令和7年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3D解説
(16)ヴォイス(態)
ヴォイス(態)とは、動詞の形態が変わると格関係も変わる言語現象のことです。
(1)a 父が 私を 褒めた。
b 私が 父に 褒められた。 <受動態>
(2)a 私が 掃除を した。
b 母が 私に 掃除を させた。 <使役態>
たとえば、動詞が「褒める」という形のときは格関係が「~が~を」なのに(1a)、「褒められる」という形のときは格関係が「~が~に」に変わります。動詞が「する」のときは「~が~を」なのに(2a)、「させる」にすると格関係が「~が~に~を」に変わります(2b)。動詞の形が変わると格関係が変わるとはこういうことです。そしてこういうのを日本語では「態」と呼び、(2b)は受動態、(3b)は使役態と呼びます。
では、各選択肢、動詞の形が変わると格関係にも変化が生じるか見てみましょう!
選択肢1
(3)a 私が 将来を 考える
b 母が 私に 将来を 考えさせる <使役態>
動詞の形態が「考える」と「考えさせる」では格助詞が「~が~を」と「~が~に~を」で変わります。これはヴォイス。使役態です。
選択肢2
(4)a 私が ケーキが 好きだ
b 私が ケーキが 好きなんだ
「好きだ」と「好きなんだ」で格関係は「~が~が」と変わらないですね。というかそもそもこれ動詞じゃないので、仮に格関係が変わってもヴォイスじゃないです。
選択肢3
(5)a 私が カレーを 作る
b 私が カレーを 作っておく
動詞の形態が変わっても格関係は「~が~を」で変わりませんでした。これはヴォイスじゃない。
選択肢4
(6)a 車が 止まる
b 車が 止まるかもしれない
動詞の形態が変わっても格関係は「~が」で変わりませんでした。これはヴォイスじゃない。
答えは1です。
(17)格関係の変化
下線部Bにしたがって受身文「学生が先生から新入生を紹介された」の能動文を考えてみて、格関係がどうなっているか明らかにしましょう。
(1)a 学生が 先生から 新入生を 紹介された。 <受身文>
b 先生が 学生に 新入生を 紹介した。 <能動文>
能動文(1b)のガ格名詞(主語)「先生」は受身文(1a)でカラ格名詞になっています。また、能動文(1b)のニ格名詞「学生」は受身文(1a)でガ格名詞(主語)になっています。「新入生」は格関係に変化なくヲ格のまま。
1 違います。能動文の主語は受身文でヲ格ではなく、カラ格名詞になってます。
2 違います。能動文の主語は受身文でガ格ではなく、カラ格名詞になってます。
3 違います。能動文のヲ格名詞「新入生」は受身文でもヲ格名詞のままです。
4 これが答え。能動文のニ格名詞「学生」は受身文でガ格名詞(主語)に昇格しました。
答えは4です。
(18)受身文における主語の省略
(1) (私が) 先生に 叱られた。
(1)のような受身文において、コンテクストの支えがしっかりあれば、「私が」という情報は言わなくてもよくなり、省略されやすくなります。選択肢Cはそのようなことを言ってます。
とりあえず各選択肢を能動文に直して検証してみましょう。
選択肢1
(2)a 賞状が 理事長から 優秀者に 渡された。 <受身文>
b 理事長が 優秀者に 賞状を 渡した。 <能動文>
受身文と能動文どちらにも名詞「賞状」「理事長」「優秀者」が含まれていて、省略されているものは一つもありません。能動文の主語「理事長」も受身文にあるし、この選択肢は間違い。
選択肢2
(3)a 職場のパソコンが ウイルスに 侵された。 <受身文>
b ウイルスが 職場のパソコンを 侵した。 <能動文>
能動文の主語「ウイルス」は受身文に現れていますから、下線部Cに反します。この選択肢は間違い。
選択肢3
(4)a 競技場が Aによって 急ピッチで 建設されている。 <受身文>
b Aが 急ピッチで 競技場を 建設している。 <能動文>
