令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説
問1 「と」「や」「か」
(1) 私と私の部下が当日伺います。 <全部列挙>
(2) 私や私の部下が当日伺います。 <一部列挙>
(3) 私か私の部下が当日伺います。 <選択列挙>
(4) あなたの罪は器物破損、危険運転に、公務執行妨害だ。 <累加列挙>
<全部列挙>は集団に属するすべての構成員を挙げるタイプの列挙です。(1)において伺う人は「私」と「私の部下」で全員と解釈されます。<一部列挙>は集団に属する構成員のうち、一部だけを挙げるものです。(2)では文中に示された「私」と「私の部下」以外にも伺う人がいることを暗示しています。<選択列挙>は疑問の意味が含まれ、挙げられた要素の中から選択されることを意味します。(3)では「私」と「私の部下」のうちいずれかが選択されます。<累加列挙>は条件に当てはまる要素を次々挙げて加えていく用法です(4)。並列助詞の詳細については※1(2009: 112-120)をご覧ください。
上記に示した通り、「と」を用いると<全部列挙>、「や」を用いると<一部列挙>、「か」を用いると<選択列挙>を表します。
答えは3です。
《参考文献》
(※1)日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス』112-120頁.くろしお出版
問2 「XといいYといい」などの表現
選択肢1
(1) 貯金やら何やらで大変だ。
(1)の文では、「XやらYやら」の「Yやら」の後ろに助詞「で」がついてます。この選択肢は間違いです。
選択肢2
(2) 疲れたら軽く運動するなり背伸びするなり自由にしてください。
(2)は「XなりYなり」の文末に依頼表現「~てください」が置けてます。この選択肢は間違いです。
選択肢3
(3) 彼は忙しいだの何だのと言い訳している。
(4)✕彼は何だの何だのと言い訳している。
「XだのYだの」の後件には具体的な名詞を置かないで(3)のように「なんだの」が使えます。XとYに同一の疑問詞「何」を置いた場合は(4)のように非文になってしまいます。この選択肢は間違いです。
選択肢4
「XであれYであれ」のXとYには、考えてみたんですが名詞しか入らなさそうです。『TRY! 日本語能力試験 N1』の60ページの接続にも名詞しか書かれていません。しかしコメント欄で次のような例文が作れそうとのご指摘がありました。
山に登るのであれ、海で泳ぐのであれ、もうそんな時間はない。
どうやら「動詞+のであれ」の形は作れそうです。
なので答えは4です。
問3 スタイルによる使い分け
選択肢1
(1) 展示作品とグッズは非売品です。 <くだけた表現>
(2) 展示作品及びグッズは非売品です。 <改まった表現>
「及び」のほうが改まっていて、「と」はくだけた表現です。この選択肢は逆。
選択肢2
(3) 喉とか体調に気を付けてください。 <くだけた表現>
(4) 喉や体調に気を付けてください。 <改まった表現>
「や」は改まっていて、「とか」はくだけてます。この選択肢は正しいです。
選択肢3
(5)✕paypayと銀行振込でお願いします。
(6) paypayまたは銀行振込でお願いします。
「と」は<全部列挙>で、「または」は選択肢の中から選ぶ接続助詞です。意味が違うので(5)(6)のように同じ文で入れ替えることはできませんから、比較できる2つではありません。この選択肢は間違い。
選択肢4
(7) ご返信やご快諾いただきありがとうございます。
(8) ご返信並びにご快諾いただきありがとうございます。
「や」は<一部列挙>ですが、「並びに」は<全部列挙>で意味が違うので単純に比較できません。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問4 「~たり~たり」
選択肢1
(1) 映画を見たり、ご飯を食べたりしませんか? <勧誘>
「~たり」の文末に勧誘表現「~しませんか」を置けました。この選択肢は正しいです。
選択肢2
(2) 私が悩んだり困ったりしているとき、彼が話しかけてくれました。
(3)✕私は悩んだり困ったりしているとき、彼が話しかけてくれました。
(3)のように「~たり」を含む従属節の中では「は」を用いることはできません。「~たり」の従属節は主節に対する従属度が高いので、従属節内で主題「は」をとれないようです。この選択肢は間違い。
選択肢3
(4)✕映画を見ましたり、ご飯を食べましたりしました。
主節が「しました」で丁寧体のとき、「~たり」の前に丁寧体「見ます」「食べます」をつけてみたのが(4)です。これは非文になってしまいました。「~たり」の前は丁寧体の接続が許されないようです。この選択肢は間違い。
選択肢4
(5) 映画を見たり、ご飯を食べたりの一日だった。
「~たり」の後ろに「の」をつけて名詞「一日」を修飾したのが(5)です。この文は非文ではないので、この選択肢は間違いです。
答えは1です。
問5 並列を表すテ形と連用形の文
(1) 兄は就職して、弟は大学に行った。 <テ形による並列>
(2) 兄は就職し、弟は大学に行った。 <連用形による並列>
「就職する」という動詞のテ形「就職して」を用いて、後続する文を並列を表しているのが(1)です。一方、連用形「就職し(ます)」を用いて並列を表しているのが(2)です。このようなテ形と連用形の並列用法に関する問題です。
選択肢1
(3) 兄は就職してね、弟は大学に行ったの。 <テ形による並列>
(4)✕兄は就職しね、弟は大学に行ったの。 <連用形による並列>
テ形の後ろに「ね」はつけられますが、連用形の後ろに「ね」はつけられませんでした。この選択肢は間違いです。
選択肢2
(1) 兄は就職して、弟は大学に行った。 <テ形による並列:話し言葉的>
(2) 兄は就職し、弟は大学に行った。 <連用形による並列:書き言葉的>
(1)と(2)のうち、話し言葉で使いやすいのはテ形の並列(1)で、書き言葉で使いやすいのは連用形の並列(2)です。下線部Eはテ形と連用形の共通するルールについて言及していますが、(1)と(2)を見ると話し言葉、書き言葉の面で共通していません。この選択肢は間違いです。
選択肢3
(1) 兄は就職して、弟は大学に行った。 <テ形による並列:非同一主語>
(2) 兄は就職し、弟は大学に行った。 <連用形による並列:非同一主語>
(1)(2)の文は、従属節の主語が「兄」で主節の主語が「弟」です。主語が同じでなくてもいけますので、この選択肢は間違いです。
選択肢4
(5) 弟は大学に行って、兄は就職した。 <(1)の主節と従属節を入れ替えたもの>
(6) 弟は大学に行き、兄は就職した。 <(2)の主節と従属節を入れ替えたもの>
このテ形と連用形は前の内容と後ろの内容を並列させる機能があります。つまり前の内容と後ろの内容は同等に扱われているので、(5)(6)のように主節と従属節を入れ替えても成り立ちます。これは並列だからです。この選択肢が答え。
答えは4です。
コメント
コメント一覧 (2件)
高橋先生。麻生です。試験Ⅲの問題2の問2ですが、「山に登るのであれ、海で泳ぐのであれ、もうそんな時間はない。」という文章で出来そうが気がします。この「の」は名詞化の「の」とすれば、つじつまが合うかもしれない、と思いました。
>麻生さん
「山に登るのであれ、海で泳ぐのであれ、もうそんな時間はない。」
この例文は確かに非文ではなさそうですね! いったん麻生さんのこの例文を拝借して、問2選択肢4を答えとしたいと思います。
公式の答えがどうなるか気になりますね。
ご指摘ありがとうございました!