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平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説

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平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説

(1)等時性(isochronism)

 日本語は拍(モーラ)でリズムをとる言語です。この拍は時間的にほぼ等間隔で刻まれる性質があります。
 例えば俳句は5・7・5のリズムと言いますが、これはそのまま5拍、7拍、5拍のリズムをとってると考えていいです。「ふるいけや」なんていうとき、「ふ」を1秒で読んだらその後の「る」「い」「け」「や」もそれぞれ1秒で読まれ、「ふ」を0.5秒で読めばその後も全部1拍0.5秒で読まれます。各拍はほぼ同じ時間感覚で現れる、こういう拍リズムの性質を等時性と呼びます。

 というわけで答えは答えは1です。

(2)モーラの特徴

 拍(モーラ)の数え方は、俳句のリズムを数えるように指折り数える方法で数えられます。例えば「あたま」なら指を折って数えると3拍、「ふじさん」なら4拍、「おしゃべり」なら4拍という具合です。そのことばが俳句だったら何文字分使うかな?って考えるとそれがそのまま拍を数えたことになります

 (1) あたま   (仮名3文字:3拍)
 (2) ふじさん  (仮名4文字:4拍)
 (3) おしゃべり (仮名5文字:4拍)

 この問題は仮名の文字数と拍数がどう対応しているかを問うています。何か適当に例文を作ってみて各選択肢がどのように拍数に関係しているのか見てみましょう。

選択肢1

 (4) かぱ (仮名3文字:3拍)

 ↑の例から分かる通り、「っ」は1文字で1拍を形成します。この選択肢は仮名1文字がモーラに対応してます。

選択肢2

 (5) きゃく (仮名3文字:2拍)

 「ゃ」などの拗音はそれだけでは発音できず、その前の音と合わせて発音します。(5)の「きゃ」がその例で、「ゃ」はその前の音「き」と合わせて1拍を形成します。拗音が含まれる音は仮名2文字で1拍になるのでこれが答え。

選択肢3

 (6) ききる (仮名4文字:4拍) 

 「木を切る」に現れている助詞「を」は仮名1文字で1拍を形成します。この選択肢は下線部Bに当てはまります。

選択肢4

 (7) みか (仮名3文字:3拍)

 「ん」も仮名1文字で1拍を形成します。仮名3文字「みかん」で3拍になっているのがその証拠です。この選択肢は下線部Bに当てはまります。

 したがって答えは2です。

(3)言語におけるリズム

 各言語が何でリズムをとっているのかを聞いてます。日本語は先に述べたように「拍」でリズムをとる言語です。世界の言語を見ると、拍以外に音節でリズムをとる言語もあれば強勢アクセントでリズムをとる言語もあります。

 (1) 我是高桥
 (2) the first time [ðə fˈɚːst tάɪm]

 例えば中国語は漢字1字が1音節にあたります。この漢字一字一字が時間的に等間隔で読まれるので音節でリズムをとる言語に分類されます。英語の場合は語にある強勢アクセントが時間的に等間隔に現れます。(2)であれば first の f のところ、time の a のところにアクセントがあります。the first time には2つのアクセントが含まれていて、その2つは時間的に等間隔で現れるように読まれます。アクセントがない部分は通常弱めに速めに読まれてリズムを調整します。

 で、各言語はどうかというと…

 1 ✕ 英語は強勢リズムです
 2 〇 スペイン語は音節リズムで合ってます
 3 ✕ 中国語は音節リズムです
 4 ✕ フランス語は音節リズムです

 よって答えは2です。

(4)特殊拍について

 特殊拍は長音「ー」、促音「っ」、撥音「ん」の総称です。絶対覚えてください。

選択肢1

 (1) み|かん (音節末の撥音)
 (2) かっ|ぱ (音節末の促音)
 (3) スー|プ (音節末の調音)  ※「|」は音節境界

 「みかん」は「み」で1音節、「かん」で1音節です。このうち「かん」の音節末には撥音「ん」があるところを見ると、撥音は音節末に来ることができると分かります。同様に「かっ」「スー」には音節末に促音、長音があります。特殊拍は音節末に来ることができるのでこの選択肢は適当です。

