平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説
問1 出入国管理及び難民認定法の改正
1990年6月の出入国管理及び難民認定法の改正施行に伴い、「定住者」の在留資格が創設されたことで日系三世までの就労が可能となり、ポルトガル語・スペイン語を母語とする日系人の来日が増えました。
答えは4です。
問2 間接ストラテジー
学習ストラテジーは大きく分けて直接ストラテジーと間接ストラテジーに分けられ、それぞれはさらに3つのストラテジーに分類されています。全体としては次のようになります。
直接 | 記憶 | 記憶するために用いられるストラテジーのこと。知識と知識の知的連鎖を作ったり、語呂合わせなどで音やイメージを結びつけたり、繰り返し復習したり、単語カードを使ったりなどが挙げられる。 |
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認知 | 理解を深めるために用いられるストラテジーのこと。メモしたり、線引きしたりなどが挙げられる。 | |
補償 | 足りない知識を補うために用いるストラテジーのこと。分からない言葉を文脈から推測したりするなどが挙げられる。 | |
間接 | メタ認知 | 言語学習を間接的に支える間接ストラテジーのうち、学習者が自らの学習を管理するために用いるストラテジーのこと。学習のスケジューリングをしたり、目標を決めたりすることなどが挙げられる。 |
情意 | 学習者が自らの感情や態度や動機をコントロールするために用いるストラテジーのこと。自分を勇気づけたり、音楽を聴いてリラックスしたりすることなどが挙げられる。 | |
社会的 | 学習に他者が関わるストラテジーのこと。質問をしたり、他の人と協力することなどが挙げられる。 |
1 認知ストラテジーは直接ストラテジーの一種
2 情意ストラテジーは間接ストラテジーの一種
3 記憶ストラテジーは直接ストラテジーの一種
4 補償ストラテジーは直接ストラテジーの一種
答えは2です。
問3 文化変容モデル
エリカさんは来日したけど日本人との交流が無くて、ほとんどポルトガル語を話して日本語はあまり上手にならず、いつかブラジルに帰るからと言って日本語を諦めています。
とりあえずインターアクション仮説と文化変容モデルというのは置いておいて、その後の文を見てみましょう。「エリカさんは自分の学習を管理する能力が低い」と「エリカさんは日本社会に溶け込もうとする度合いが低い」ですが、後者のほうが正しいです。エリカさんはブラジル人が多く住むところでポルトガル語を使い、日本で生活しているからです。ここから選択肢1と3は除外されます。
次にインターアクション仮説なんですが、結論からいうとこれは無関係です。学習者が目標言語を使って母語話者とやり取り(インターアクション)する場面で生じる意味交渉が言語習得をより促進させるという仮説だから。
文化変容モデルでは、異なった文化を持つ人が別の文化に入ったとき、自分の文化をどれだけ維持するか、異文化の人とどれだけ関係を持つかによって異なる4つのストラテジーをとると考えます。
エリカさんはこの文化受容モデルの「分離」にあたります。
よって答えは4です。
問4 動機づけ
行動の原動力となるものや、そのきっかけのことを動機づけといいます。いわゆるモチベーションです。そのモチベーションの源泉が外部なのか内部なのかで分けられます。
外発的動機づけ | 外部からの報酬を得るため、罰を回避するための行動の原動力となるもの。 |
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内発的動機づけ | 自分の内側から湧いてくる行動の原動力となるもの。好奇心や興味によることが多く、長期間持続しやすい。 |
例えば、母親と子供が「歴史のテストで100点取ったらゲーム買ってあげる。80点以下だったらお小遣い減らすよ」と約束し、子どもは歴史の教科書をたくさん読むようになった場面を考えてみます。子供が歴史の教科書を読んでいるのは、ゲームという報酬を得るため、そしてお小遣い減額という罰を回避するためなので、外部要因によって教科書を読んでいることになります(外部的動機づけ)。
逆に「歴史が大好きで子供のころから本をたくさん読んでいた。」という子供がいたとします。この子供が歴史の本を読んでいるのは好きだからです。つまり内部要因によって本を読んでいます(内部的動機づけ)。
第二言語習得においては、ガードナー (Gardner)が道具的動機づけと統合的動機づけを提唱しました。これは外国語を学習するときの動機を分類したものです。
統合的動機づけ | その文化に溶け込みたいという気持ちからくる学習のこと。価値観や文化観を理解したい、もっと周囲とコミュニケーションを取りたい、好きなアイドルを追いかけたいなどがこれにあたる。 |
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道具的動機づけ | お金の為、進学や就職に有利だからという理由で外国語を学習すること。 |
1 「通訳の仕事はお金になるからやっている」の部分が外発的動機づけです。
2 内発的動機づけがあると明確に分かる部分はないのですが、選択肢4が完全に否定されています。
3 良い仕事を見つけるために日本語を勉強しているので、道具的動機づけがあります。
4 「日本人のようにはなりたくないから」の部分から、統合的動機づけはないと推測できます。
したがって答えは4です。
問5 言語適性
エリカさんは日本にいるのにブラジル人のコミュニティにいて日本語を話さなくてもいい環境に身を置く一方、マルシアさんは仕事を探すために積極的に日本語を勉強しています。
選択肢1
言語適性は簡単にいうと外国語を学ぶときに必要とされる能力のことで定義はちょっと抽象的です。エリカさんは日本人コミュニティと距離をおいて、日本人と話さないような生活をしています。一方、マルシアさんは積極的にコミュニティを築こうとしています。現地の人と関係を築く能力、広い意味での言語適性の面で差が出ているようです。言語適性は認知的要因なので、この選択肢が答え。
選択肢2
エリカさんの生活はポルトガル語を使うだけで満たされているので、日本語を学ぶモチベーション(動機づけ)がなさそうです。一方マルシアさんは仕事を探すため、という目的で強いモチベーションが感じられます。動機づけの面でも2人に差はありますが、これは認知的要因ではないので間違い。
選択肢3
エリカさんは内向的で、マルシアさんは外向的に見えます。しかしこれは認知的要因ではなく、性格です。この選択肢は間違い。
選択肢4
態度というのが何を指しているのか抽象的ですが、日本語学習に対する具体的な行動という意味であればそれは認知的な要因ではないので間違い。
答えは1です。
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