母音(vowels)
母音(vowels)とは、呼気の通り道にある調音器官(声門、舌、歯、唇)によって閉鎖や狭めを作らず、肺からの呼気の流れを妨げないで発する音です。基本は声帯振動を伴う有声音ですが、ささやき声などでは無声音になります。国際音声記号(International Phonetic Alphabet:IPA)の2020年版によれば、母音は次の図(IPA2020)に示す28種類あり、これらは円唇性(唇の丸めの有無)、舌の前後位置(舌先を基準とする)、舌の高さ(口の開き具合)の3要素にしたがって分類されています。
円唇性は唇を丸めて発音するか、丸めないで発音するかの2種類に分けられ、それぞれ円唇母音、非円唇母音と言います。上図で対になっている母音のうち、左側に位置するのが非円唇母音、右側に位置するのが円唇母音で、日本語標準語の非円唇母音には [i][e][ɑ][ɯ] が、円唇母音には [o] があります。舌の前後位置は前舌母音、前舌め母音、中舌母音、後舌め母音、後舌母音の5つに分けられますが、日本語標準語では前舌母音( [i][e] )と後舌母音( [ɑ][o][ɯ] )の2つだけ。舌の高さは狭母音(高母音)、広めの狭母音、半狭母音(半高母音)、中央母音、半広母音(半低母音)、狭めの広母音、広母音(低母音)の7種類に分けられますが、日本語標準語では狭母音( [i][ɯ] )、半狭母音( [e][o] )、広母音( [ɑ] )の3つです。これを踏まえて、日本語標準語にある母音だけ残して書き換えると次のようになります。
これをもっと簡便に書いたものが図3で、これは日本語標準語の母音の概観を捉えるのに役立ちます。(日本語教育能力検定試験を受験する人であればこれをささっと書けるようになれれば母音の問題は解けます)
日本語標準語の母音を「イエアオウ」の順で発音していくと、はじめの「イ」で舌の位置が最も高く、「ア」で最も低くなって、「ウ」に向かって再び高くなっていきます。その時の口の開き具合は 狭→広→狭 と変わります。舌の前後位置も「イエ」では前側に、「アオウ」では後ろ側に位置します。
母音 | 円唇性 | 舌の前後位置 | 舌の高さ(口の開き) |
---|---|---|---|
[i] | 非円唇 | 前舌 | 高母音(狭母音) |
[e] | 非円唇 | 前舌 | 半高母音(半狭母音) |
[ɑ] | 非円唇 | 後舌 | 低母音(広母音) |
[o] | 円唇 | 後舌 | 半高母音(半狭母音) |
[ɯ] | 非円唇 | 後舌 | 高母音(狭母音) |
参考文献
小泉保(1996)『音声学入門』85-101頁.大学書林
国際音声記号(改訂 2020) ←魚拓
城生佰太郎(2008)『一般音声学講義』71-94頁.勉誠出版
服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』27-45頁.朝倉書店
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