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人称直示とは?

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人称直示とは?

 人称直示(person deixis)とは、発話現場における話し手や聞き手を指す表現のことです。人称直示に関係するのは人を指示する人称代名詞です。日本語の人称代名詞は話し手を指示する一人称代名詞(私、僕、俺、あたし、わたし…)、聞き手を指示する二人称代名詞(あなた、君、お前、貴様…)、話し手でも聞き手でもない人を指示する三人称代名詞(彼、彼女、あいつ…)があります。このうち一人称代名詞と二人称代名詞が直示性を有します。
 ※斎藤ら(2015)には「人称代名詞の場合、ダイクシスの性質を持つのは一、二人称のみである」とあり、三人称代名詞はダイクシス表現ではないことになってます。おそらく「彼」「彼女」などの三人称代名詞は発話現場の話し手や聞き手を基準にして人物を指していないからだと思われます。このように注釈書いたのはちょっと自信ないからです。

 (1) 山田さん : は猫を飼っています。 (私=山田さん)
 (2) 木村さん : は猫を飼っています。 (私=木村さん)

 例えば(1)(2)は、山田さんが発話したら「私」が指すのは「山田さん」で、木村さんが発話したら「木村さん」を指します。この文の話し手になれば誰であろうと自分のことを「私」ということができ、このとき「私」は話し手が誰であるかというコンテクストに依存してその解釈を決めている直示表現です。

 (3) A: 山田さん「のこと、覚えてますか?」  (私=山田さん)
     B: 木村さん「あなたのことは知らないです。」 (あなた=山田さん)

 (3)の例も同じです。Aの「私」は話し手である「山田さん」を指し、Bの「あなた」は話し手である木村さんに対する聞き手「山田さん」を指します。人称直示の表現は常に話し手が中心です。

二人称代名詞の多様性

 日本語の二人称代名詞は、話し手が聞き手が社会的身分において同等の場合に「あなた」「きみ」が使われますが、聞き手のほうが上位である場合はその身分に応じて「社長」「部長」「課長」「先生」「親方」「師匠」などの呼び方がされます。これらが聞き手を指す二人称代名詞として用いられる場合は「あなた」や「きみ」と同じく人称直示です。なお、「先生」は例文(6)のように話し手を表す一人称代名詞としても使えます。このケースも「私」「俺」などと同じく人称直示です。

 (4) 部長に一つお願いがあります。          (部長=聞き手)
 (5) 先生の趣味は何ですか?             (先生=聞き手)
 (6) みんなが静かにならないから、先生は怒ってます! (先生=話し手)

 また、親族に対する呼称もそれが一人称代名詞として話し手を、二人称代名詞として聞き手を指す場合も人称直示です。

 (7) A:おかあさん、今日のご飯は?      (おかあさん=聞き手)
     B:おかあさんは今日何も作りたくないの。 (おかあさん=話し手)

参考文献

 加藤重広(2020)『はじめての語用論 ―基礎から応用まで』77-92頁.研究社
 小泉保(2001)『入門 語用論研究―理論と応用―』5-32頁.研究社
 斎藤純男,田口善久,西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』143頁.三省堂
 森山卓郎,渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』110頁.三省堂




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