平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説
(1)同音異義で活用が異なるもの
同音異義でも活用の種類が違うものを探します。活用の種類は動詞の活用のよるグループ分け(五段動詞、一段動詞など)を指すので、各選択肢の動詞のグループを判別します。サ変動詞(する)とカ変動詞(来る)を除いて、それ以外の動詞が五段動詞か一段動詞かを判断するには、ナイ形にするのが最も一般的。動詞語幹に -anai がついているものが五段動詞、-nai がついているものが一段動詞です。五段動詞と一段動詞の見分け方についてはこちらに詳しくはまとめています。
1 「切る」は五段動詞(kir-anai)
「着る」は一段動詞(ki-nai)
2 「植える」は一段動詞(ue-nai)
「餓える」は一段動詞(ue-nai)
3 「避ける」は一段動詞(sake-nai)
「裂ける」は一段動詞(sake-nai)
4 「要る」は五段動詞(ir-anai)
「炒る」は五段動詞(ir-anai)
選択肢1だけ同音だけどグループが違います。
答えは1です。
(2)異形態
日本語の<過去>の時制を表す形態には /-ta/ と /-da/ があります。例えば「食べる」ならタ形「食べた」で /-ta/ が現れ、「踏む」ならタ形「踏んだ」で /-da/ が現れます。この2つの形態は別物ですが、意味が同じなので一つの形態素 {ta} にまとめることができます。図にするとこんな感じ。
<過去>を表す形態素 {ta} は、ある特定の環境で -ta という形態が実現し、またある特定の環境で -da という形態が実現します。このように一つの形態素が異なる形態を複数持つとき、それらの形態はそれぞれその形態素の異形態と呼びます。
だから答えは3です。
他の選択肢について簡単に。
1 同じ音素の中に属している個々の異なる音。(→音素)
2 長音、促音、撥音の総称。
3 同じ意味を持ち、環境によって異なる形態をとるもの。
4
(3)動詞語幹末尾音と過去を表す形式
動詞語幹の末尾音が イ のときに /-ta/ が現れ、 ウ のときに /-da/ が現れる、ということなので、各動詞の末尾音に注目してこの問題を解きます。次の表は動詞語幹末尾音とタ形の関係が一覧できます。
分類 | 辞書形 | 過去形 | 動詞語幹 | 動詞語幹末尾音 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
五段活用 | ガ行五段活用 | 脱ぐ | 脱いだ | nug | g | 有声子音 |
マ行五段活用 | 飲む | 飲んだ | nom | m | 有声子音 | |
バ行五段活用 | 遊ぶ | 遊んだ | asob | b | 有声子音 | |
ナ行五段活用 | 死ぬ | 死んだ | sin | n | 有声子音 | |
ラ行五段活用 | 取る | 取った | tor | r | 有声子音 | |
ワ行五段活用 | 会う | 会った | aw | w | 有声子音 | |
カ行五段活用 | 書く | 書いた | kak | k | 無声子音 | |
タ行五段活用 | 待つ | 待った | mat | t | 無声子音 | |
サ行五段活用 | 話す | 話した | hanas | s | 無声子音 | |
不規則活用 | サ行変格活用 | する | した | s | s | 無声子音 |
カ行変格活用 | 来る | 来た | k | k | 無声子音 | |
一段活用 | 上一段活用 | 着る | 着た | ki | i | 母音 |
下一段活用 | 寝る | 寝た | ne | e | 母音 |
まず、表の青い部分を見てください。「脱ぐ」「飲む」「遊ぶ」「死ぬ」などのように、動詞語幹末尾音が /g,m,b,n/ で終わる動詞はタ形で /-da/ が現れています。これらは全て有声子音です。
一方、表の赤い部分を見てください。「取る」「会う」などのように語幹末尾音が有声子音 /r,w/ で終わるもの、「書く」「待つ」「話す」「する」「来る」のように無声子音 /k,t,s/ で終わるもの、そして母音 /i,e/ で終わる一段動詞は全てタ形で /-ta/ になります。タ形で /-ta/ が現れる条件は様々。
語幹の末尾音が イ の場合は/-ta/が現れる。
有声子音の場合は /-ta/ も /-da/ も現れますが、無声子音と母音の場合は /-ta/ しか現れません。
したがって イ に入るものは「無声子音と母音」です。
語幹の末尾音が ウ の場合は /-da/ が現れるが、例外的に /-ta/ が現れるものもある。
/-da/ が現れるのは有声子音のうち、/g,m,b,n/ だけです。
例外的に /-ta/ が現れるのは有声子音のうち、/r,w/ ですね。
だから答えは2です。
(4)促音便
(3)より「語幹の末尾音が有声子音の場合は /-da/ が現れるが、例外的に /-ta/ が現れるものもある」という結果が得られてます。その例外とは、/r/ と /w/ でした。語幹末尾音が /r/ になるものの例として「取る」、/w/ になるものの例として「会う」があります。これらをテ形にしてみると、どちらも促音便が生じます。
取る(tor-u) → 取りて → 取って <促音便>
会う(aw-u) → 会いて → 会って <促音便>
だから答えは1です。
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