受身
動詞語幹に受身を表す接辞「-(r)are-」を付加し、動作による働きかけや作用を受ける被動作主を主語としてとる受動態(passive voice)の文を受身文と言います。例文(1)~(5)は全て、動詞語幹に「-(r)are-」が現れ、主格が何らかの作用を受けています。これらは全て受身文です。
(1) 私は 先生に 褒められた。
(2) 私は 友達に ボールを 投げられた。
(3) 私は 彼女に 宝物を 壊された。
(4) 私は 18歳のとき 父親に 死なれた。
(5) 私は 蚊に 腕を 刺された。
受身文を作る動詞の形態的特徴
どのような形態を受身と呼ぶかは言語によって異なります。日本語の場合は次のような受身の形態素を具えている「動詞の受身形」が述語に来ることによって受身の根幹をなします。
動詞の受身形 | 例 | |
---|---|---|
五段動詞(子音語幹動詞) | 動詞語幹 – are – (ru) | 書かれるkak – are – ru |
一段動詞(母音語幹動詞) | 動詞語幹 – rare – (ru) | 食べられるtabe – rare – ru |
サ変動詞 | suru → sare – (ru) | されるsare – ru |
カ変動詞 | kuru → korare – (ru) | 来られるkorare – ru |
ただし、一見して受身の形態素を具えていたとしても、文全体は受身文と認められないようなものがあります。例えば次のような文は受身の形態素を具えていますが、主格が何らかの作用を受けているとは考えられず受身文とは呼べません。
(5) 社長が来られました。 <尊敬>
(6) もうこれ以上食べられません。 <可能>
(7) 一般にそう考えられています。 <自発>
受身文の分類
受身文をその意味と文型の面から観察すると、受身文の中には大きく分けて異なる2種類のものがあることが分かります。次の例を見てください。
(8) 私は 先生に 褒められた。 (影響が直接的)
(9) 私は 友達に ボールを 投げられた。 (影響が直接的)
(10) 私は 彼女に 宝物を 壊された。 (影響が間接的)
(11) 私は 18歳のとき 父親に 死なれた。 (影響が間接的)
(12) 私は 蚊に 腕を 刺された。 (影響が間接的)
これらは全て主格に立つ名詞(私)が何らかの影響を受けたことを表す受身文ですが、(8)(9)はその影響は直接的で、(10)~(12)は間接的です。
(8)は先生が「褒める」という動作を私めがけて行っていますし、(9)も友達が「投げる」という動作を私めがけて行っています。しかし(10)は、彼女が「壊す」という動作を宝物めがけて行い、宝物が壊れた影響が最終的に私に及んでいます。(11)は父親の「死ぬ」という動作によって生きていない状態に変化した影響が間接的に私に及んでいます。このように受身文は意味の面から見ると、主格が何らかの影響を直接的に受けるか、間接的に受けるかという違いが見られます。
例文(8)(9)のような主格が何らかの影響を直接的に受けることを表す受身文は、一般に次のような文型をとり、以下の能動文と規則的に転換できます。
能動文 | Yが Xを ~するYが Xに ~する | ↔ | Xが Yに ~されるXが Yから ~されるXが Yによって ~されるXが Yで ~される | 受身文 |
一方、例文(12)~(14)のような主格が何らかの影響を間接的に受けることを表す受身文は、上記のような文型の規則的な転換ができず非文になってしまいます。例えば(12)をこの規則に照らして対応する能動文に転換すると「彼女が私を宝物を壊した」、あるいは「彼女が私に宝物を壊した」となり非文になってしまいます。こうした意味と文型の特徴を考慮して、(10)(11)のような受身文を直接受身(direct passive)、(12)~(14)のような受身文を間接受身(indirect passive)と区別します。間接受身には迷惑の受身、自動詞の受身、持ち主の受身の3つの下位分類があります。
┏ 直接受身
受身 ━┫
┗ 間接受身 ┳ 迷惑の受身
┣ 自動詞の受身
┗ 持ち主の受身
参考文献
日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス』くろしお出版
寺村 秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版
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