令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題14解説

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令和6年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題14解説

問1 サピア・ウォーフの仮説

 言語(母語)と思考は関係しているという考え方をサピア・ウォーフの仮説と言います。
 言語と思考が完全に関係していて、人間の考え方や物事に対する見方はその人の母語によって決定するんだという強い仮説もありますし、母語と思考は関係しているけど、母語が思考・外界認識に影響するんだくらいの弱い仮説もあり、その関係の程度には多少幅が見られます。このうち弱い仮説のほうを一般に言語相対論と言います。

 1 ???
 2 ???
 3 ???
 4 サピア・ウォーフの仮説の記述

 答えは4です。

問2 人称詞

選択肢1

 二人称代名詞(対称詞)は「あなた」「お前」「君」などですが、目下の親族が目上の親族に対してこれらの対称詞を用いることは通常できないです。例えば息子が母親に「お前」なんていうことは喧嘩の場面でもない限りないです。もしあるとすれば、それは”規範的な使い方”ではありません。これは不適当。

選択肢2

 例えば息子が母親に対して「、明日出かけるから晩ご飯いらない」みたいにいうとき、息子は目上の親族「母親」に対して一人称の人称代名詞「俺」を使って自称できます。

選択肢3

 母親が名前が「優」という子どもに対して「、ちょっと出かけてくるからいい子にしてて」というとき、母親は目下の親族「子ども」に対して、子どもの名前である「優」を使って呼びかけてます。この選択肢は適当です。

選択肢4

 母親が子どもに対して、「お母さんちょっと出かけてくるから、いい子にしてて」なんていうとき、母親は目下の親族「子ども」に対して親族名称「お母さん」を使って自称できます。この選択肢は適当です。

 答えは1です。

問3 忌み言葉

 下線部Cの内容はいわゆる忌み言葉というやつで、特定の場面で用いるのに相応しくなく、縁起が悪いために使用を避けられる言葉のことです。例えば結婚式では「終わる」「別れる」「切れる」みたいなことばは別れを連想させるとして避けられ、「結び」「お開き」などが代わりに使われます。

 1 「終わり」の代わりに「お開き」と言ってて、忌み言葉を回避してます。
 2 「切る」はあるけど「スタートを切る」という慣用句だからしょうがないのでは。
 3 ???
 4 ???

 答えは1です。

問4 猫が車の前にいる

選択肢1


 もし車の進行方向を基準として「猫が車の前にいる」と言うのであれば、おそらく猫の位置はこのイラストのようになります。しかも、進行方向という表現は曖昧で、仮にバックしている場合は猫の位置は車の後方になってしまいます。実際、私たちは車のライトがあるほうを「顔」として認識するので、この顔があるほうを前方だと認識します。このような指示枠は「固有的指示枠」と言います(井上 1998: 27)。決して進行方向が基準になっているわけではありませんからこの選択肢は間違いです。

選択肢2

 方角という絶対不変の基準を用いた指示枠は「絶対的指示枠」(井上 1998: 25)と言います。絶対的指示枠で事物の位置を示すときは東西南北を使うので、問題にあるイラストを表現するなら「猫は車の南側にいる」と表現します。日本語ではあまり絶対的指示枠を使わないという傾向があるので、この表現は不自然です。間違い。

選択肢3

 観察している人などを基準にして事物を指すのは「相対的指示枠」(井上 1998: 24)と言います。この指示枠では事物の位置を表すのに上下左右前後を使うので、問題にあるイラストを表現するなら「猫は車の前(手前)にいる」などと言います。日本語としては最も馴染む言い方です。これが答え。

選択肢4

 観察されている猫を基準にするのも「相対的指示枠」なんですが、猫を基準にして、上下左右前後を使い、猫の位置を示すことはできないです…。なぜなら…

 ↑のイラストで男性の位置を示すとき、「木の右に男性がいる」というふうに「木」を基準にして男性の位置を示します。Aの位置を相対的に指示するということは、Aではない何かを基準にしてAの位置を示す必要がありますね。でもこの選択肢は ”猫を基準に猫の位置を示す” と言っているので、まったくそんなことはできないのです。せめて車を基準にすれば「猫は車の左にいる」みたいな言い方ができるんですが。この選択肢は間違い。

 物の場所に関する表し方は言語によって違うので、もしよければ井上京子(1998)『もし「右」や「左」がなかったら』を読んでみてください。
 答えは3です。

問5 共感しやすい存在に視点を置く

選択肢1

 (1) 放課後、彼女は私に呼ばれた。

 登場人物は「私」と「彼女」しかいません。このようなときは普通、一人称である「私」に視点を置いて「私は彼女を呼んだ」のように言います。「私」という存在は他のどんな存在よりも視点を置きやすい存在だからです。しかしこの学習者は自分自身である「私」よりも「彼女」に視点を置いて(1)のように言ってて、これは下線部Eに反した誤用です。これが答え。

選択肢2

 (2) 今日、私は担任の先生に給食費をあげた。

 「あげる」だと給食費の所有権そのものの移動になってしまうので意味的におかしくなってしまいます。ここでは「給食費を渡した」などで所有権の移動ではなく、一時的な物の移動を表す動詞を用いるといいです。ちなみにこの文の登場人物は「私」と「担任の先生」ですが、より視点を置きやすい「」を主語にして述べているので下線部Eに適合しています。この選択肢は間違い。

選択肢3

 (3) (山本君は)田中先生に注意されて、山本君は悲しい。

 他人の感情は話し手には完全に理解できないものなので、この場合は「悲しそうだ」「悲しがっている」のような言い方をしなければいけません。
 この文の登場人物は「田中先生」と「山本君」がいますが、話し手により近い存在は「山本君」だと思われます。同じクラスメートだから。そしてこの文は前件も後件も視点を置きやすい「山本君」を主語にしています。下線部Eに沿うのでこの選択肢は間違い。

選択肢4

 (4) 次の講演会では、(私は)ぜひ田中先生に話されよう。

 この文の登場人物は「私」と「田中先生」ですが、(4)の文はより視点を置きやすい「私」を主語にしているので下線部Dに沿います。この選択肢は間違い。正しく言うなら「私はぜひ田中先生に話を聞こう」などだと思います。

 答えは1です。




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