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尊敬語とは?

目次

尊敬語

 尊敬語は相手側又は第三者の行為ものごと状態などについて、その物を立てて述べるものです。

行為等
(動詞、及び動作性の名詞)
いらっしゃる、おっしゃる、なさる、召し上がる、お使いになる、御利用になる、読まれる、始められる、お導き、御出席、 (立てるべき人物からの)御説明
ものごと等
(名詞)
お名前、御住所、(立てるべき人物からの)お手紙
状態等
(形容詞など)
お忙しい、御立派

 簡単にいうと相手の行為とか相手の物事に敬意を払うときに使うのが尊敬語です。

 (1) 先生は来週海外へ行かれるんでしたね。
 (2) 先生は来週海外へ行くんでしたね。
 (3) 先生のお名前は何ですか?
 (4) 先生はお忙しいようです。

 (1)と(2)は同じ内容ですが、「行く」の代わりに「行かれる」を使うことで「先生」を高めて敬い、「先生」を立てる述べ方になります。行為以外にも「お名前」「お忙しい」のようなものごとや状態を表す語にも尊敬語があります。例えば(3)は「名前」の所有者である「先生」を、(4)は「忙しい」状態にある「先生」を立てる述べ方です。

尊敬語はどんな時に使う?

 尊敬語は①その人物を心から敬っているとき、②本当に心から敬っているかどうかは別として、その状況でその人物を尊重する述べ方を選ぶとき、③その人物に一定の距離を置いて述べようとするとき、などの心理的な動機で使います。いずれにしても尊敬語を使うと、その人物を言葉の上で高く位置付けて述べることになります。これを「立てる」と表現します。

 (5) お元気でしたか?              …①
 (6) お越しくださいましてありがとうございます。 …②
 (7) 勝手になさってください。          …③

尊敬語によって立てられる人物について

 (1) 先生は来週海外へ行かれるんでしたね。

 例文(1)において、「行く」という行為の主体である「先生」は立てられる人物なので、「行く」に対応する尊敬語「行かれる」を用いて敬意を表し、先生を立てています。ところがこれをどのような場面で述べたかによって「先生」の立場が変わってきます。
 例えば(1)を「先生」に対して直接述べると「先生」は<話や文章の相手>、「先生」の家族等に対して述べると「先生」は<相手側の人物>、その他の人に対して述べると「先生」は<第三者>ということになります。<話や文章の相手>と<相手側の人物>はまとめて「相手側」と呼び、だから尊敬語は「尊敬語は相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて、その人物を立てて述べるもの」と定義されています。

尊敬語の形式

 「行く」に対する「いらっしゃる」、「言う」に対する「おっしゃる」のように特定の語形(特定形)による場合と、「お/ご~になる」(「読む」に対する「お読みになる」)や「~(ら)れる」(「読む」に対する「読まれる」)のように広くいろいろな語に適用できる一般的な語形(一般形)を使う場合とがあります。
 以下は一般形の主な例です。

一般形
~(ら)れる 行く→行かれる、話す→話される
お/ご~になる 休む→お休みになる、利用する→ご利用になる
~なさる サ変動詞についてのみ、その「する」を「なさる」に代えて作ります。
利用する→利用なさる
ご~なさる サ変動詞についてのみ、その「する」を「なさる」に代えて作ります。ただし、「ご」がなじまない語については作ることができません。
利用する→ご利用なさる
お/ご~だ
お/ご~です
お/ご~でいらっしゃる
「だ」を丁寧語「です」に変えた「お/ご~です」の形で用いられることが多い。
読む→お読みだ、利用する→ご利用だ
お/ご~くださる 読む→お読みくださる、指導する→ご指導くださる

 ※注1
 「ご~される」(御説明される、御利用されるなど)は、本来、尊敬語の適切な形ではないとされています。

 ※注2
 動詞に尊敬と可能の意味を加える場合は、まず尊敬語の形にしたうえで可能の形にします。(召し上がる→召し上がれる、お読みになる→お読みになれる、御利用になる→ご利用になれる)

「お/ご~になる」を作る上での注意点

 「お/ご~になる」を作る上で、どんなときに「お」を使い、どんなときに「ご」を使うのかは注意が必要です。一般に、動詞が和語の場合は「読む→お読みになる」「出かける→お出かけになる」のように「お」を使い、漢語サ変動詞の場合は「利用する→ご利用になる」「出席する→ご出席になる」のように「ご」を使います。
 ただし、変則的な作り方をする例もあります。例えば「見る」は「お見になる」ではなく「ご覧になる」、「行く/来る/いる」は「おいでになる」、「寝る」は「お休みになる」、「着る」は「お召しになる」です。

 その他、慣習上、「お/ご」と組み合わせることがなじまず、「お(ご)~になる」の形が作れない動詞もあります。その場合は別の作り方で尊敬語を作ります。

一般形「お/ご~になる」 一般形「お/ご~になる」 一般形「~(ら)れる」
死ぬ ✕お死にになる 〇お亡くなりになる 〇亡くなられる
失敗 ✕ご失敗になる 〇失敗なさる 〇失敗される
運転 ✕ご運転になる 〇運転なさる 〇運転される

名詞とイ形容詞、ナ形容詞の尊敬語

 名詞、イ形容詞、ナ形容詞を尊敬語にする場合、和語なら「お」をつけて「お名前」「お忙しい」「お元気」、漢語なら「ご」をつけて「ご出身」「ご立派」とします。ただし「お礼」のような多少の例外はあります

 (8) 出身  (名詞の尊敬語)
 (9) 忙しい (イ形容詞の尊敬語)
 (10) 元気  (ナ形容詞の尊敬語)

 「お」「ご」のなじまない語でも、「(指が)細くていらっしゃる」「積極的でいらっしゃる」のように、「~でいらっしゃる」「~くていらっしゃる」の形で尊敬語にすることができます。

「お/ご~」 「~でいらっしゃる」「~くていらっしゃる」
社長 ✕ご社長です 〇社長でいらっしゃる
細い ✕お細いです 〇細くていらっしゃる
積極的 ✕ご積極的です 〇積極的でいらっしゃる

 「お忙しくていらっしゃる」「ご立派でいらっしゃる」のように「お」「ご」をつけた上で、「~くていらっしゃる」「~でいらっしゃる」の形と併用することもできます。

「名詞+だ」に相当する尊敬語

 「名詞+だ」に相当する内容を尊敬語で述べる場合は、「名詞+でいらっしゃる」を使います。

 (11) 先生は努力家でいらっしゃる
 (12) 田中さんは社長でいらっしゃいます。
 (13) 優秀でいらっしゃる

尊敬語にしにくい語

 極端にマイナスの意味を持った語はその行為や状態の主体、ものごとの所有者をおとしめることになるため、尊敬語にするのが難しくなります。

 (14) *彼は人を殺された。
 (15) *頭がハゲられている。
 (16) *体臭が臭くていらっしゃる
 (17) *下手でいらっしゃる
 (18) *彼は痴漢でいらっしゃる

参考文献

 文化庁(2007)『敬語の指針』(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf




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