ヴォイス(voice)
動詞の屈折接辞に対応して、名詞句が担う意味役割と格関係に変更をもたらす文法現象をヴォイス(態:voice)と言います。
(1) 私が 納豆を 食べる。 <能動態>
(2) 納豆が 私に 食べられる。 <受動態>
(3) 彼が 私に 納豆を 食べさせる。 <使役態>
(4) 私が 納豆が 食べられる。 <可能態>
例(1)は、動詞語幹 tabe に屈折接辞 -ru が付加された「食べる(tabe-ru)」が述語に置かれています。この文の動作主「私」はガ格で表され、主語の位置に置かれており、被動作主の意味役割をもつ「納豆」はヲ格で表され目的語の位置に置かれています。日本語において動作主が主語、被動作主が目的語に置かれるような構文は、意味的には動作主である主語が述語の事態を引き起こし、引き起こした事態が被動作主である目的語に影響が及ぶことを表す、最も基本的な構文です。このように動詞の辞書形を用いる構文は無標のヴォイスで能動態と呼ばれ、能動態の文を能動文と言います。
一方、辞書形以外を用いる構文は受動態、使役態、可能態などがあります。(2)で言うと、動詞語幹 tabe に屈折接辞 -rare- が付加された「食べられる(tabe-rare-ru)」が述語に置かれることで、被動作主の意味役割を持つ「納豆」が主語に、動作主の意味役割を持つ「私」がニ格で表されています。日本語でこのような格関係を持つ態は受動態と呼ばれます。このように、動詞の形態が変わることによって格関係が調整される現象がヴォイスです。
日本語の代表的なヴォイス(態)には能動態、受動態、使役態、可能態があります。
参考文献
斎藤純男・田口善久・西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』17-18頁.三省堂
寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』205-302頁.くろしお出版
日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス』207-298頁.くろしお出版
森山卓郎,渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』14-15頁.三省堂
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