毎日のんびり勉強会開催中! 誰でも参加可。詳しくはこちらから

意味変化の典型的なパターンについて

目次

意味変化(semantic change)

 語の意味が変化すること意味変化(semantic change)と言います。例えば、植物などに見られる特定の色を表す中国語の「绿」は明朝時代に「不倫する」「浮気する」という意味を持ち、「他被绿了(彼は不倫された)」のように使われるようになりました(「戴绿帽子」を語源とする)。基本的には意味と形式の結びつきは恣意的(arbitrary)であるため、特定の意味がどの形式と結びつくかに制約はありませんし、ひとたび結びついたと思われる意味と形式であってもその結びつきは不変ではなく、何かをきっかけにして変化する可能性があります。
 ここでは意味変化の典型的なパターンである一般化特殊化語義堕落語義向上についてまとめます。なお、一般化と特殊化は使用できるコンテクストの増減の面から見て対称的であり、語義堕落と語義向上は話し手の指示対象に対する評価の面から見て対称的です。

一般化(generalization)

 語や表現が指し示す対象の範囲が拡張されるタイプの意味変化一般化(generalization)と言います。例えば、現代英語の arrive はもともとラテン語の ad-(to) と rīpa(shore)からなる俗ラテン語 arrīpāre が語源で、原義は「岸に着く」でしたが、意味が一般化して「到着する」という意味で用いられるようになっています。日本語の例としては、瀬戸市や瀬戸市周辺で作られた陶磁器を「瀬戸物」と呼んでいましたが、現代では一般化して陶磁器全般を「瀬戸物」と呼ぶようになっています。

 (1) arrive
 (2) 瀬戸物
 (3) 人生詰んだ
 (4) 外野は黙ってろ。

 そのほか、「詰む」は玉が相手の駒によって取られることが確定した状態を表す将棋由来の語でしたが、現代では使用できるコンテクストが拡張され、「人生詰んだ」などのように絶望的な状況を表す語として使用されるようになっています。また、野球において内野以外のフェアゾーンを表す「外野」も、「外野は黙ってろ」のように直接物事に関係しない第三者を表すのも一般化の例です。

特殊化(specialization)

 語や表現が指し示す対象の範囲が縮小されるタイプの意味変化特殊化(specialization)と言います。例えば、古英語で鳥一般を表した fugol は現代英語で fowl でニワトリや家禽を表すようになっています。この意味変化は日本語でも見られ、「とり」は本来鳥一般を表しますが、「とりにく」などと言うときはニワトリを指します。また、古英語 meteは食べ物を表す語でしたが、現代英語 meat で食用の肉を表すようになっています。

 (5) 古英語 fugol(鳥一般) → 現代英語 fowl(ニワトリ、家禽)
 (6) 古英語 mete(食べ物一般) → 現代英語 meat(食用の肉)
 (7) 古英語 hund(犬一般) → 現代英語 hound(猟犬)
 (8) 古英語 wīf(女) → 現代英語 wife(妻)
 (9) たまご(卵全般) → たまご(鶏卵)

 日本語の例でいうと、「たまご」はもともと鳥や魚などのメスが産む球形のものを指しますが、「たまご買いに行ってくる」などの「たまご」はもっぱら鶏卵を指しており、意味が特殊化しています。語の意味が特殊化すると使用できるコンテクストが限定されます。

語義堕落(pejoration)

 もともと指示対象を肯定的に評価していた語が否定的な評価を表すようになる意味変化語義堕落(pejoration)と言います。女性に関する表現や婉曲表現によく見られます。例えば、現代英語の witch は古英語 wicce が語源で、女性の魔法使い(魔女、女呪術師)を指す語です。しかし、次第に鬼婆や醜い老女という意味で用いられるようにもなり、語の意味が好ましくない方向へ変化しました。wench も同様で、若い女性から売春婦やふしだらな女という意味に変わっています。

 (10) wicce(女性の魔法使い) → witch(鬼婆、醜い老女)
 (11) wench(若い女性) → wench(売春婦、ふしだらな女)
 (12) sleep with(~と一緒に寝る) → sleep with(性的関係を持つ)
 (13) 寝る(睡眠) → 寝る(性的関係を持つ)
 (14) bathroom(浴室) → bathroom(トイレ)
 (15) 貴様(敬意を込めた対称詞) → 貴様(罵って使う対称詞)
 (16) おめでたい日(祝うべき状態) → おめでたい人(間抜け)

 公衆の面前で堂々と言うのははばかられるような事柄、例えば性行為、死、排泄行為などは多くの文化で直接表現することは避けられ、婉曲的な表現が用いられる傾向があります。英語の sleep with、hook up with、make love、bed with などは性行為に直接言及しない婉曲表現であり、日本語でも「寝る」が同じように使われます。
 他にもかつて目上の者に敬意を示す意味を持っていた「貴様」は、現代では相手を罵る語として用いられるようになっています。これも語義堕落の例です。(→敬意低減の法則

語義向上(amelioration)

 もともと指示対象を否定的に評価していた語が肯定的な評価を表すようになる意味変化語義向上(amelioration)と言います。minister の語源である古典ラテン語 minister(召使い、使用人)は否定的な意味を持っていましたが、現代英語では聖職者(牧師)や大臣といった意味に変化しています。これは語義向上の例です。

 (17) minister(召使い、使用人) → minister(聖職者、大臣)
 (18) That was a fucking awesome concert. (あれは本当にすごいコンサートだった)
 (19) くそ面白いコンサートだった。

 fuck は悪い意味を持っていましたが、現代英語では(18)のように良い意味として用いることもできます。日本語の「くそ」も否定的な意味を持っていますが、(19)のように良い意味で用いることもできます。

参考文献

 梅田修(1990)『英語の語源事典 英語の語彙の歴史と文化』39頁.大修館書店
 川本茂雄(1979)『英和辞典』講談社
 下宮忠雄・金子貞雄・家村睦夫(1989)『スタンダード英語語源辞典』29,202,249,316頁.大修館書店
 寺澤盾(2016)『英単語の世界 多義語と意味変化から見る』67-103,181-182頁.中央公論新社
 前田満(2012)「意味変化」『意味論 朝倉日英対照言語学シリーズ6』106-133頁.朝倉書店




コメント

コメントする

目次