令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説
問1 他動詞と自動詞の境界線
格助詞「を」は3つの用法があります。これとっても重要。
(1) 窓を割る。 (対象)
(2) 橋を渡る。 (経路)
(3) 家を出る。 (出発点/起点)
(1)の他動詞「割る」という動作は、その働きかける対象を「を」で表します。
(2)(3)のように移動に関わる動きを表す動詞(移動動詞)は、その移動の経路や起点を「を」で表します。主体の移動を表す動詞は何かに働きかけることを表す動詞じゃないので、自動詞として扱われます。
このように「を」は対象、経路、起点の3つの用法があります。述語が他動詞であれば対象の「を」が現れ、述語が移動動詞であれば経路や起点の「を」が現れます。前者は他動詞、後者は自動詞です。
だから答えは3。
問2 直接受身文
能動文を作って直接受身か間接受身か見極めましょう。その際、省略されている補語をちゃんと補完することからはじめます。これをしないと正しい答えが出せないことがあります。
選択肢1
【受身文】Aが 友人に 無理な仕事を 頼まれた (補語3つ)
【能動文】友人が Aに 無理な仕事を 頼んだ (補語3つ)
→補語の数が同じなので直接受身。
選択肢2
【受身文】Aが 同僚の鈴木さんに 辞められた (補語2つ)
【能動文】同僚の鈴木さんが 辞めた (補語1つ)
→補語の数が合わないので間接受身。(「辞めた」影響が間接的にAに)
選択肢3
【受身文】Aが 5歳下の後輩に 先に 昇進された (補語3つ)
【能動文】5歳下の後輩が 先に 昇進した (補語2つ)
→補語の数が合わないので間接受身。(「昇進した」影響が間接的にAに)
選択肢4
【受身文】Aが 映画館で 隣の観客に 騒がれた (補語3つ)
【能動文】映画館で 隣の観客が 騒いだ (補語2つ)
→補語の数が合わないので間接受身。(「騒いだ」影響が間接的にAに)
直接受身だったのは選択肢1だけ。答えは1です。
問3 「Xガ 自動詞」「Yガ Xヲ 他動詞」
下線部Bにしたがい、各選択肢の左側が「Xが 自動詞」の文型をとり、かつ右側が「Yが Xを 他動詞」の文型をとるものを探します。
選択肢1
~が起きる (Xが 自動詞)
~が起こる (Xが 自動詞)
この2つはどちらも「Xが 自動詞」の文型をとるので下線部Bに該当しません。間違い。
選択肢2
~が~に~を預ける
~が~に~を預かる
「預ける」も「預かる」も「-が-に-を」型の3項動詞なので下線部Bに該当しません。
「預ける」は自動詞ですらない。この選択肢は間違い。
選択肢3
~が~を浴びる (Yが Xを 他動詞)
~が~に~を浴びせる
「浴びる」は他動詞文型をとるのでこの時点で間違い。「浴びせる」は「浴びる」の使役形なので能動文に比べて一つ補語が増え、「~が~に~を」型の文型をとります。
選択肢4
~が下りる (Xが 自動詞)
~が~を下ろす (Yが Xを 他動詞)
「下りる」は「私が階段を下りる」みたいに他動詞としても使えるけど、「幕が下りる」のような言い方をすれば意志的自動詞になります。とするとそれに対応する他動詞として「~が幕を下ろす」と言えます。「下りる」と「下ろす」はどちらも語幹に共通した部分 “or” があり、「Xが 自動詞」と「Yが Xを 他動詞」の対応があるのでこれが答え。
答えは4です。
問4 自動詞と他動詞のペア
自動詞と他動詞のペアがある動詞の意味的な違いがあるみたい。
とりあえず自動詞と他動詞のペアを用意しておきましょう。じゃあ「割れる」と「割る」で。
選択肢1
✕自動詞は静的な動作 → 「割れる」は動的
〇他動詞は動的な状態 → 「割る」は動的
選択肢2
✕自動詞は継続的な動作 → 「割れる」は瞬間的な動き
〇他動詞は瞬間的な動作 → 「割る」は瞬間的な動き
選択肢3
〇自動詞は変化を表す → 「割れる」は形状に変化を与えてます
〇他動詞は変化の原因 → 「割る」は形状変化の原因
選択肢4
✕自動詞は意志的な動作 → 「割れる」は無意志的な動作
✕他動詞は非意志的な変化 → 「割る」は意志的な動作
