6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

修復とは?

修復(repair)

 会話参与者の間で相互行為が成り立つためには話し手によって産出された発話を聞き手が聞き取り理解する必要がありますが、話し手が言葉探しのために次の言葉が出てこないとか言い間違えるなどし、あるいは聞き手もそれを聞き間違えたり誤解したりという問題(トラブル)が生じて、相互行為が先に進まず停滞することがあります。このような場合、私たちは相互行為を先に進めるために当該問題に対処し、発話の理解にかかわる問題を取り除こうとする発話行為を開始します。これを修復(repair)と言います。細田(2016: 183)は「発話、聞き取りおよび理解に関する様々な問題があった時に、その問題、例えば聞き間違え、言い間違え、言葉探し、誤解、に対処するために会話参加者自身がその会話の中で行う活動」と定義しています。

 (1) 01 A: それは浮雲の書き出しだよ
     02    (.) なんて名前だったかな (.) え::と
     03 B: あ:: 確かふたばていしめいとかそんな名前
     04 A: あ: そうそう (2.0) でこれが雪国の書き出し

 修復は、修復を開始する段階と修復を実行する段階に分けられます。例(1)では、01行目で小説の書き出しを見てそれが『浮雲』であることに述べた後、02行目でその作者が誰か思い出せず次の言葉が出てこない問題に直面し、ここで修復が開始されました。03行目でその答えが相手から出されたことで修復が実行され、修復の連鎖がここで閉じます。04行目では、01行目で行っていた小説の書き出しを見て作品名を当てる行為へと立ち戻ります。会話参与者が会話に現れた問題に対処しようとすることで修復の連鎖が生じ、それまで行っていた行為や連鎖は問題が解決するまで、もしくは問題の解決を諦めるまで一旦延期されます。

 (2) 01 A: 茹でたとうもころし食べたくなってきた
     02 B: あれうまいよね
 (3) 01 A: よねづけんしいいよな
     02 B: よねづ (.) げ (.) ん (.) しな?
     03 A: あ:: げ: か

 会話参与者がその問題に気付かなかったり、対処しようとしなければ修復の連鎖は起きません。例(2)の01行目では「とうもろこし」を「とうもころし」と言い、その語形に明らかな誤りが見られますが、Bはそれに気づかない、もしくは対処する必要がないと考えたか、結果として修復は起きていません。また、修復は何の問題もない発話に対しても行われることもあります。例(3)では「米津玄師」の読み方についてやり取りが行われています。本来は「けんし」と読むのが正しいですが、Bは「げ」であることを指摘し、修復を開始しました。
 第二言語習得の「訂正フィードバック」はエラーに対する教師の否定的な反応を指し、修復とは部分的に重なりますが異なる概念であることに注意してください。修復はいわゆる訂正よりも広範囲の現象を指す概念です。

参考文献

 林誠(2017)「修復」『会話分析入門』191-217頁.勁草書房
 細田由利(2016)「修復の組織」『会話分析の基礎』183-227頁.ひつじ書房




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