平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説
問1 書き言葉と話し言葉
選択肢1
書き言葉に触れる場面は主に文章を読んでいるときなので、その意味を理解するには書かれている文を理解するしかありません。だから場面依存性は低いというのは正しいです。(話し言葉は意味理解するにはことば以外にも場面に依存して意味を理解することができます。例えばことばが分からなくても、体の動きで何となく意味が分かるとか。話し言葉は場面依存性が高いと言えます)
それから、「しないといけない」を「しないと」などと省略するのは話し言葉に見られる特徴です。文の成分の省略は書き言葉ではなく、話し言葉によく見られます。
この選択肢は間違い。
選択肢2
「~しなければならない」は話し言葉だと「~しなくちゃ」とか短くなりますし、縮約性が高いのは話し言葉の特徴。
「買い物行こう」や「ご飯食べる」「雨降ってる」などに見られる助詞の脱落も話し言葉の特徴。
書き言葉は縮約性も低く、助詞もあまり脱落しません。この選択肢は間違い。
選択肢3
話し言葉に触れる主な機会は誰かと対面している場面です。「うん」や「ううん」などの応答詞や「遊ぼうよ」や「楽しいな」などの終助詞は話し言葉で頻出します。
この選択肢が答え。
選択肢4
話し言葉を使う場面は目の前に相手がいることが多いので、相手の話を聞いて理解し、即座に自分が発話して… というリアルタイムなやりとりが生じます。書き言葉はそうではありません。即興性が高いのは話し言葉で合ってます。
しかし話し言葉は「ああ」や「へえ」「うーん」「おー」などの感動詞が頻出します。書き言葉ではほぼない。この選択肢は間違いです。
答えは3。
問2 様々なジャンルの文体的特徴
選択肢1
手紙文で用いられる儀礼的機能を担う定型句などの表現とは時候の挨拶とか、冒頭の「お世話になっております」とか。これは手紙の特徴だから適当。
選択肢2
正しいです。「~と思われる」とか「~は明らかである」「~をここに示す」などは論文、レポート、報告書などによく見られる表現。これらは客観性が高いから。
選択肢3
「~と釈明。」「~と説明。」「~で殺人事件が発生。」などとニュースの見出し、テロップではよく体言止めが使われます。
これも正しい。
選択肢4
取扱説明書ではデス・マス体、あるいは「~ましょう」で手順を示したりします。デアル形は普通使わない。
これが不適当。
答えは4です。
問3 主節と従属節の文体を合わせなければいけない場合
文体は普通体(~だ、~である)と丁寧体(~です、~ます)のことです。
選択肢1
(1) 彼が来るなら、私も行きます。 (普通+丁寧)
(2) 彼が来るなら、私も行く。 (普通+普通)
(3) *彼が来ますなら、私も行きます。(丁寧+丁寧)
(4) *彼が来ますなら、私も行く。 (丁寧+普通)
この例文から、「なら」節は常に普通体を要求することが分かります。主節の文体は普通体でも丁寧体でも構いません。
(1)のように従属節と主節の文体が合わない場合でも非文にならない例がありますから、この選択肢は間違い。
選択肢2
(5) *彼が来るが、彼女は来ません。 (普通+丁寧)
(6) 彼は来るが、彼女は来ない。 (普通+普通)
(7) 彼は来ますが、彼女は来ません。 (丁寧+丁寧)
(8) *彼は来ますが、彼女は来ない。 (丁寧+普通)
逆接の「が」自体は普通体にも丁寧体にも接続できます。しかし、普通体に接続するか丁寧体に接続するかは、主節が普通体か丁寧体かによって決まっています。主節が普通体であれば「が」節も必ず普通体になり、主節が丁寧体であれば必ず丁寧体を要求します。(5)(8)のように主節と従属節の文体が異なるものは非文となるからです。「が」節は主節と従属節の文体を合わせなければいけないのでこれが答え。
選択肢3
(9) 食べながら、話しましょう。 (普通+丁寧)
(10) 食べながら、話そう。 (普通+普通)
(11) *食べますながら、話しましょう。(丁寧+丁寧)
(12) *食べますながら、話そう。 (丁寧+普通)
「ながら」節は常に動詞のマス形に接続します。(11)(12)のように「動詞のマス形+ます+ながら」と丁寧体に接続することはできません。動詞のマス形に接続した場合でも、主節は丁寧体も普通体も可能だから、主節と従属節で文体を一致させる必要はありません。この選択肢は間違い。
