6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

母音挿入とは?

母音挿入(vowel epenthesis)

 日本語は語彙の大半が開音節のため、外国語から閉音節構造をとる語を借用するとき、日本語の開音節構造に合致させようと母音を挿入して閉音節を回避します。このような現象を母音挿入(vowel epenthesis)と言います。

 (1) rhythm [ríðm] → リズム [ɾidzɯmɯ]
 (2) strike [strάɪk] → ストライク [sɯtoɾɑikɯ]

 例えば、英語の rhythm は 母音 [i] に頭子音 [r]、尾子音 [ð], [m] がついた1音節の語で、母音は [i] 一つです。しかし日本語に借用されると「リ」「ズ」「ム」の3音節からなる語「リズム」[ɾidzɯmɯ] となり、母音が [i], [ɯ], [ɯ] の3つに増えました。日本語の音節開音節が優勢のため、子音で終わる閉音節構造を回避するために音節末に母音が挿入され、3音節語の「リズム」には母音が3つ含まれるようになっています。strike も借用されると5音節の「ストライク」となり、母音が5つになります。

 開音節が優勢の日本語は閉音節をそのまま借用することを許容しません。その音を日本語の音節構造に合わせようとする力が働き、結果母音挿入が起こって開音節化させます。こうした工夫があって、今日本語にはたくさんの外来語が輸入されています。

参考文献

 窪園晴夫(1999)『日本語の音声』217-235頁.岩波書店
 野村潤(2015)「日本語母語話者による英語の子音連続への知覚的母音挿入 : 音韻処理と語彙アクセスに対する示唆」『京都女子大学人文学会 第63号』37-46頁




コメント

コメントする