選択肢3だけ「割れる」「割る」を例に考えたら正しいものでした。
よって答えは3です。
問5 対応する自他動詞がない場合の穴埋め
↑で自動詞「割れる」と他動詞「割る」のようなペアになる例を挙げましたが、全ての動詞がペアになるわけではありません。例えば自動詞「降る」はそれに対応する他動詞が存在しません。他動詞「殴る」も対応する自動詞は存在しません。対応する自他動詞が存在しないってことは、その事態を表すときに使う言葉がなくて表せない! なんてことになりそうなものですが、実はそんな事態でも表せるような仕組みが日本語に備わっています。
自動詞 | 他動詞 |
---|---|
~が降る | ~が~を降らせる |
~が殴られる | ~が~を殴る |
対応する他動詞がない自動詞(無対自動詞)は使役形にすることで他動詞になり、対応する自動詞がない他動詞(無対他動詞)は受身形にすることで自動詞になります。こうして形態を変えることで意味上の穴埋めを行い補完しています。これを知っているとこの問題は簡単。
選択肢1
対応する自動詞がない他動詞(無対他動詞)は受身形にすると自動詞になる! これは正しい記述。
例えば「殴る」は「~が~を」の形をとるので他動詞ですが、受身形「殴られる」にすると「~が~に殴られる」となり、対象を「を」が現れない自動詞になります。
選択肢2
無対他動詞「殴る」は使役形にすると「~が~に~を殴らせる」になり、対象の「を」が現れています。これも他動詞です。間違い。
選択肢3
「降る」だとちょっと分かりにくいので、無対自動詞「走る」を使ってみます。「走る」は「私がグラウンドを走る」のように「を」が現れますが、これは対象ではなく移動の経路を表す「を」なので移動動詞、つまり自動詞です。これに対応する使役受身形は「走らせられる」で、例えば「私が先生にグラウンドを走らせられた」という文が作れます。この文には「を」がありますが、やっぱり移動の経路を表す「を」なので自動詞。自動詞は使役受身形にしても自動詞のままです。
「雨が降る」も「雨が神に降らせられる」のように使役受身にできますが、対象の「を」は現れません。この選択肢は間違い。
選択肢4
対応する他動詞がない自動詞、例えば「歩く」は、「歩かせる」と使役形にすることで他動詞になります。
意志的自動詞「歩く」は「歩ける」と可能形にでき、これは他動詞なのでこの選択肢は合ってそうですが… 「降る」のような非意志的自動詞はそもそも可能形は存在しません。この選択肢を正しく言い直すとすれば、「対応する他動詞がない場合は、意志的自動詞なら使役形あるいは可能形で他動詞になり、非意志的自動詞なら使役形で他動詞になる」です。
したがって答えは1です。
コメント
コメント一覧 (6件)
問3について調べました。
浴びるが自動詞としている辞書もあるそうです。
再帰動詞といわれ、動作主の働きかけが動作主自身に及ぶものだそうです。
ヲ格の表すものの移動の着点または起点が自分自身にあるということで、自動詞的な様子を示しているということが説明されていました。
辞書で分かれているものを試験に出すのはいかがなものかと思いましたね。
問3の答えは4かと。
私が下りる yが私を下ろす
とできて動詞の主語が同一で保たれるのは4だけ
例えば
私が浴びる yが私を浴びせる
ですと私の動きは異なりますよね。
Xの位置をわざわざヲ格に移動させてるのはそういう意図と思いました。
確かにそうですね。
Xの位置まで考えていませんでした。
Xの位置を考慮すると、下りる‐下ろすしか成り立たないですね。
でも、のんびり先生の説明にもあるように、下りるは意志的動詞なので、非意志的自動詞ではない気がします。
考えれば考えるほど、答えがない気がしてきました。
問3わたしも4にしました。
幕が下りる だれかが幕を下ろす にしましたが、おかしいですかね?
それだと、非意志的自動詞ですね。
考え付きませんでした。
ありがとうございます。
>ねぼすけ母さん
そうですか! 「階段を下りる」などを想定してましたが、「幕が下りる」なら確かにいいですね!
これで答えが4だということが分かりました~ 本当にありがとうございます!