音位転換(metathesis)
一語の内部に連続する特定の音声の位置、すなわち音位が入れ替わることを音位転換(metathesis)と言います。日本語でいうと、平安時代以降、新しいの意の「あらたし(新たし)」と惜しいの意の「あたらし(惜し)」とが混同され、新しいの意でも「あたらし」となりました。この音変化では「ら」と「た」が交替し、「あらたし」が「あたらし」となっています。このように日本語においては拍の単位で音位転換が生じます。古い語形である「あらたし」は現代でも形容動詞「新た」として残っています。その他、現代の日本語には以下のような音位転換も見られます。
(1) ふんいき → ふいんき (雰囲気)
(2) とうもろこし → とうもころし
(3) シミュレーション → シュミレーション
次のはtiktokで見つけた音位転換の例です。「豆知識(まめちしき)」を「まめちきし」といい、「し」と「き」が入れ替わっています。
古英語でも「草」を表す grass は /gærs/ と /græs/ の2つの語形が使われていました。現代では後者で発音されるようになっていますが、この過程には [æ] と [r] の交替が見られます。
参考文献
宮腰賢・石井正己・小田勝(2011)『旺文社全訳古語辞典 小型版』54.85頁.旺文社
小泉保(1996)『音声学入門』143-144頁.大学書林
国際言語学オリンピック日本委員会(著)・風間伸次郎(監)(2023)『パズルで解く世界の言語: 言語学オリンピックへの招待』56-57頁.研究社
斎藤純男・田口善久・西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』28頁.三省堂
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