時間直示とは?
直示表現の中には、時の副詞「明日」「さっき」「今」や時制標識(ル形とタ形)のように発話時を基準に解釈するものが存在します。これらは時間直示(time deixis)と呼ばれます。
(1) 明日試験があります。 (直示用法:発話日の次の日)
(2) 1時間後、上映します。 (直示用法:発話時の1時間後)
(3) ご飯を食べた。 (直示用法:発話時より過去のある時点)
(4) 11月5日に試験がある。(非直示用法:発話時を基準にしていない)
(5) その翌日に事件は起きた。(非直示用法:特定の時点を基準にしている)
(1)の「明日」は、発話時が分からなければ「明日」が指す日が何月何日なのか分かりません。発話時が6月9日なら「明日」は6月10日、8月1日なら「明日」は8月2日、というように常に発話時を参照して時間を指示します。(2)も同じです。(3)には時制標識であるタ形があるため、文が表す「ご飯を食べる」という事態が発話時点を基準に過去に生起したことを表します。これも時間直示です。(4)(5)は発話時を基準にしていないので非直示用法です。特に(5)の「翌日」は「明日」と似ていますが、「明日」は発話時を基準にする直示表現なのに対し、「翌日」は特定の時点の次の日を指す点で直示表現とはみなされません。
なお、直示用法の時の副詞は通常「に」がつかないという特徴があります。
(6) ✕ 明日に試験があります。 (直示用法)
(7) ✕ 先週に入院しました。 (直示用法)
「翌日」は非直示
時間直示はその解釈に発話時の状況的知識を要します。言い換えると、発話時が分かれば時間直示が指し示す時間も一意に定まります。例えば、次の例文を1月1日に発話したとすると、「明日」が指す日は1月2日です。
(8) 明日は仕事休み。 (直示用法)
(9) 明日は雨らしい。 (直示用法)
(10) 明日は最高気温が17度らしい。 (直示用法)
では、次の例文を同じく1月1日に発話したとして、「翌日」とは何月何日を指すでしょうか。
(11) 眠りが深かった翌日は情緒が安定している。 (非直示用法)
(12) 引っ越しの翌日に壁に穴開けた。 (非直示用法)
(13) 辛い料理を食べた翌日はお腹が痛くなる。 (非直示用法)
「翌日」は発話時が分かっていても、それが何月何日を指しているのか判断できません。「翌日」のように「翌」がつく時の副詞は「特定の時点の次の日」を指すので、解釈を一つに絞るに発話時の情報を必要としないわけです。したがって直示ではありません。
参考文献
加藤重広(2020)『はじめての語用論 ―基礎から応用まで』77-92頁.研究社
小泉保(2001)『入門 語用論研究―理論と応用―』5-32頁.研究社
斎藤純男,田口善久,西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』143頁.三省堂
森山卓郎,渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』110頁.三省堂
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