平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説
問1 ハ行転呼
現代のハ行は歴史的な音韻変化があって今のハ行になりました。
簡単にまとめると…
奈良時代以前 [p] (両唇破裂音)
奈良時代ごろ [ɸ] (両唇摩擦音)
江戸時代初期 [h] (声門摩擦音)
現代日本語におけるハ行音は、奈良時代以前は [p] (両唇破裂音) だったと言われています。それが奈良時代ごろには [ɸ] (両唇摩擦音へと変化しました。その後、語中・語尾のハ行音と語頭のハ行音は別の変化をします。
語中・語尾のハ行音は平安時代中期に唇音を失ってワ行に近い [β̞] へと変化します。この過程をハ行転呼といいます。鎌倉時代にはイ段とエ段が唇音を失って [β̞i] [β̞e] が [i] [e] に、さらに江戸時代初期にはオ段が唇音を失って [o] になり、現代の [ɰ]「ワイウエオ」に繋がります。
語頭のハ行は江戸時代初期には [h] に変わり、現代のハ行音 [h]と[ç]と[ɸ] になったと言われています。
ハ行音はかつて[p]両唇破裂音だったので、答えは1です。
問2 ハ行転呼
問1の解説より、ハ行音は平安時代中期、[ɸ] が 語中・語尾 に現れた場合は [β̞] で発音されるようになりました。
答えは2です。
問3 ハ行音について
ハ行音とバ行音について比較しています。
ハ行音 | バ行音 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
母音 | 子音 | 声帯振動 | 調音点 | 調音法 | 子音 | 声帯振動 | 調音点 | 調音法 |
[ɑ] | [h] | 無声 | 声門 | 摩擦音 | [b] | 有声 | 両唇 | 破裂音 |
[i] | [ç] | 無声 | 硬口蓋 | 摩擦音 | ||||
[ɯ] | [ɸ] | 無声 | 両唇 | 摩擦音 | ||||
[e] | [h] | 無声 | 声門 | 摩擦音 | ||||
[o] | [h] | 無声 | 声門 | 摩擦音 |
調音点でいうと、ハ行音は[h]声門音、[ç]硬口蓋音、[ɸ]両唇音から構成されていますが、バ行音は全て[b]両唇音です。調音法でいうと、ハ行音は全て摩擦音ですが、バ行音は全て破裂音です。ハ行音とバ行音は日本語では対立している音と認識されていますが、音声学的には対立していません。
まとめると、ハ行音とバ行音は声帯振動の有無以外にも 調音点と調音法 が異なり、同じハ行音のなかでも「は」「ひ」「ふ」の 調音点 が違います。
答えは3です。
問4 現代仮名遣い(昭和61年内閣告示)
『「現代仮名遣い」に関する内閣告示及び内閣訓令について』からの出題です。各選択肢と関連する部分を引用します。
選択肢1
この仮名遣いは、「ホオ・ホホ(頬)」「テキカク・テッカク(的確)」のような発音にゆれのある語について、その発音をどちらかに決めようとするものではない。
このようにあるので、「頬」は「ホオ」でも「ホホ」でもどっちでもいいってことです。この選択肢は間違い。
選択肢2
この仮名遣いは、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
各種専門分野で使われる表記は現代仮名遣いにしたがわなくてもいいのでこの選択肢は間違い。
選択肢3
この仮名遣いは、擬声・擬態的描写や嘆声、特殊な方言音、外来語・外来音などの書き表し方を対象とするものではない。
特殊な方言音の表記は対象外。この選択肢は間違い。
選択肢4
この仮名遣いは、主として現代文のうち口語体のものに適用する。原文の仮名遣いによる必要のあるもの、固有名詞などでこれによりがたいものは除く。
この仮名遣いは、擬声・擬態的描写や嘆声、特殊な方言音、外来語・外来音などの書き表し方を対象とするものではない。
これが答え。擬声・擬態的描写は対象としてません。
答えは4です。
問5 日本語の発音と表記
ハ行転呼とは、語中・語尾(語頭以外)の [ɸ] が [β̞] に変化した現象のことです。
ちょっとこの問題は勉強不足で解説不能なので… いつか更新します。
選択肢1
選択肢2
選択肢3
選択肢4
答えは1です。
コメント
コメント一覧 (3件)
ハ行転呼について
語中 語尾のことはわかりましたが、語頭は、どうなったのでしょうか。
気になって、すみません。教えて下さい。
>大福もちさん
語頭については解説にすでに書いております。
ハ行転呼とは、[ɸ]がワ行音に変化することです。語頭の[ɸ]はワ行音に変化していません。
先程のハ行転呼は、川「かは」が「かわ」と字も読み方も変わったということですね。
すみませんでした。