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平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

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平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

問1 習得順序研究と発達順序研究

 大関(2010: 45)によると、習得順序は「いろいろな異なる文法項目の習得される順序」で、発達順序は「否定文の発達、疑問文の発達というように、一つの構造がどう発達するかというプロセス」のことです。

選択肢1

 いろんな文法項目がどんな順番で習得されるか(習得順序)を見るにも、一つの文法項目がどう発達するか(発達順序)を見るにも、学習者の産出、すなわち正用と誤用を見る必要があります。この選択肢は間違い。

選択肢2

 縦断的な研究とは、過去から現在にかけての時系列の研究を指します。いろんな文法項目がどの順序で習得するか(習得順序)を調べるには時系列での研究が必要だし、ある文法項目がどう発達するか(発達順序)を調べるにも時系列での研究が必要です。どちらも縦断的な研究が必要。
 横断的な研究は、多くの人を対象に。ある一時点での状態がどうであるかを研究するものです。習得順序も発達順序も一般的な順序があるとすれば多くの人を研究対象にして明らかにしないといけないので、いずれの場合でも横断的な研究が必要です。
 この選択肢は間違い。

選択肢3

 習得順序研究では学習者の正用率を見ます。正用率が高ければそれは習得したと考えられるからです。そして正用率が高い順に習得順序が決まります。
 発達順序研究では学習者の誤用率を見ます。誤用率が高ければ完全習得したとは言えませんし、誤用0なら完全習得したと言えます。この点から発達の順序を決めます。
 この選択肢は逆。

選択肢4

 正しいです!
 習得順序は複数の文法項目の習得順序を調べるので、研究対象は複数の文法項目です。
 発達順序研究はある特定の文法項目が完全習得するに至るまでを調べるので、研究対象はその特定の文法項目だけです。

 答えは4です。

 《参考文献》
 大関浩美(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』44-47頁.くろしお出版

問2 U字型発達曲線

選択肢1


 こういうやつをU字型発達曲線と言います。初級の段階は定型的な表現ばかり学ぶので誤用の産出は少ないですが、中級になると学ぶことが増えて混乱し、誤用が増えます。上級に向かうにつれてそれらの誤用はまた減っていきます。この過程がU字。この選択肢は下線部Bと関係します。

選択肢2

 定着化とは、化石化とも言って、中間言語の発達過程のある段階において中間言語の発達が途中で止まってしまい固定化してしまう現象のことです。下線部Bの内容はU字の曲線のことを言ってますが、定着化はU字のどこかの局面で習得がとまることを表します。U字とは一番関係が薄い。

選択肢3

 中間言語の目標言語の言語体系に近づいていく性質を性質を可変性と呼びます。一度産出できたものが産出できなくなるのは、中間言語が揺れ動いている(可変性)からです。この選択肢は下線部Bと関係します。

選択肢4

 逆行とは、緊張などが原因で習得したはずの表現が正しく使えなくなる現象のことです。下線部Bと関係します。

 答えは2です。

問3 転移

 転移とは、学習言語の学習過程において、母語の規則を学習言語に適用することです。母語と学習言語との間に何らかの共通点があり、それが学習を促進させる場合の転移を正の転移、逆に母語と学習言語との間の差異が著しく、学習言語の習得を妨げる場合の転移を負の転移と呼びます。

選択肢1

 正しいです。中国語には漢字があるので、当然漢字の意味は理解しやすいです。(正の転移)

選択肢2

 正しいです。韓国語にも助詞があるので、格助詞の意味は理解しやすいです。(正の転移)

選択肢3

 間違いです。中国語と韓国語では気音の有無(有気音と無気音)によって意味が区別されますが、日本語では声帯振動の有無(有声音と無声音)によって意味が区別されます。そのため中国語・韓国語母語話者は有声音と無声音を区別しにくいです。(負の転移)

選択肢4

 正しいです。少なくとも中国語には長音という概念がないので、中国人日本語学習者は最初のうち長音が苦手な人もいます。長音があるのに伸ばさなかったり…。これは負の転移です。

 答えは3です。

問4 有標性

 有標性については、詳しくはリンク先をご覧ください。ここでは簡単に説明します。

 動詞のテ形を例に挙げると、例えば「書く」「置く」「解く」などの「く」で終わる五段動詞はテ形で「~いて」の形をとります。これは原則的な活用です。しかし「行く」は「く」で終わるのにも関わらず「行いて」にはならず、「行って」と促音便が生じます。これが例外的な活用です。このとき、原則に従い、より典型的で、より単純なほう(「書く」「置く」「解く」)を無標原則にしたがわず、より非典型的で、より複雑なほう(「行く」)を有標と呼んで区別します。

選択肢1

 単数形「男」と複数形「男たち」を比較したとき、単数形には単数を表す接辞がつけられていませんが、複数形には複数を表す接辞「たち」がつけられています。複数形のほうが形の面で複雑です。つまり単数形は無標、複数形は有標です。この選択肢は逆です。

選択肢2

 肯定文「彼は学生です」と否定文「彼は学生ではありません/彼は学生ではないです」を比較すると、否定文はモーラ数が長くなってますし、「~ではありません」や「~ではないです」などのいくつかの種類があって複雑です。だから肯定文が無標、否定文が有標。この選択肢は合ってます。

選択肢3

 規則動詞(一段動詞と五段動詞)はその名の通り規則的な活用をするので、より単純。
 不規則動詞(カ変動詞とサ変動詞)は規則動詞にはない不規則な活用をするので、より複雑。
 つまり規則動詞はで無標、不規則動詞は有標。この選択肢は逆です。

選択肢4

 「私がタオルで体を拭いた」という文から「タオルで体を拭いた私」とか「私が体を拭いたタオル」とか「私がタオルで拭いた体」とかっていう名詞修飾節を作ることを関係節化と言います。詳しくはリンク先をご覧ください。
 さて、この選択肢は「主語の関係節化」と「目的語の関係節化」を比較しています。「私がタオルで体を拭いた」という例文には、主語「私」と目的語「体」が含まれています。これらをそれぞれ被修飾名詞の位置において関係節化してみましょう。すると前者は(1b)、後者は(2b)のようになります。

 (1)a がタオルで体を拭いた
    b タオルで体を拭いた  (主語の関係節化)
 (2)a 私がタオルでを拭いた
    b 私がタオルで拭いた  (目的語の関係節化)

 主語を関係節化した(1b)と目的語を関係節化した(2b)はどちらがより複雑かというと… それは決められないと思います。どちらも同じような統語的操作をして作りました。労力的にはあまり変わらない。だからどちらが無標でどちらが有標かは決められません。

 答えは2です。

問5 ディクトグロス

 ディクトグロスとは、教師が読み上げた文章を聞いて学習者がキーワードをメモし、そのメモをもとにグループやペアになって元々の文を復元する作業のことです。

 1 これがディクトグロス
 2 ディクテーション
 3 ピア・レスポンス
 4 ???

 答えは1です。




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 珍しく間違えているようです。問2の正答は 3 だと思います。 
    コロナでStay Homeで検定試験勉強しています。

    • >八木さん
      確かに解答が間違っていましたので修正いたしました。
      解説の内容には誤りはなかったようなのでただの打ち間違いでした… ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
      ご指摘ありがとうございました!

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