ら抜き言葉
ら抜き言葉とは、主に一段動詞の可能形に現れる可能接辞「-rare-」の ra が抜け落ち、「-re-」になる歴史的な言語変化、またはその語形のことです。例えば、一段動詞「起きる(oki-ru)」の語幹 oki- に可能を表す接辞 -rare- をつけた「起きられる(oki-rare-ru)」は現代において可能形の規範的な語形と認識されていますが、文化庁(2021)の調査によると、ra が抜け落ちた「起きれる(oki-re-ru)」などのら抜き言葉を使用する人は近年増加傾向にあることが明らかとなっています。一段動詞ではない「来る」もその可能形に -rare- が現れるため、同様に ra が抜け落ちる現象も見られます。このことから、ら抜き言葉には一般にカ変動詞の「来れる」も含まれます。
従来の規範的な語形 | ら抜き言葉 | |
起きる(oki-ru) | 起きられる(oki-rare-ru) | 起きれる(oki-re-ru) |
覚える(oboe-ru) | 覚えられる(oboe-rare-ru) | 覚えれる(oboe-re-ru) |
得る(e-ru) | 得られる(e-rare-ru) | 得れる(e-re-ru) |
来る(ku-ru) | 来られる(ko-rare-ru) | 来れる(ko-re-ru) |
接辞「-rare-」が持つ意味の負担軽減
形態の意味に注目すると、接辞「-rare-」は受身、可能、尊敬、自発の4つの意味を担っています。
(1) 大切な宝物を捨てられた。 (受身接辞「-rare-」)
(2) わんこそば100杯食べられる。 (可能接辞「-rare-」)
(3) 社長が来られました。 (尊敬接辞「-rare-」)
(4) 一日が短く感じられる。 (自発接辞「-rare-」)
しかし、ら抜き言葉に現れる接辞「-re-」は可能の意味しか持ちません。
(5) 客観的に物事が見れる。 (可能接辞「-re-」)
(6) また来れる時においで。 (可能接辞「-re-」)
(7) 油っこい料理を食べれない。 (可能接辞「-re-」)
「ら」を抜いた形「-re-」が可能専用の意味を持つ形態素として「-rare-」から分化し、もともと受身・可能・尊敬・自発の意味を担っていた「-rare-」の意味的な負担を軽減する言語変化と考えられています。
五段動詞の可能形からの類推
一段動詞の可能形に現れる可能接辞「-rare-」と五段動詞の可能形に現れる可能接辞「-e-」を比較すると、その形態は全く別です。
(8) 寝られる(ne-rare-ru) 可能接辞「-rare-」
(9) 踊れる(odor-e-ru) 可能接辞「-e-」
しかし、「ら」を抜いた形は五段動詞の可能接辞の形態にとても似ています。
(10) 寝れる(ne-re-ru) 可能接辞「-re-」
(11) 踊れる(odor-e-ru) 可能接辞「-e-」
このことからら抜き言葉は五段動詞可能形からの類推、すなわち一段動詞可能形を五段動詞可能形の形態に近づけさせ、可能の形を揃えようとする言語変化と考えられています。
参考文献
森山卓郎・渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』159頁.三省堂
文化庁(2021)『令和2年度「国語に関する世論調査」の結果について』17-20頁 → 魚拓
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