平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説
問1 意味拡張
ここで意味拡張ということばが出てきてます。これは語の原義を拡大解釈して、それまで使われていなかった領域にまで使用範囲を広げることを指します。メタファー、メトニミー、シネクドキーの各種比喩は意味拡張にあたります。これらの説明は長くなりすぎるので、詳しいことはリンク先をご覧ください。
下線部Aの「筆を執る」は何の比喩なのかについてですが…
「筆を執る」(筆を持つ)という動作のあとに「書く」という動作が続きます。このように時間的に隣接した出来事のうち、片方の出来事でもう片方の出来事を指すのはメトニミーです。同じように時間隣接に基づくメトニミーには、例えば「ユニフォームを脱ぐ」などがあります。この表現はユニフォームを脱いだ後に実現する「引退する」という出来事を指しています。
というわけで各選択肢からメトニミーを探しましょう。
選択肢1
「注ぐ」という動詞は本来液体に使う動詞ですが、ここでは液体ではない「愛情」に対して使ってます。
つまり「愛情」を液体に喩えて「注ぐ」といってるので、これはメタファー。
選択肢2
「抱える」は物理的なものを腕で何かを抱いて持ち上げることを表しますが、ここでは物理的ではないもの「問題」に対して「抱える」を使っています。「問題」を物に喩えているのでこれもメタファー。
選択肢3
「上げる」は物理的な位置を高くするという意味ですが、ここでは物理的な位置を有しない「音量」に対して「上げる」を使っています。「音量」を物理的な位置を有するものに喩えて「上げる」と言ってるのでこれもメタファー。
選択肢4
「耳を傾ける」という動作のあとに「話を聞く」という動作が行われます。時間的に隣接した出来事のうち、片方の出来事でもう片方の出来事を指すのは時間隣接にもとづくメトニミー。
答えは4です。
問2 視点
「先生が太郎を叱った」と「太郎が先生に叱られた」の違いについて。
選択肢1
これが答え。
先生が太郎を叱るという事態を、叱った側の先生視点で描写した場合は「先生が太郎を叱った」と能動文を用いますが、叱られた側の太郎視点で描写した場合は「太郎が先生に叱られた」と直接受身文になります。同じできごとを登場人物の誰視点で描写するかはヴォイスと関係があります。
選択肢2
新情報と旧情報と言えば「は」と「が」。「昔、◯◯という友達がいたんだけど、彼はとても面白い人だった。」のように、新情報は「が」、旧情報は「は」で表すことが指摘されています。
が、この問題とは関係ありません。
選択肢3
「先生が太郎を叱った」は能動文なので中立的な言い方です。
「太郎が先生に叱られた」は直接受身文なので、直接的な被害を表します。
この選択肢は間違い。
選択肢4
「先生が太郎を叱った」は能動文だから被害の意味はでません。
「太郎が先生に叱られた」は直接受身文なので、直接的な被害を表しています。
この選択肢は間違い。
答えは1です。
問3 「詫び」の表現形式
選択肢1
謝るときは「すみません」でも「すみませんでした」でもOK。
過去の出来事に対する詫びにはタ形の「すみませんでした」が使用できます。
この選択肢は間違い。
選択肢2
「(私は)心よりお詫び申し上げます」のように一人称にしか使えません。
発話行為理論における遂行文は、形式上いくつかの特徴があることがてAustinによって指摘されています。そのうちの一つに「(遂行文は)主語は一人称単数である」とあり、ここからこの問題を作っています。
この選択肢が答え。
選択肢3
「ごめんなさい」の「なさい」は元々命令の「~しなさい」ですが、今ではそういう命令の意味が無くなっています。なので目下の人にしか使えないわけではなく、現代では目下にも目上にも使うことができます。この選択肢は間違い。
選択肢4
「誠に遺憾に思います」は公的な立場からの批判や非難として使います。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問4 モダリティ
「実は途中で電車が止まってしまったんですよ」についての問題。
選択肢1
「実は」を使うことで自分が遅刻した理由がホントだって伝えたいのは事実ですが、「実は」は程度副詞ではなくて陳述副詞です。ここが間違い。程度副詞は状態性の語の程度・量に言及する副詞で「とても寒い」の「とても」などが挙げられます。陳述副詞は話し手の気持ちを表す副詞で、「実は」はこれに該当します。
選択肢2
この選択肢は正しいです。「てしまう」は望まない状況が起きたことによる後悔や残念な気持ちを表します。また、「てしまう」は自分の望まないことが起きるので、選択肢3の後ろの文「自分にはどうすることもできないものであったことを強調する」機能もあります。
選択肢3
「んです」は状況や事情を説明、弁明、言い訳するときに使います。ここでは遅刻の言い訳っぽく使っているので、選択肢4の後ろの文「遅刻の責任が自分には無いことを強調し、情状酌量を願う心情を聞き手に伝達」する機能があります。この選択肢は間違い。
選択肢4
終助詞「よ」は聞き手に命題内容を言い聞かせる機能があります。
答えは2です。
問5 様々な言い方とそれらが持つ表現効果
選択肢1
「一緒に食べませんか?」は否定を含んで疑問にしてるのでもっと丁寧。
「一緒に食べましょう」はそれよりも柔らかめ。
この選択肢は適当。
選択肢2
「できない」と直接言うよりも「それは難しいです」と実現可能性の話をした方が相手に配慮した表現になります。
この選択肢は適当。
選択肢3
「教えましょうか」より「教えてさしあげましょうか」のほうが上から目線でより差し出がましい感じがします。なぜなら謙譲語「差し上げる」を使ったとしても恩恵を与えるという事実は変わらないから。
この選択肢は不適当。
選択肢4
「これやってください」みたいに相手に行動を要求する場合は相手の負担になります。でも「これ食べてください」と美味しいものを差し出せば相手にとって利益になります。どっちでも使えるからこの選択肢は適当。
答えは3です。
コメント
コメント一覧 (7件)
管理人様
問1の選択肢1,2の解説ですが、類似性をもつ比喩ではないかと思います。
いつもサイトを参考にさせていただいています。
ありがとうございます。
>foolさん
メタファーと書いているのに隣接性になっていました。
たしかに類似性ですね。修正しておきます!
ご指摘ありがとうございました!
わかりやすい解説ありがとうございます。
問1の3番「音量を上げた」もメタファーで良いと思います。
屋根へ上がるなど、具体的でわかりやすいイメージでなく
例えば、音量を上げる、意識を上げる、雨が上がるなど、
抽象的で分かりにくいものは全てメタファー扱いで良いと思っています。
こんにちは。
問3の選択肢4についてです。
>”「誠に遺憾に思います」は普通公的な立場からの謝罪として使います。”
とありますが、「遺憾に思う」は「残念に思う」の意味であって謝罪の意味は含まないと思うのですが。
>三郎さん
ご指摘ありがとうございました。
こちらの間違いでした。謝罪ではありませんので修正しておきます!
いつもありがとうございます。
問5の3ですが、「教えてあげましょうか」「教えてさしあげましょうか」はどちらも「てあげましょうか」の例文ではないでしょうか?
「教えましょうか」と「教えてあげましょうか」などの例の方が適切ではないですか?
>おおさかさん
ご指摘ありがとうございます!
そうですね、そのように修正しておきます!