選択肢2

 (4) カード (「ー」は「あ」の口で)
 (5) ニーズ (「ー」は「い」の口で)
 (6) ホース (「ー」は「お」の口で)

 長音の位置を分かりやすくするために↑の例文では「ー」を使っています。日本語では音を伸ばすときに「ー」を使いますが、「ー」と書かれているものは全て同じ口の形をして発音されているわけではありません。例えば「カード」の「ー」部分は「あ」の口の形で発音しているはずです。「ニーズ」の「ー」は「い」の口、「ホース」の「ー」は「お」の口の形です。長音は常に先行する拍の母音と同じ音で発音されます。先行拍による音声が決まるものとは、長音のことです。この選択肢は適当。

選択肢3

 (7) ん〇〇
 (8) ー〇〇
 (9) っ〇〇

 特殊拍から始まる日本語は基本的にありませんね。そんな語は辞書にないです。しりとりでたまに出てくる「ンジャメナ」なんていうのは外来語であってしかも日本語の語を代表できないので例外。この選択肢が答えです。

選択肢4

 (7) カード [kɑːdo]
 (8) かっぱ [kɑppɑ]
 (9) かんぱ [kɑmpɑ]

 (7)長音の場合はIPAで[ː]と表記します。これは子音でも母音でもない長。
 (8)促音の場合は後続音と同じ子音で表記します。「かっぱ」は「っ」の後続音が[p]なので、「っ」も[p]で表記します。促音は子音音素を含みます。
 (9)撥音の場合は後続音によって[m]にも[n]にも[ɴ]にもなったりするんですけど、いずれの場合も子音です。
 特殊拍で子音音素を含むのは促音と撥音。この選択肢は間違いです。

 したがって答えは4です。

(5)外来語のアクセント核

 問題文を読むと、外来語は語末から   ア   モーラ目にアクセント核があるらしい。「アスファルト」が例として挙げられているのでこのアクセント核の位置を確認しましょう。

 (1) ファルト

 アクセント核とは、高から低に落ちるところのことです。「アスファルト」でいえば「ファ」が核にあたります。「ファ」は語末から数えると3モーラ目だから、答えは3です。

 外来語は語末から3拍目にアクセント核が来ることが多いようです。ただし、来ないものも当然あります。

 (2) ラム (語末から3拍目に核)
 (3) レゼンーション (語末から4拍目に核)
 (4) ポンサー (核なし)

 (2)は語末から3拍目に核がありました。問題文があげる例として適当です。でも(3)は4拍目にあって例外、(4)はそもそも核なしです。外来語は全て語末から3拍目に核があるっていうわけではないので、そういう指導は危険です。




コメント

コメント一覧 (4件)

  • こんにちは。いつも参考にさせていただいてます。
    (3)リズムのところで、手書きの図がありますが、スペイン語が強勢リズムに入っていて、表と違っているようです。
    ご確認いただけると幸いです。

    いよいよ検定試験があさってに迫って来ました。
    頑張ります♪

  • >浅利さん
    ご指摘ありがとうございます。
    スペイン語の件ですが、既に修正しました。正しいものが表示されない場合は、一度ブラウザのキャッシュを削除してください。
    試験頑張ってくださいね!

  • (4)特殊拍についての説明の中で「2促音は先行拍によって調音点が変わる」と言っていますが、これは違うのではないでしょうか。促音は後続音によって調音点が変わるのでないでっしょうか(逆行同化)。先行拍によって調音点が変わるのは長音ではないでしょうか。もし私の間違いであったら、申し訳ありません。調べくれませんか。

    • >若林敬三さん
      ご指摘ありがとうございます!
      確認しましたところ、解説に誤りがありました。正しくは「促音は後続音によって調音点が変わる」です。
      解説の内容は修正しておきます。ありがとうございました。

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