場所直示(place deixis)
発話現場の状況を参照して事物の場所や方向などを指し示す直示を場所直示(place deixis)と言います。
(1) これはどうやって使うんですか?(目の前に工具がある場面で)
(2) そこ涼しい? (窓際に友達が座っている場面で)
(3) 荷物はあそこに置いてください。(遠くに荷物置き場が見える場面で)
(4) あっちに行きましょう。 (話し手が指を指す場面で)
目の前に工具がある場面で(1)のような発話をすると、「これ」は話し手がいる場所の近くにある「工具」を指すことになります。窓際に座る友達に向けて(2)を発話した場合、「そこ」は聞き手である友達がいる場所の近くを指します。上記の例はいずれも発話現場にいる話し手や聞き手の場所を基準として指示対象の場所や方向を指し示している場所直示です。
(5) 彼は帰ってきた。 (話し手の場所への移動)
(6) 彼は帰っていった。 (話し手の場所から遠ざかる移動)
日本語の「来る」「行く」などの移動動詞は話し手の場所を基準にした移動を表します。例えば(5)は話し手の場所を到着点とする移動を表し、(6)は話し手の場所を出発点とする移動を表します。いずれも話し手の場所を参照して移動の方向を一意に定めるので場所直示です。こうした直示性を持つ動詞は直示的動詞と呼ばれることがあります。
水平次元の方向を表す「前」「後」「左」「右」や垂直次元の方向を表す「上」「下」も直示性を有します。「前」とは話し手の前方を指すので、向かい合う2人における「前」は全く逆方向を指すことになります。
参考文献
小泉保(2001)『入門 語用論研究―理論と応用―』5-32頁.研究社
澤田淳(2020)「指示語用論」『はじめての語用論 ―基礎から応用まで』77-92頁.研究社
林宅男(2002)「直示」『プラグマティックスの展開』33-43頁.勁草書房
東森勲(2012)「意味のコンテクスト依存」『朝倉日英対照言語学シリーズ7 語用論』13-22頁.朝倉書店
Fillmore, C. J. (1975) Santa Cruz Lectures on Deixis, 1971. Mimeo, In: Indiana University Linguistics Club.
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