移動動詞(motion verb)
「行く」「歩く」「戻る」「出る」「飛ぶ」などの主体の移動を表す動詞を移動動詞(motion verb)と言います。移動には移動の起点、移動の経路、移動の着点の3つが関わり、日本語では起点を「を」、経路を「を」、着点を「に」で表すという文法があります。
(1) 家を出る。 (起点)
(2) 歩道を歩く。 (経路)
(3) 学校に着く。 (着点)
このうち起点と経路をヲ格でとる移動動詞は「~を+動詞」の文型をとるので見た目から他動詞に見えますが違います。(1)においては「出る」という動作によって「家」に何か働きかけているわけではないし、(2)も「歩く」という動作が「歩道」に働きかけているわけではありません。移動動詞のヲ格名詞は目的語ではないので、移動動詞は他動詞ではなく自動詞です。
ただし、移動動詞の中にも他動詞っぽいものがある
移動動詞は主体の移動を表す動詞で、移動には起点、経路、着点が関わると言いました。本来移動は起点、経路、着点に何か働きかけるわけではないので自動詞ではないんですけど、一部、起点、経路、着点に働きかけるような意味を持つ移動動詞も存在します。
(4) 優良な住人がアパートを退去した。 (アパートが優良な住人に退去された。)
(5) まだ誰もこの山を登っていない。 (この山はまだ誰にも登られていない。)
(6) 何者かが101号室に入った。 (101号室は何者かに入られた。)
(4)の「退去する」はうまく言いかえれないけど、(5)の「登る」は「攻略する」、(6)の「入る」は「脅かす」のような他動詞に言い換えられそうです。また、これらは全て直接受身にすることができる点でも他動詞的な性質を持っているとも考えられます。起点、経路、着点がただの移動の空間を表す場合は直接受身にもできず自動詞として判定されますが、主体の移動によって起点、経路、着点に対して何らかの影響を与えると感じられる場合は直接受身にすることができ、他動詞っぽくなります。
とはいえ、移動動詞は全体として自動詞と見て大丈夫です。
参考文献
寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版
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