令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説
問1 一人称代名詞
一人称代名詞は「私」「俺」「あたし」「僕」などの話し手を指し示す代名詞のことです。
各選択肢の中に一人称代名詞と同じように使えるものがあるかどうか探してみます。以下のような文に入れられたら大丈夫。
はそう思います。
1 自己はそう思います? 「自己」は一人称代名詞じゃない
2 自身はそう思います? 「自身」は一人称代名詞じゃない
3 自分はそう思います これが答え
4 自らはそう思います 「自ら」は一人称代名詞じゃない
答えは3です。
問2 人称代名詞を省略することができない場合
ここでいう人称代名詞とは、一人称代名詞、二人称代名詞、三人称代名詞全部を指してます。
選択肢1
指示対象が目上の場合、例えば目上の存在である「社長」に対して「あなたは何時に来られますか?」って言ったり、「社長」を指して「彼は何時に来られますか?」みたいな言い方はしません。通常は人称代名詞が省略されて「何時に来られますか?」と言います。人称代名詞の指示対象が目上の場合は省略されやすいのでこの選択肢は間違い。
(名前に敬称をつけて「田中社長は何時に来られますか?」などと言う場合もありますが、「田中社長」は人称代名詞じゃないです)
選択肢2
「彼」が今どこにいて何をしてるのか第三者に聞きたいような場面では「彼は今どこにいるんだ?」「彼は今何をしてるんだ?」みたいに言えます。このとき人称代名詞「彼」を省略することは難しい、というかおよそできないと思われます。
この選択肢が答え。
選択肢3
目の前に佐藤がいて、佐藤に近くの荷物を取ってもらいたい場面を考えてみます。
「あなたはそこの荷物取って」なんて言わないです。人称代名詞「あなた」は省略され、「そこの荷物取って」というのが普通です。人称代名詞の指示対象に直接行為を要求する場合は省略されやすいのでこの選択肢は間違い。
選択肢4
例えば自己紹介する場面で、「私は高橋です。私は青森出身です。私は20歳です」みたいに何度も人称代名詞「私」を連ねることはありません。このように指示対象に繰り返し言及するような場面では人称代名詞を省略します。選択肢は間違い。
したがって答えは2です。
問3 主語の人称が一人称に限定されている述部
各選択肢の下線部は述部を指しています。この述部に対応する主語が何であるかをはっきりさせて、それが一人称以外の人称代名詞、つまり二人称代名詞「君」や三人称代名詞「彼」に言い換えられるかどうかを確認します。
選択肢1
述部「考えている」の主語は「私」です。これを「君」や「彼」などに変えてみると…
(1) 君は毎日の努力が大切だと考えている。
(2) 彼は毎日の努力が大切だと考えている。
どちらも問題なさそうですね! 「考えている」の主語は一人称代名詞に限定されていません。この選択肢は間違いです。
(1)がちょっと変だと思った方、「君は毎日の努力が大切だと思っているようだけど…」みたいな文だったら大丈夫なはずです。だから問題ないです。
選択肢2
述部「楽しんでいる」の主語は「私」です。これを「君」や「彼」などに変えてみると…
(3) 君は毎朝テニスを楽しんでいる。
(4) 彼は毎日テニスを楽しんでいる。
どちらも言い換えられました。 「楽しんでいる」の主語は一人称代名詞に限定されていないのでこの選択肢は間違い。
これも(1)が変だと思う人がいるかもしれませんが、「君は毎日テニスを楽しんでいるようだが…」みたいにすれば大丈夫ですね。
選択肢3
この文は複文になっていまして、述語が「思う」「行かない」の2つあります。だからそれぞれの述語に対応する主語も2つあるはずなんです。しかしこの文には見た感じ「私」しか主語がありません。どうやらもう一つの主語は省略されているようです。省略されている主語を補って主節と従属節を分かりやすくするとこうなります。
【主節】私は~思う
【引用節】「(私は)多分卒業旅行に行かない」と
引用節の中の主語「私は」が省略されてます。ここに注意しないといけません。このうち述部「思う」に対応する主節の主語「私」を「君」や「彼」などに変えてみると…
(5)✕君は「(私は)たぶん卒業旅行に行かない」と思う
(6)✕彼は「(私は)たぶん卒業旅行に行かない」と思う
これはダメでした。「思う」の主語は一人称代名詞じゃないとダメなんですね。二人称代名詞や三人称代名詞を使うには述部が「思っている」などじゃないとダメ。
選択肢4
述部「違う」の主語は「私」です。これを「君」や「彼」などに変えてみると…
(7) 君は人付き合いが上手なあの人とは違う。
(8) 彼は人付き合いが上手なあの人とは違う。
どちらも問題ありません。「違う」の主語は一人称代名詞に限定されていないのでこの選択肢は間違い。
したがって答えは3です。
問4 尊敬語の主語
一人称代名詞、つまり自分に対して尊敬語を使うことはできません。「私がお話しになっているから静かにしてください」とか「私はお忙しいんです」「私のお名前は高橋です」みたいな言い方はできないですよね。尊敬語はその行為をする人、その状態にある人、その物事の所有者を立てるときに使います。そして立てるべき人物は自分より目上の人、あるいはソトの人です。自分自身は立てるべき目上の存在でもないし、ソトの人でもありません。だから自分に尊敬語は使えない。
一方、自分以外の人物が立てるべき人物であれば尊敬語を使うことができます。だから二人称代名詞、三人称代名詞は尊敬語の主語になり得ます。
(1) (あなたは)明日いらっしゃいますか。 (二人称代名詞)
(2) 彼は明日いらっしゃるんですか? (三人称代名詞)
したがって答えは1です。
問5 人称と指示表現の関係
選択肢1
(1) これを見てください。 (話し手の近くにあるものを指して)
話し手が話し手の近くにあるものを指す場合はコ系を使います。この選択肢は間違い。
選択肢2
(2) この時間は各自自習をしてください。 (話し手が現在時を指すとき)
話し手が現在時を指すときはコ系を使います。この選択肢は間違い。
選択肢3
(3) あの頃は楽しかったよね。 (話し手と聞き手が記憶を共有している場合)
話し手と聞き手が記憶を共有している場合はア系を使います。
選択肢4
(4) A:PUBGって知ってる?
B①:なにそれ。 (話し手が相手の話の一部を指す場合:無知)
B②:ああ、あれ面白いよね。 (話し手が相手の話を一部を指す場合:既知)
話し手が相手の話の一部を指すとき、そのことを知らなければソ系を使い、知っていればア系を使います。ソ系を使えるのでこの選択肢は正しいです。
答えは4です。
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