直接受身(direct passive)
受身文のうち、主格が何らかの影響を直接的に受けることを表し、かつ「XがYに(その他)~される」を「YがXを(に)~する」に規則的に転換したときに非文にならない受身を直接受身と言います。
能動文 | Yが Xを ~するYが Xに ~する | ↔ | Xが Yに ~されるXが Yから ~されるXが Yによって ~されるXが Yで ~される | 直接受身文 |
この対応関係における<対応する能動文の補語の数>と<受身文の補語の数>と比較するとその数が一致します。これは直接受身文に必ず成り立つ構文的特徴であり、この点から直接受身を判別・定義することもできます。
例文(1)の受身文の補語は「彼が」と「先生に」の2つで、対応する能動文の補語は「先生が」と「彼を」の2つです。このように補語の数が一致する受身文は直接受身と判別されます。
直接受身のイメージを見てください。直接受身はある存在が別の存在を対象として直接働きかける動作を表します。また、直接受身はその2者の間に何か別の存在が介在したりすることはありません。もし何かが介在したり、めがける対象がそもそも無い場合は直接受身ではなく間接受身に分類されます。直接受身になる動詞は必ず他動詞です。自動詞は働きかける対象をとらない動詞なので直接受身にはなりえません。
直接受身文と対応する能動文はなぜ補語の数が一致する?
直接受身文はAがBに対して何らかの動作を行い、その動作によってBが直接的に影響を受けることを表します。それに対応する能動文は、AがBに対して何らかの動作を行うことを表します。受身文もそれに対応する能動文も、どちらも登場人物(人以外も含む)はAとBの2人です。これらの登場人物をことばの上で明示するために述語の前に補語を置きますが、登場人物2人を明示するには補語も2つあれば十分です。そうして(1)(1’)のような文ができます。
(1) 彼が 先生に 褒められた。 (補語2つ=登場人物2人)
(1’) 先生が 彼を 褒めた。 (補語2つ=登場人物2人)
誰かが他の誰かを対象に何らかの動作を行う場面、例えば、AがBを殴る事態で考えてみましょう。この事態の登場人物は「A」と「B」の2人、この事態の動きを描写する語は「殴る」、そしてAは「殴る」という動作を行う側で、Bはその動作を受ける側です。この事態をA側から描写した場合は「AがBを殴る」となりますが、B側から描写した場合は「BがAに殴られる」となります。どちらの側から描写しても登場人物の数は変わりません。すなわち、直接受身文とそれに対応する能動文は同じ登場人物の同じ動作を違う角度から述べただけであり、描写している事態自体は同じものです。なので同じ事態を描写しているだけの直接受身とそれに対応する能動文の補語の数は常に一致します。
直接受身文の文型
直接受身文 | 対応する能動文 | ||
---|---|---|---|
(2) | 生徒が 先生に 殴られた | 先生が 生徒を 殴った | 能動文のヲ格が受身文に主格に |
(3) | 賞状が 先生から 彼に 送られた | 先生が 彼に 賞状を 送った | |
(4) | 姫路城が 池田輝政によって 建てられた | 池田輝政が 姫路城を 建てた | |
(5) | 山が 紅葉で 覆われている | 紅葉が 山を 覆っている | |
(6) | 私が 母に 反対された | 母が 私に 反対した | 能動文のニ格が受身文の主格に |
(7) | 彼が 見知らぬ人に 話しかけられた | 見知らぬ人が 彼に 話しかけた | |
(8) | 先生が 彼に 賞状を 送った | 彼が 先生に 賞状を 送られた |
直接受身はその主格が対応する能動文でヲ格であるタイプと、ニ格であるタイプの2つに分けられます。例文(3)の動作主に「に」を使うと「賞状が 先生に 彼に 送られた」となって「に」が重複しまいます。これを回避するために格関係の調整が起こり、動作主には「から」や「によって」が用いられます。動作主を「によって」でとるのが馴染まない受身文もありますが、馴染む受身文においては基本的に文体が少し硬めになります。例文(4)のように述語に生産を表す動詞がある場合、その動作主を「によって」で表すのはほぼ義務的です。
参考文献
日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス』,くろしお出版
寺村 秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』,くろしお出版
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