異化(dissimilation)
異化(dissimilation)とは、同じ音もしくは類似した音が近接して並んでいる場合に、その近接を嫌って一方が異なる音に変化する現象ことです。日本語では「七日」の例が挙げられます。本来は /nanaka/ と読まれるはずですが、こうすると /a/ が3つ連続してしまいます。そこで2拍目に現れる /a/ を /o/ に変えて /nanoka/ となりました。
中国語標準語(北京語)は一声から四声までの声調が語を弁別するアクセントとして働いています。このうち三声が連続して「三声+三声」のような発音になる場合に、その連続を嫌って「二声+三声」に声調が変化します。これも異化の例です。
(1) 你好 nǐ hǎo → ní hǎo
(2) 很好 hěn hǎo → hén hǎo
(3) 九点 jiǔ diǎn → jiú diǎn
(4) 小米 xiǎo mǐ → xiáo mǐ
ライマンの法則は異化によるものです。「神風」が「かみがぜ」にならないのは、濁音「が」と濁音「ぜ」が近接していることを嫌った結果、連濁を避けていると考えられるからです。
(5) 神風 kami + kaze → kamikaze
(6) 青髭 ao + hige → aohige
異化が生じる理由は「刺激の強さにほぼ比例して弁別閾値が逓減する」という心理学で定説となっているウェーバーの法則(Weber’s law)で説明可能。「七日」の例であれば、「ななか」で同じ母音が「 a a a 」と連続すると注意力が低下し聴きにくくなります。揃っていた音を不揃いの「 a o a 」とすることで聴覚的、認知的な「聞きやすさ」を満たしています。
参考文献
窪園晴夫(1999)『日本語の音声』122-131頁.岩波書店
城生佰太郎(2008)『一般音声学講義』243-244頁.勉誠出版
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