選択肢4
(13) ご飯を食べつつ、楽しみましょう。 (普通+丁寧)
(14) ご飯を食べつつ、楽しもう。 (普通+普通)
(15) *ご飯を食べますつつ、楽しみましょう。(丁寧+丁寧)
(16) *ご飯を食べますつつ、楽しもう。 (丁寧+普通)
「~つつ」は動詞のマス形に接続します。(15)(16)のように「動詞のマス形+ます+つつ」と丁寧体に接続すると非文になってしまいます。普通体に接続しても主節の文体は普通体でも丁寧体でもどちらでもいいので、主節と従属節で文体を一致させる必要はありません。この選択肢は間違い。
したがって答えは2です。
問4 ダ・デアル体において、イ形容詞の誤用が起こりやすい理由
文章中に「ダ・デアル体においては、特にイ形容詞の誤用が起こりやすい」とヒントがあります。
選択肢1
「寂しい」「楽しい」などはこの形でル形(非過去形)で、「寂しかった」「楽しかった」などとすればタ形(過去形)になります。
イ形容詞は文末のテンスの対立があります。この選択肢は間違い。
選択肢2
「大きな」「おかしな」などは文末に「な」があるのでナ形容詞に見えますが、実際は連体詞です。「な」で終わるタイプの連体詞はナ形容詞と混同する可能性があります。イ形容詞ではありません。
それから、名詞は「学生だ」「学生である」みたいにダ・デアル体がつけられますが、「大きな」「おかしな」は「大きなだ」「大きなである」などと言えません。これら連体詞は名詞述語に現れる形式「だ」「である」がつけられないので、名詞と混同しません。この選択肢は間違い。
選択肢3
素材敬語(尊敬語、謙譲語Ⅰ)と対者敬語(謙譲語Ⅱ、丁寧語、美化語)はどちらかが使用頻度が高まっているなんて事実はありません。どちらも使われます。
それから、イ形容詞のゴザイマス体、たとえば「おいしゅうございます」などはむしろ使われなくなってきている表現で、広まってません。この選択肢は間違い。
選択肢4
イ形容詞は「おいしいだ」「おいしいである」などと言えませんが、ナ形容詞は「静かだ」「静かである」とダ・デアルがつけられます。
ナ形容詞のこのルールをイ形容詞に適用して「おいしいだ」などという学習者もかなりいます。これが正しい選択肢。
したがって答えは4です。
問5 「思う」や「考える」などの認識動詞
選択肢1
自発形「考えられる」は、「Aだと考えられる」みたいに客観的な認識を表します。主観的ではありません。
この選択肢は間違い。
選択肢2
論拠から結論を述べるときの「このように考えることができる」や「このように考えられる」は状況可能です。アカデミックな場面はこっち。
「前向きに考えられる」なら能力可能としての解釈も可能ですが、これはアカデミックな場面で用いられません。この選択肢は間違い。
選択肢3
自発形「思われる」を使って「私にはそう思われる」などと言えば、その認識の主体は書き手・話し手だけですが、受身形「思われている」を使って「そう思われている」などと言うと認識の主体は書き手・話し手だけではなく、より広い範囲の人々です。こうするとより客観的な表現となり、アカデミックな場面で使えます。
この2つは認識の主体が異なるので正解。
選択肢4
「明日は雨が降ると思う」の「思う」は現在の認識を表しています。また、「明日は映画を見に行こうと思っている」の「思っている」は未来の意志を表しています。逆。
したがって答えは3です。
コメント
コメント一覧 (3件)
はじめまして。31年度検定に向けて勉強しているものです。いつも大変わかりやすい解説をいただきありがとうございます。ところで,問2で明示されている答えが間違っています。解説はいいと思います。誤植だと思います。「平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説 問2」です。これからもよろしくお願いします。
>クマさん
確認したところ確かに間違っていました。答えは4ですね!
ご指摘ありがとうございました。
10月の試験、一緒に頑張りましょう!
すごく、わかりやすい説明をありがとうございます! 先生のブログでテストまでがんばります。