平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題12解説
問1 優先応答
隣接ペアとは、挨拶に対する挨拶、問いに対する返答、誘いや申し出に対する返答などのお互いに強く結びついてペアとなっている2つの発話のことです。例えば、次の例文の「今何時?」という質問に対しては「5時」のように現在時刻を答えることが求められます。Bさんが「今何時?」に対して全く関係のない「いいですよ」「分かりました」などの返答をすることはかえって不自然。この2つの発話はお互いに密接に関係している隣接ペアです。
A:今何時?
B:5時
隣接ペアの第2成分がプラスとマイナスの極性を持つ場合、プラスの極性を持った最も期待される応答のことを優先的応答、マイナスの極性を持った期待にそぐわない応答を非優先的応答と呼びます。例えば依頼に対する受諾が優先的応答で、拒否が非優先的応答です。
下線部Aでは「先行する発話の期待に沿った反応を示すもの」とあり、これが優先応答。
選択肢4は期待された返答である「はい、分かりました。」が得られています。それ以外は非優先応答です。
答えは4。
問2 ヘッジ
発話内容の断定性を弱め、明言を避ける表現のことをヘッジ(垣根表現)と言います。「たぶん」「かもしれない」「だと思うけど」「それはちょっと…」の「ちょっと」や「まあそうだけど…」の「けど」など。
1 「なにか」の口語形です。断定性を弱めるものではありません。
2 「様子」「感覚」「人当たり」などを表す言葉です。断定性を弱めるものではありません。
3 「とか」をつけることで「明日」の断定性を弱めてます。もし「とか」が無ければ「明日」だけを指定するような言い方になりますが、「明日とか」と言えば明日も良いし、明日ではない別の日でもいいみたいな意味合いになります。これは「明日」の範囲を若干広げて断定性を弱めていますのでヘッジです。
4 伝聞を表す助動詞です。断定性を弱めるものではありません。
答えは3です。
問3 会話の流れを決める言語形式
会話の流れを決める言語形式といえば談話標識。談話において、その後どう続くかを知る手がかりとなる言葉のことです。例えば、「でも」は反論、「ところで」は話題転換、「すみません」は会話の切り出しの合図となります。
選択肢4に談話標識とあるのでこれが答え。「つまり」があれば、そのあとに物事を要約をする内容が来ることが分かります。
答えは4です。
問4 オーバーラップ
オーバーラップとは、発話の重なりのことです。「お疲れ様でした」を言い終わる前に「お疲れ様でした」というとか。日本語のオーバーラップは、同意、共感、関心などを表し、話者同士の連帯感を強める協力的な性格を持ちます。
選択肢1
相手の話を遮って割り込むのは「割り込み」と言います。喧嘩のときとかに現れやすいやつ。
選択肢2
これが答え。オーバーラップは相手との連帯感を高める機能を持ちます。
選択肢3
相手の発話の終了と同時にターンを取るということは、相手の発話が終わって自分の発話ターンになったということ。発話は重なっていないのでオーバーラップではありません。
選択肢4
話し手のターン終了直後にターン交替が起こり発話しています。オーバーラップは起きてません。
答えは2です。
問5 修復(リペア)
修復とは、聞き間違え、言い間違え、言葉探し、誤解などの問題に対処するときに行う会話内での活動です。
選択肢1
A:明日8時に出発しよう
B:いいよ
A:出発したらまず〇〇寄って
B:そのほうがいいね
A:それから…
B:あれ、8時出発だよね?
A:うん
太字部分のように修復連鎖を少し時間が経ってからも行うこともあります。
選択肢2
修復(リペア)は誤用だけではなく、言い間違えや不明瞭な部分を言い直したりすることも含むので母語話者同士でも十分発生します。選択肢1の例文のような場合ですね。
選択肢3
A:明日8時に出発しよう
B:いいよ
A:あっ、出発9時だった
B:9時ね、分かった
聞き手だけでなく、話し手自身も気づけばリペアを行います。
選択肢4
A:コミニュケーション、じゃなくてコミュニケーションだよ。
音位転換によって「コミニュケーション」と言ったことを修復しています。このようなのが形式面の誤りに対する修復です。
A:部長も食べ… 召し上がりますか?
目上には尊敬語を使わないといけないと気づき、「食べますか」と言うところを「召し上がりますか」に修復しています。表現の不適切性も修復の対象になります。
答えは4です。
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