平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説
問1 談話
選択肢1
発話時点を基準にして、文が表す事態が現在、過去、未来の時間軸のどこに位置するのかを定めるものをテンス(時制)と言います。日本語ではル形で非過去(現在か未来)、タ形が過去を表します。
「する」と「した」ではテンスが異なります。当たり前ですけど、テンスは談話の時制を決めますので当然構成に大きく関わります。この選択肢は間違い。
選択肢2
モダリティとは、命題に対する話し手の認識を表す表現や聞き手に対する話し手の心的態度を表す表現を指します。簡単にいうと話し手の主観が含まれているもののこと。たとえば「たぶん」「かもしれない」「はずだ」「だろう」などは主観的な判断が含まれている表現なのでモダリティ表現です。終助詞の「~ね」「~よ」「~な」なども聞き手に対する表現なのでモダリティ表現です。
談話にはモダリティ表現が必ず現れるのでモダリティは当然談話の構成に大きく関わります。この選択肢は間違い。
選択肢3
談話は英語で discourse、直接話法はdirect speech だから間違い。
選択肢4
モノローグとは、俳優が舞台で1人で喋る、かなりの長さをもったセリフのことです。
これも談話ですね。
したがって答えは4です。
問2 指示詞の文脈指示用法
指示詞は会話現場にあるものを指す現場指示と、言語的文脈の中に存在するものを指す文脈指示に分けられます。文脈指示はその文法現象とのかかわりから先行文脈の一部を指し示す前方照応と、後続文脈の一部を指し示す後方照応に分けられます。
先行文脈の一部を指す前方照応はコ系とソ系が現れます。
後続文脈の一部を指す後方照応はコ系が現れます。
そして、記憶の中のものを指す記憶指示にはア系が現れます。
この知識はこの問題を解くときにあったほうがいいと思います。
選択肢1
「昔2人で迷子になったときのこと覚えてる?」
「あのときは大変だったねー」
文脈指示で話し手も聞き手も知っている記憶を指示する場合は確かにア系指示詞を用います。
これが答え。
選択肢2
「今までで一番嬉しかったことは、第一志望に合格したことかな」
「それもうちょっと詳しく教えて」
文脈指示で聞き手が知っていて話し手が知らないことを指示する場合はソ系指示詞を用います。
この選択肢は間違い。
選択肢3
「1問だけ分からなかった。それが解けたら100点だった。」
指示対象が具体物を表す名詞の場合はソ系指示詞を用います。コ系でも大丈夫ですね。
ア系じゃないからこの選択肢は間違い。
選択肢4
「私はこう言いました。『やめてください』と。」
上の例文は指示対象「やめてください」が指示詞「こう」の後に現れています。これは後方照応だからコ系指示詞を用います。ソ系じゃないから間違い。
したがって答えは1です。
問3 接続表現
選択肢1
(1) まず食材を洗い、次に切ります。 (時間の順序あり)
(2) 重要なことは2つあります。まずは〇〇。次に〇〇です。(時間の順序なし)
(1)のような手順を表す場合は列挙する事柄の間に時間的順序が必要です。でも(2)のように並列関係にある事柄を列挙する場合は時間的な順序の制約を受けません。この選択肢は(2)を無視しているので間違い。
選択肢2
(3) ちなみに彼はどんな人なんですか? (補足情報を求める)
(4) 彼は教師をしています。ちなみに中国でです。(補足情報を述べる)
(5) *なお、彼はどんな人なんですか? (補足情報を求める)
(6) 道の駅は本日臨時休業です。なお、トイレは使用できます。 (補足情報を述べる)
「ちなみに」は(3)のように相手に補足的な情報を求める文が現れることもありますが、(4)のように単に補足的な情報が述べられることもあります。
「なお」は(5)のように補足情報を求める使い方はありません。(6)のように補足情報を述べるときなら大丈夫。
この選択肢は間違い。
選択肢3
(7) そうなんだあ。ところで、その服どこで買ったの? (話題転換)
(8) ご飯ができたところで夫が帰ってきた。
(7)の「ところで」は話題転換の用法なので「話は変わるけど」に置き換えられます。
でも(8)の「ところで」は「話は変わるけど」に置き換えられません。この選択肢が答えです!
選択肢4
(9) 田舎に住みたい人もいる一方で、都市部に住みたい人もいる。 (対比)
(10) 人口減少が加速する一方で、東京への人口と富の一極集中が進んでいます。 (並列)
「~一方(で)」には(9)のような対比関係を表す用法と、(10)のような前件と後件の並列関係を表す用法があります。この選択肢は間違い。
したがって答えは3です。
問4 省略のされやすさ
選択肢1
聞き手を表す成分である「あなたは」は、この場合省略されて「何時頃お帰りになりますか」と言われることが多いです。この選択肢は適当。
選択肢2
話し手を表す成分である「私は」は、この場合省略されて「初めまして、林です。」と言われることが多いです。この選択肢は適当。
選択肢3
動作主である「私たちは」は、この場合省略されて「特定の国が~」と言いますね。この選択肢は適当。
選択肢4
述語「買ったんですか」の焦点部分である「インターネットで」は省略されません。焦点は話したいことだから省略できません。これが答え。
答えは4です。
問5 談話レベルの指導
選択肢1
正しいです。談話指導はモデル会話からでもいいし、ロールプレイなどコミュニカティブな活動を通して自然に生まれた談話でもいいです。
選択肢2
既習文型の反復練習ではなかなか実際のコミュニケーションに対応できるようにはなりません。オーディオリンガル・メソッドのデメリットですねこれは。一文レベルの指導ではなく、複数の文のまとまり(談話)で指導しないと談話の指導はできないです。この選択肢は間違い。
選択肢3
パラ言語とは、イントネーション、リズム、ポーズ、声質(声の大きさ、高さ、速さ、声色)、フィラーなどのことを指します。パラ言語の指導は音声面の流暢さに直結しますが、談話とはほぼ関係ありません。この選択肢は間違い。
選択肢4
学習者が特定の談話を学びたいというニーズを持っているのであれば学習者の意見を聞いたほうがいいです。
したがって答えは1です。
コメント
コメント一覧 (2件)
問2の例
「昨日近くでひったくりがあったんだって。」-「そんなことあったの。」
ですが、この例だと話し手が知っていて聞き手が知らない事物の例にも見えてしまいます。
自分でも何かいい例がないか、と考えたのですがどうにも思いつかず。
自分を棚にあげてこのようなコメントをしてすみません。
>foolさん
確かにそうですね。逆になっているみたいです。
「今までで一番嬉しかったことは何?」「それは、第一志望に合格したことかな」
とかどうでしょうか。話し手が知らないことを聞き手に尋ねている例です。