆる二重敬語が生じている理由も敬意逓減の法則に求めることができます。敬意低減の法則にしたがって、丁寧さの度合いが高い敬語も使われているうちにその敬意が低減し、既存の言い方、たとえば「召し上がる」「おっしゃる」「お見えになる」などでは敬意を十分に示すことができなくなっていくので、そこで低減した敬意を補うために二重敬語が採用されていると考えられます。
(1) 召し上がる → 召し上がられる (二重敬語)
(2) おっしゃる → おっしゃられる (二重敬語)
(3) お見えになる → お見えになられる (二重敬語)
参考文献
井上史雄(1999)『敬語はこわくない 最新用例と基礎知識』62-81頁.講談社
文化庁国語科(1996)『平成8年度 国語に関する世論調査』
前田富祺(2005)『日本語源大辞典』小学館

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