時間直示(time deixis)
発話現場の時間(発話時)を基準に事態が生起する時を解釈するタイプの直示を時間直示(time deixis)と言います。時を表す副詞「明日」「さっき」「今」や時制標識(ル形とタ形)などが代表的な時間直示表現です。
(1) 明日試験があります。 (発話日の次の日)
(2) 1時間後、上映します。 (発話時の1時間後)
(3) ご飯を食べた。 (発話時より過去のある時点)
(1)の「明日」は発話時を含む日の次の日を指します。発話時が1月1日なら「明日」は1月2日、発話時が3月1日なら「明日」は3月2日を指す、というように常に発話時を参照して時が定まります。(2)も同様です。
(3)には時制標識であるタ形があります。文が表す「ご飯を食べる」という事態が発話時よりも過去のある時点に生起したことを表しています。これらは全て発話現場の時間(発話時)を参照しているため、直示性を有します。
「明日」は直示で、「翌日」は非直示
時間直示はその解釈に発話時の状況的知識を要します。言い換えると、発話時が分かれば時間直示が指し示す時間も一意に定まります。例えば、次の例文(4)~(6)を1月1日に発話したとすると、「明日」が指す日は全て1月2日です。
(4) 明日は仕事休み。
(5) 明日は雨らしい。
(6) 明日は最高気温が17度らしい。
しかし、「翌日」が含まれる次の例文(7)~(9)を同じく1月1日に発話したとしても、「翌日」が指す日の解釈は1月2日に定まることはありません。
(7) 眠りが深かった翌日は情緒が安定している。
(8) 引っ越しの翌日に壁に穴開けた。
(9) 辛い料理を食べた翌日はお腹が痛くなる。
「翌日」は “任意の日の次の日” を指します。発話日を基準に時間を指し示しているのではなく、任意の日を基準に時間を指し示しているため、直示ではありません。「翌」がつく「翌週」「翌月」「翌年」なども同様に非直示です。
参考文献
小泉保(2001)『入門 語用論研究―理論と応用―』5-32頁.研究社
澤田淳(2020)「指示語用論」『はじめての語用論 ―基礎から応用まで』77-92頁.研究社
林宅男(2002)「直示」『プラグマティックスの展開』33-43頁.勁草書房
東森勲(2012)「意味のコンテクスト依存」『朝倉日英対照言語学シリーズ7 語用論』13-22頁.朝倉書店
Fillmore, C. J. (1975) Santa Cruz Lectures on Deixis, 1971. Mimeo, In: Indiana University Linguistics Club.
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