令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説
問1 形式スキーマ
読解に活用されるスキーマはCarrell(1983)によって形式スキーマと内容スキーマに分けられました。
形式スキーマはテキスト(論文、説明文、小説、新聞、詩など)における文章構造、展開の違いについての知識や言語形式に関する知識のことです。例えば、小説では起承転結がありますが、説明文ではありません。論文では先行研究について触れたりしますが、詩ではそのようなことはしません。このようにテキストのジャンルによって文章構造は異なります。その違いに関する背景知識のことを形式スキーマといいます。
形式スキーマとは対照的に、テキストの内容そのものに関する背景知識を内容スキーマと言います。睡眠、運転、スノーボード、整形、ベトナム戦争、素粒子などに関するテキストを理解するには、睡眠、運転… などそれぞれに関する背景知識が必要です。内容スキーマは読み手自身の経験から構成されています。
簡単に
選択肢1
内容スキーマの記述。
例えば、同じ職場の人と職場以外の場所で会ったときは「お疲れ様です」と言う、みたいな日本語の社会文化的な知識は日本語に関する内容スキーマです。
選択肢2
おそらく暗示的知識に関する記述。
母語話者は「は」と「が」を正確に使い分けることができますが、「は」と「が」の違いは何かと言われたらそれをことばで説明することは普通できません。しかし、たとえことばにできないとしても、「は」と「が」を正確に使い分けられるということは「は」と「が」の違いについての知識があるはずです。このように明示的に説明できない知識を暗示的知識と言います。
選択肢3
これは謎。
選択肢4
「文章構造」とあるのが大ヒント。これが形式スキーマです。
よって答えは4。
問2 橋渡し推論
橋渡し推論とは、今読んでいる文と先行文脈の整合性を確立したり、文全体の意味内容を一貫させるために行われる推論のことです。橋渡し推論の大きな特徴として、推論する内容は誰でも同じ内容であり、もしそのように推論されなければ文全体の意味内容に不都合が生じる点です。
例えば「猫を抱いたら、手を怪我した」という文章を読んだら、誰でも手を怪我したのは「猫にひっかかれた」からだと推論します。この推論は橋渡し推論です。もしこのように推論しなければなぜ手を怪我したのか理解不能になります。
選択肢1
「傷が痛む」といって、次の文で「猫」が出てきています。この文を読むと、この傷は猫がやったんじゃないか?ってみなさん思うはずです。でも文中には「猫に手を引っかかれた」なんてことは書かれていません。だから猫に引っかかれたと思っているのは皆さんの勝手な想像です。勝手な想像なんですけど、100人中100人がそう思います。
こういうタイプの推論は橋渡し推論です。
選択肢2
いい天気かどうかはイメージが伴う具体的な推論。仮に悪い天気をイメージしたとしても文章理解には影響しません。この類の推論は精緻化推論です。
選択肢3
打球がこちらに飛んできた、その後の展開をどう想像するかは人によって違います。自分にあたるかもしれないし、近くに落ちるかもしれません。どんな推論をしたとしてもこの文の文章理解には影響しませんから、この類の推論は精緻化推論です。
選択肢4
女性が何と言ったか想像するのは自由。この文の文章理解には影響しないので精緻化推論。
したがって答えは1です。
問3 認知資源
認知資源と聞いて思い出したのは外国語副作用。慣れていない外国語を話すとき、日本語から外国語に翻訳をして、どんな発音か確認して、語と語の接続を考えて… といろいろ処理しないといけません。そうすると頭の中にある処理資源をたくさん使ってしまって、他のことができなくなってしまうというのが外国語副作用。これに限らず、めちゃくちゃ集中しなければならない作業、例えば計算とかしてるときは他のことができなくなったりします。抽象的ですけど、頭の中にはパソコンのメモリのようなものがあって、それを処理資源、あるいは認知資源って呼んでます。
1 エピソード記憶の記述
2 これが認知資源、処理資源
3 意味記憶の記述
4 感覚記憶の記述
したがって答えは2です。
問4 リスニングスパンテスト
リーディングスパンテストもリスニングスパンテストも初めて試験に出てきました。
この2つのテストには様々な様式があるんですが、基本的に共通しているのは、いくつか単語を読ませて(聞かせて)、その後読んだ(聞いた)単語を再生させます。この単語の数を増やしてどこまで正確に再生できるかを集計し、それによってワーキングメモリの容量を測定するものです。
1 ディクテーション
2 ディクトグロス
3 リスニングスパンテスト(聴解)
4 リーディングスパンテスト(読解)
答えは3です。
選択肢3の「文末の単語を覚える」というのが基本的なスパンテストの特徴です。文末の単語を覚えるタスクだけを与えるとそこだけ聞けば良くなるので、ワーキングメモリの処理を増やすために途中〇✕クイズとかを入れ込んで、〇✕クイズに正解しつつ単語を覚えてたら得点、みたいな感じで負荷を与えることをします。
問5 カルテルパーティー効果
パーティのような人が多いところでガヤガヤしてても自分の名前だけはよく聞こえて、そしたらその人の話もちゃんと聞こえちゃうみたいな現象ですね。
1 よくわかんない。絶対何か用語が当てられてるはず… 勉強不足です。
2 これがカクテルパーティー効果
3 推論の一種?
4 プライミング効果のような
答えは2です。
コメント
コメント一覧 (4件)
初めまして、いつも高橋さんのこのサイトを参考にさせてもらっています。
問4の答えについてですが、選択肢1はディクテーションのことを言っているのではないでしょうか?
リスニングパンテストが認知資源を測るためのものならば、聞こえた音(句や文)をそのまま書き取るだけでは、認知資源を測れないのではないかと考えます。
私は選択肢3を選びました。
「文の内容を正誤判断しながら、文末の単語を覚える」というのは認知資源を消費する作業だと考えたからです。
>匿名さん
確認いたしました。確かに選択肢3は聴解のことを言っててこれが答えっぽいです!
選択肢1もよくよく見たらディクテーションですね… うっかりしました。
既に修正しています。ご指摘大変ありがとうございました!
リスニングスパンテストは、選択肢3が正解です。
http://repository.seinan-gu.ac.jp/bitstream/handle/123456789/2117/fo-v2n1-p1-16-nak.pdf?sequence=1&isAllowed=y
この論文のP8から始まる2.2.2に詳しい方法が解説されています。
説明によると、1文ずつ音声がスピーカーから提示され、意味的に正しければ〇、間違っていれば×を、その都度解答用紙に記入するよう求め、ブザー音の合図とともに、実験参加者は心に留めている文末単語をすべて記入するように求めるテストだそうです。
2文条件、3文条件…と種類があるようです。
>シェンカーさん
ありがとうございました!
こちら私の勘違いでした。選択肢3がどうみても聴解の問題ですね。