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平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題13解説

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平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題13解説

 この問題で触れているのはブラウン&レビンソンのポライトネス理論です。

 《参考文献》
 Brown, P., & Levinson, S. C. (1987). Politeness: Some universals in language usage. Cambridge: Cambridge University Press.

問1 フェイス

 Brown & Levinson(1987: 62)はポライトネス理論の前提となる face(フェイス)について次のように説明しています。

 Face as wants (欲求としてのフェイス)
 we treat the aspects of face as basic wants.(我々はフェイスの側面を基本的な欲求と見なす)

 元々の論文では face を “wants” と呼んでいます。これは日本語では「欲求」と訳されています。
 よって答えは1です。

問2 ポライトネス理論

 1 なぞ(→談話管理理論)
 2 オースティンの理論(→発話行為理論)
 3 これが答え
 4 ジャイルズの理論(→アコモデーション理論)

 答えは3です。

問3 ポジティブ・フェイス

 相手に近づきたい、認められたい、関わりたいという接近の欲求をポジティブ・フェイスと言います。このポジティブ・フェイスに配慮した行為をポジティブ・ポライトネスと言います。つまりこの問題はポジティブ・ポライトネスを選ぶ問題です。

選択肢1

 本当は「あなたが悪い」と直接言って非難したいところかもしれませんが、そうすると聞き手のネガティブ・フェイスをとんでもない侵害することになり、将来的に何か話し手に不利益を被る危険があります。なので「私が悪いのかな?」と曖昧な表現(ヘッジ)を用い、不利益を避けたり低減しようとしています。この種の行為は聞き手のネガティブ・フェイスに配慮して行われるFTAで、ネガティブ・ポライトネスです。

選択肢2

 「あなたのせいで壊れた」という意図を伝えたいところですが、それを直接ことばにして伝えるとあまりにも相手のネガティブ・フェイスを侵害してしまいます。そこでこの人は他動詞「壊す」を使わず、自動詞「壊れる」を使って主語を述べることを回避しました。本来の伝えたい意図を隠しているようです。この種のストラテジーはオフ・レコードだと思われます。
 あるいは「かも」と曖昧な表現(ヘッジ)を用いているから、相手のネガティブ・フェイスに対して配慮するネガティブ・ポライトネスかもしれません。
 いずれにしてもポジティブ・フェイスに配慮したFTAではないのでこの選択肢は間違い。

選択肢3

 相手のことを気にかけてあげるのは典型的なポジティブ・ポライトネスです。
 相手が望んでいること、すんわちここでは「髪型の変化に気づいてほしい」などの欲求に話し手が寄り添ってあげることになるので、ポジティブ・フェイスを脅かす度合いを緩和しようとしています。この選択肢が答え。

選択肢4

 相手が断りやすい表現、例えば「もし来れるなら来たら?」みたいな言い方をすれば、聞き手は行かなければならないという圧力から部分的に解放され、ネガティブ・フェイスの一部を補償することになります。これはネガティブ・ポライトネス

 答えは3です。

問4 フェイスへの配慮よりも伝達が優先される例

 お互いのフェイスに配慮するよりも意図の伝達効率が優先される発話とは、ボールド・オン・レコード・ストラテジーを指します。緊急時でもない通常の場面で「~しろ」のような命令表現を用いると、聞き手はその行為をしなければならないという圧力にさらされてネガティブ・フェイスが侵害されたと感じるかもしれません。しかし、火事のような切迫した緊急性の高い場面においては、フェイスに配慮することよりも意図の伝達効率のほうが優先されるため、「逃げろ」などと命令を用いたとしても、話し手と聞き手は当該発話によるフェイスの侵害はやむをえないものだ、と考え、許容されるかもしれません。

 1 ヒントを与えて意図を隠しているのでオフ・レコード
 2 質問で許可を請うているのでネガティブ・ポライトネス
 3 これがボールド・オン・レコード・ストラテジー
 4 「貸してほしい」という意図を伝えるためのヒントを与えているのでオフ・レコード

 答えは3です。

問5 FTAの度合い

 ポライトネス理論では、フェイスを脅かすような行為をFTA(Face Threatening Act)と呼びます。そのFTAの度合い(フェイス侵害の度合い)は次の式で表されます。

 Wx = D(S,H) + P(H,S) + Rx

 ・Wx はFTAの度合い
 ・D(S,H) は話し手(S)と聞き手(H)の社会的距離の値
 ・P(H,S) は話し手が聞き手に与える力の値
 ・Rx はその行為が特定の文化においてどのくらい負荷を与えるかを表す値

 1 「力関係」というのが「P(S,H)」
 2 「社会的距離」が「D(S,H)」
 3 「行為の負担度」が「Rx」
 4 そんな要因はありません

 答えは4です。




コメント

コメント一覧 (2件)

    • >aさん
      ご指摘ありがとうございます。正しくは「欲求」ですね!
      修正しておきます。

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