受身文には「Aによって」が省略されているものと思われます。それは能動文で「Aが」と主語でした。能動文の主語が受身文に現れていないという点では、この選択肢は適当です。
選択肢4
(5)a 山の頂が 真っ白な雪で 覆われている。 <受身文>
b 真っ白な雪が 山の頂を 覆っている。 <能動文>
この受身文には省略されているものはありません。能動文の主語「真っ白な雪」は受身文にもありますし、この選択肢は間違いです。
答えは3です。
(19)持ち主の受身
持ち主の受身とは、能動文のヲ格名詞、ニ格名詞の名詞修飾部がガ格に置かれる受身文のことです。例えば次の能動文(1b)のヲ格名詞「私の足」の名詞修飾部「私」は、受身文(1a)ではガ格名詞になっています。この種の受身文は能動文に「私の足」のように所有の「の」が現れるので、所有の受身、持ち主の受身と呼ばれています。
(1)a 私が 男に 足を 踏まれた。
b 男が 私の足を 踏んだ。
各選択肢を能動文にしてみて、所有の「の」が現れたらそれが答え。
選択肢1
(2)a Aによって 小学校の隣に 図書館が 建てられた。
b Aが 小学校の隣に 図書館を 建てた。
これは直接受身文。
選択肢2
(3)a Aが 急に 友達に 肩を たたかれた。
b 急に 友達が Aの肩を たたいた。
「Aの肩」のように所有の「の」が能動文に現れています。ヲ格名詞「Aの肩」の名詞修飾部「A」は受身文でガ格名詞になっていることから見ても、明らかに持ち主の受身です。これが答え。
選択肢3
(4)a 社長が 社員から 慕われていた。
b 社員が 社長を 慕っていた。
これは普通の直接受身文。
選択肢4
(5)a 昨日 弟が 先生に 褒められていた。
b 昨日 先生が 弟を 褒めていた。
これも普通の直接受身文。
答えは2です。
(20)間接受身文と能動文との対応関係
下線部Eが言うように、直接受身文は能動文との対応関係がはっきりしているから分かりやすいんですが、間接受身文は能動文との関係が結構複雑です。迷惑の受身や自動詞の受身では、能動文になかった名詞が受身文で現れたりするからです。詳しくは「間接受身とは?」をご覧ください。
選択肢1
(1)a 山が 紅葉で 覆われている <受身文>
b 紅葉が 山を 覆っている <能動文>
受身文でデ格が現れるのは↑のような文です。能動文で現れた主語「紅葉」が受身文でデ格名詞になってますね! でもこれは直接受身文の一種なので、「間接受身文ではデ格で表される」という部分が間違いです。この選択肢は間違い。
選択肢2
(2)a 私が 母に 鍵を かけられた。 <受身文>
b 母が 鍵を かけた。 <能動文>
能動文(2b)が表しているのは「母が鍵をかけた」という事態です。この能動文(2a)には、(2b)の事態に直接かかわりのない「私」がガ格で据えられて主語になっています。母が「鍵をかける」ことによって間接的に「私」に影響が及ぶので、こういうのを間接受身と呼んでいるんですね。これが答え。
選択肢3
選択肢2の(2)を見てもらったら分かるとおり、能動文(2b)の主語には人物である「母」が来てますし、受身文(2a)の主語には人物である「私」が来ています。人物が主語に来ることは普通だから、この選択肢は間違い。
選択肢4
選択肢2の(2)のように、能動文(2b)の事態が「私」にとって迷惑であると感じられる場合は(2a)のような受身文を言うことができます。この選択肢は間違い。
答えは2です。

コメント
コメント一覧 (2件)
高橋先生、早速わかりやすく解説して頂き本当にありがとうございます!
(18)について、「職場のパソコンがウイルスに侵された」の能動文は「ウイルスが職場のパソコンを侵した」になると考えました。「SがOを侵す」は言えますが、 「Oに侵す」はもしかしたら非文に当たるのではないかと考えましたがいかがでしょうか。
>mitsuさん
確かに! 私の能動文の作り方はおかしかったです。「ウイルスが 職場のパソコンを 侵した」ですね!
こうすると能動文の主語が受身文に現れるので間違いです。解説はそのように更新いたしました。ご指摘ありがとうございます。