さ入れ言葉
さ抜き言葉とは、五段動詞の使役形に現れる使役接辞「-ase-」に「-sa-」が挿入され、「-asase-」になる歴史的な言語変化、またはその語形のことです。例えば、五段動詞「休む(yasum-u)」の語幹 yasum- に使役を表す接辞 -ase- をつけた「休ませる(yasum-ase-ru)」は現代において使役形の規範的な語形と認識されていますが、-sa- を挿入して「休まさせる(yasum-asase-ru)」という語形も使用実態として確認されています。これがさ入れ言葉です。ただし文化庁(2021: 17)の調査によると、さ入れ言葉の使用状況は10%~20%程度となっていてそれほど高くはありません。
従来の規範的な語形 | さ入れ言葉 | |
休む(yasum-u) | 休ませる(yasum-ase-ru) | 休まさせる(yasum-asase-ru) |
やる(yar-u) | やらせる(yar-ase-ru) | やらさせる(yar-asase-ru) |
帰る(kaer-r) | 帰らせる(kaer-ase-ru) | 帰らさせる(kaer-asase-ru) |
伺う(ukagaw-u) | 伺わせる(ukagaw-ase-ru) | 伺わさせる(ukagaw-asase-ru) |
さ入れ言葉は「~させていただく」という文型において特によく現れます。
(1) 私にやらさせてください。
(2) 明日は休まさせていただきます。
(3) 私にも一言言わさせてください。
一段動詞の使役形からの類推
従来の五段動詞使役形は語幹に「-ase」をつけて作りますが、さ入れ言葉によって使役接辞を「-asase-」に変化させることで形態的に一段動詞の使役接辞「-sase-」に近づきます。つまりさ入れ言葉に現れる使役接辞「-asase-」は、一段動詞の使役形に現れる使役接辞「-sase-」からの類推であり、全体として動詞の使役の形を揃えようとする言語変化と考えられています。
(4) 休まさせる(yasum-asase-ru) 使役接辞「-asase-」
(5) 食べさせる(tabe-sase-ru) 使役接辞「-sase-」
参考文献
森山卓郎・渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』52頁.三省堂
文化庁(2021)『令和2年度「国語に関する世論調査」の結果について』17-18頁 → 魚拓
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