6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

直示(ダイクシス)とは?

直示(ダイクシス:deixis)

 次の文を見てください。

 (1) 明日ここを離れるつもりだ。

 この文の「私」って誰でしょう。「明日」って具体的に何月何日のことでしょう。「ここ」って具体的にどこでしょう。その情報は文中を探してみても見つかりません。「私」が誰なのかは、この文を発話した人が誰なのか分かってはじめて解釈できます。「明日」はこの文を発話した日が分かり、「ここ」は発話した場所が分かってこそはじめて解釈できます。言語表現の中には「私」「明日」「ここ」などように、発話場面に依存して解釈が決定される(発話場面を参照しなければ意味解釈が成立せず、その解釈には発話場面の状況的知識を要する)性質を持つものがあり、そのような言語のコンテクスト依存性を直示(ダイクシス:deixis)と言い、また、そのようなコンテクスト依存性を有する言語表現を直示表現(ダイクシス表現:deictic expressions)と言います。

 直示表現がコンテクストに依存していることを次の例から確認してください。

 (2) 20歳の山田さん : 「私は20歳です。」
 (3) 30歳の木村さん : 「私は20歳です。」

 20歳の山田さんが「私は20歳です」、30歳の木村さんも「私は20歳です」と言ったとします。山田さんも木村さんも同じ発話をしていますが、正しいことを言っているのは山田さんだけで、木村さんは間違っていることを言っています。しかし、山田さんが何歳か、木村さんが何歳かもし知らなければ、「私は20歳です」が正しいかどうかは判断できません。(2)の発話が正しいと判断するためには「山田さんがこの文の話し手、かつ山田さんは20歳」という情報が必要です。同様に(3)が間違っていると判断するためには「木村さんがこの文の話し手、かつ木村さんは30歳」という情報が必要です。この情報は発話現場の状況的知識、つまりコンテクストであり、この文の解釈はコンテクストに依存しています。

 直示は人称直示空間直示時間直示談話直示社会的直示の5つに分類されます。

参考文献

 加藤重広(2020)『はじめての語用論 ―基礎から応用まで』77-92頁.研究社
 小泉保(2001)『入門 語用論研究―理論と応用―』5-32頁.研究社
 斎藤純男,田口善久,西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』143頁.三省堂
 森山卓郎,渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』110頁.三省堂




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